マーケティングに悩んでいる人にとって、書籍「顧客起点マーケティング」が必読書な理由
皆さんは、最近西口さんが出された書籍「顧客起点マーケティング」は読まれましたでしょうか?
マーケティングの本はいろいろありますが、この1冊は間違いなく現在のマーケティングに携わる方は必読の本だと言えると思います。
4月に出版された本ですし、書評はたくさん書かれてるので、細かい内容についてはそっちを読んでもらった方が良いと思いますが。
とにかく、凄い本です。
ゴールデンウィーク中にザッと読んだんですけど、内容がめちゃ盛りだくさんで、繰り返し何度も読まないと理解したとはとても言えないタイプの本なんです。
正直、私の文章力ではこの本の凄さを上手く説明できないレベルなので、本のページの写真をいくつかご紹介します。
例えばロイヤル顧客をトップに描くピラミッドの図が書籍の中に出てくるんですけど。
まぁ、こういう図は良く見ますよね。
2:8の法則とか、売上の80%は20%のロイヤル顧客が生み出すとか。
私自身もファンやアンバサダーを一番上にしたピラミッドの図を使いつづけているので、思考回路が似てて嬉しくなるわけですが。
でも、この本ではこれで終わりません。
さらにこんなチャートがついてきます。
「各セグメントに対する施策の把握と費用の計算方法」ですよ、お客さん。
めっちゃ論理的で具体的に、分析方法や考え方が書かれていくんです。
左上のチャートとか、通常の企業では20%の売上をあげるために80%の費用と労力をかけている状態というのを図示してます。
もう一つ見せましょうか?
これは書籍の中に出てくる「9セグマップの顧客分析」という顧客を認知や購買の状態と、ブランド選好の姿勢でマトリックス化したものなんですけど。
これだけでも十分初めて見るチャートじゃないですか。
十分だと思うじゃないですか。
でも、この後このチャートを使ってこんな感じで、何をやると何が起こるかというのを丁寧に解説してくれるわけです。
例えば、この図では「貨幣的価値訴求戦略のリスク」、つまり値下げによって無理矢理お客さんを増やそうとする行為のリスクを可視化してくれてます。
半額キャンペーンとかやれば、一見未購買顧客や離反顧客が一般顧客になったように見えるけど、実は値段で選んでるだけなので、ブランド選好的には、下に下がってしまうという図です。
こんな、上下に分けるという