大江益夫氏『懺悔録』に対する通知書
光文社が本年8月20日に出版を予定している樋田毅氏の新著『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』に、赤報隊事件に勝共連合の関係者が関与していたかのような主張や、統一教会や勝共連合が危険なテロ組織であるとの甚だしい誤解を招く事実無根かつ荒唐無稽な記述が複数あることを確認したため、光文社と樋田氏に「通知書」を郵送しました。
※以下は国際勝共連合公式サイトから転載
https://www.ifvoc.org/news/notificationletter20240815/
冠省
当職は、国際勝共連合(以下「勝共連合」といいます。)の代理人として株式会社光文社(以下「光文社」といいます。)及び樋田毅殿(以下「樋田氏」といいます。)に対し、光文社が本年8月20日に出版を予定している樋田氏の新著『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(以下「本件書籍」といいます。)について、下記のとおりご通知申し上げます。
記
1 当職は、本件書籍の出版前のレイアウト済み原稿を関係者から入手し、その内容を検討しました。そこには旧統一教会の大江益夫元広報部長からの聞き取りと称して旧統一教会や勝共連合についての事実と異なる記述、とりわけ統一教会や勝共連合が危険なテロ組織であるとの甚だしい誤解を招く事実無根かつ荒唐無稽な記述が複数あることを確認しました。看過できない記述は次の4カ所です。
(1)「幻のクーデター計画」なるものについて
「国際勝共連合には、表向きの勝共運動とは別に、隠れた任務がありました。その隠れた任務を担っていたのは、私が仮に”武闘派“と呼んでいる人たちでした。彼らは銃を使った射撃・武闘訓練などに励む一方で、ソ連、中国、北朝鮮などの政府の関連機関に身分を隠して潜り込み、情報収集活動にも従事しました。(中略)ソ連などの侵略が始まった時に備え、強力な政府を樹立するためのクーデター計画の準備にも関わりました。三島由紀夫の『楯の会』と同様に、非合法的な危険な取り組みを続けてきたことは、やはり懺悔に値します。」(第6章「幻のクーデター計画」p.92)
(2)「諜報部隊」なるものについて
「国際勝共連合には諜報部隊もあって、危険な諜報活動に従事していました。」(第8章「旧統一教会広報部長の時代」p.140)
(3)「赤報隊事件」への関与について
「私の推測では、そうした(射撃や自衛隊での入隊訓練を積んでいた)武闘派、あるいは武闘派的な人間は四〇〇人ほどいたと思います。(中略)樋田さんが書かれた『記者襲撃』で、私の盟友だった河西徹夫さんが朝日新聞の取材に対して『赤報隊事件に統一教会が組織として絡んでいることはありえないが、組織の末端の信者が暴発した可能性までは否定しない』と発言していますが、私も彼と同じ意見です。」(第10章「赤報隊事件」p.162 -163)
(4)「裏部隊の動き」なるものについて
「武闘派のメンバーたちの一部は、ソ連や中国、北朝鮮などの政府の関連団体などに出入りして極秘情報を取る諜報活動も担っていました。(中略)こうした活動をしている人間の存在について、私は多少知っていました。それは、私が国際勝共連合の渉外局長として、自衛隊幹部との付き合いに加え、裏部隊の動きに関わる機会があったからです。」(第10章「赤報隊事件」p165)
2 まず、これらの記述が全く事実無根の虚構であることを繰り返し指摘させていただきます。旧統一教会にも勝共連合にも、かつて諜報部隊ないし武闘派などの裏部隊が存在したことはありません。隠れた任務や幻のクーデター計画なるものもデマの類です。赤報隊事件に組織的に関与したことはないとかねてより断言しているところであり、末端の信者による暴発の可能性もありえません。いうまでもなく、これらの記述は、旧統一教会及び勝共連合の社会的実存としての尊厳や名誉を甚だしく毀損するものであり、その社会的評価を徹底的に打ち砕くものです。しかも、旧統一教会等に対するこれまでの批判、すなわち、「霊感商法」、多額の献金の強要、正体隠しの勧誘などといった誹謗中傷とは、その反社会性の程度と質の次元を異にするものであり、旧統一教会及び勝共連合がサリン散布による無差別殺人事件を犯したオウム真理教と同等の危険な団体であるとの印象を世間にばら撒くものです。
3 本件書籍の著者である樋田氏やその発行所である光文社は、記者としての活動と出版事業の経験並びに表現の自由に自覚的に携わるものの矜持として、公に出版される書籍の記述が、その対象とされた他者の尊厳と名誉を毀損する危険を孕むものであり、その危惧ある場合、たとえそれが公共の利益に関する世間の関心事であっても(そうであれば尚更)、確たる事実ないし根拠に基づくものでなければならないという社会規範は弁えておられるはずですが、本件書籍の前記各記述は、その「最低限のルール」にすら違反しているということ。それが本書指摘の要点です。
周知のように、2023年10月、旧統一教会に対する宗教法人法に基づく解散命令請求が文部科学省から東京地裁に申し立てられ、現在、同裁判所の民事第8部にて審理されている中、当事者である旧統一教会及びその関連団体の実態が社会的関心事になっていますが、そのような時であるからこそ、事実的根拠が不確かであって世間の誤解を招き、あるいは、それを強化増大させかねない煽情的で無責任な表現は、殊更に慎重を要し、厳に差し控えるべきだと当職は考えます。
4 思うに、本件書籍は樋田氏が大江氏から聞き取った発言に基づくという体裁をとったものですが、前記した「幻のクーデター計画」なるもの、「諜報部隊」なるもの、「赤報隊事件」への関与、「裏部隊の動き」なるものの記述は、それが事実とすれば、いずれも勝共連合の組織や活動に関わる機密事項であり、旧統一教会の広報を担当するにすぎない広報部長の知り得るところではありません。元広報部長の肩書は大江氏の前記各記述の信用性を担保するものではないということです。
その点、本件書籍では、大江氏が勝共連合の渉外局長という要職にあったという事実が、就任の経緯とともに記述されており、そのことが大江氏の推測ないし想像として語られている前記各記述の真実性ないし信用性(意見論評の相当性を基礎づける前提事実の真実性ないし信用性)を裏付ける上で重要な根拠とされ、他に、これら記述の真実性等を基礎づける具体的事実は一切示されていません。すなわち、本件書籍にある前記各表現の真実性等の如何は、大江氏が勝共連合の渉外局長の要職についていたという一事に依拠しているといっても過言ではないのです。
5 ところが、その肝心要の事実が偽りなのです。大江氏がかつて勝共連合の渉外局長に任命されたという事実はありません。渉外局長はおろか他の勝共連合の役職についたことさえないのです。これは本件書籍の信用性にとって致命的な事実です。『懺悔録』と銘打たれた本件書籍において大江氏が語る勝共連合及びその活動に関する発言は、架空の事実に基づく全くの虚構です。
簡潔に論証します。
本件書籍には、大江氏が渉外局長に任命された事実について、「大江さんは1979年、約三年間の研究・執筆生活を終え、国際勝共連合の渉外局長に抜擢された」とあり、それが「実力者である勝共連合事務総長、宮下さんの人事」であって大江氏がとりまとめたスパイ防止法の論文を「宮下さんが評価した」からだという経緯が記述されています(p.101)。
しかしながら、当該記述は、以下の客観的事実と相いれません。
(1)勝共連合の渉外局長に任命されたことがないこと
本件書籍には、1979年に大江氏が渉外局長に就任したとの事実が記述されているが、1979年当時の渉外局長は、久井俊一氏である。同氏は1979年8月に久保木修己会長から渉外局長に任命され、1981年8月には久井局長の下で渉外部長を務めていた横田浩一氏が渉外局長に昇格し、1992年までその任にあたっていた。因みに、横田氏は赤報隊事件が勃発した1987年5月当時の渉外局長でもあった。
これらの事実は、久保木勝共連合会長が発した久井氏に対する辞令(1979年8月1日付)及び横田氏に対する辞令(1981年8月1日付)をもって確認することができる。
(2)渉外局長に任命された経緯に関する事実の齟齬
本件書籍には、1979年に大江氏が渉外局長に選任された経緯として、当時の勝共連合の事務総長であった宮下昭彦氏による任命であったことが書かれている。しかし、1979年当時の勝共連合の事務総長は宮下氏ではなく、梶栗玄太郎氏であり、宮下氏が勝共連合の事務総長に就任したのは1981年10月のことであった。
これらの事実は、久保木勝共連合会長が発した宮下氏に対する辞令(昭和56年10月1日付)及び勝共連合の機関誌「思想新聞」の諸々の記事(例えば、1979年1月1日の梶栗氏の「新年の御挨拶」及び1982年1月1日の「勝共連合の活動報告と年頭の指針」。例えば「年頭のあいさつ」など)をもって確認できる。
つまり、大江氏が1979年に宮下事務総長から渉外局長に任命されたという発言は客観的事実に矛盾しており、ありえないことなのです。このことはすなわち、本件書籍において大江氏が樋田氏に懺悔したとされる発言は、肝心要のところで、事実に反する虚構であり、根本的に信用性に欠けるものと言わざるをえません。大江氏の発言の多くは推測や想像の形をとった意見論評ですが、それは事実的基礎のない架空の虚構に基づく憶測ないし誇大妄想とでもいうべきものでした。
6 更に、本件書籍については、樋田氏による一切の事前の裏取り取材がなかったという前記した「最低限のルール」に対する違反がありました。この点、樋田氏がいかに弁明されるおつもりかは知る由もありませんが、仮に、旧統一教会もしくは勝共連合に対し、事前の取材があれば、大江氏がかつて勝共連合の渉外局長はもちろん他の役職についたことすらないという事実は、ただちに判明したはずですし、本件書籍のような不用意な記述は避けられたはずでした。著述の対象たる相手方への取材は、著作物の公表における「最低限のルール」であるだけではなく、報道の鉄則でもあるはずです。元朝日新聞の記者であった樋田氏がこの鉄則を怠ったことは甚だ遺憾に思います。
加えて、前記記述⑶(赤報隊事件への関与)については、大江氏に「樋田さんが書かれた『記者襲撃』で、私の盟友だった河西徹夫さんが朝日新聞の取材に対して『赤報隊事件に統一教会が組織として絡んでいることはありえないが、組織の末端の信者が暴発した可能性までは否定しない』と発言していますが、私も彼と同じ意見です。」と語らせていますが、これは樋田氏の創作ないし誤導によるものです。なぜなら、本件書籍の出版の噂を耳にした前述の横田氏は、大江氏を訪れ、赤報隊事件への関与にかかる大江氏の誤解を正し、大江氏は勝共連合の関係者が実行犯であった可能性がないことを納得しています。
ところが、入手した原稿は、上記のとおりであり、「末端の信者が暴発した可能性までは否定しない」という関与の可能性を肯定するかのような表現になっていました。取材を受けたという河西氏に確認したところ、末端信者の暴発の可能性に言及した覚えはないとのことでした。
また、樋田氏の『記者襲撃』の記述にあたると、当該箇所は「α連合あるいはα教会が組織として朝日新聞社の事件に関わっていたという事実はない。当時、α連合の中枢にいた人間として断定できる。ただし、末端の信者が暴発した可能性まではわからない」(同書p.186)となっており、大江氏による引用とニュアンスが異なります。特に「可能性まではわからない」という不可知表現と「可能性までは否定しない」という部分否定による反語表現とでは一般読者の印象は大きく変わりうることはいうまでもありません。樋田氏による作為的な意図を感じる所以です。
7 以上のとおりです。よって当職は、光文社及び樋田氏に対し、本件書籍の出版につき、前記4か所の記述の削除又は変更を求めます。貴殿らがこれに従わず、該当箇所の記述を削除・変更することなく本件書籍を出版された場合、当職は然るべき法的措置をとることになります。新聞やテレビ等で本件書籍を扱う場合、それが樋田氏による場合はもちろん、第三者がコメント等する場合であっても、真実性の欠けた前記各記述に決して言及することのないよう関係者への周知等の御配慮を徹底されますようご注意申し上げる次第です。
なお、当通知書は、勝共連合の公式サイトに掲載される予定ですので、ご承知置き願います。
以上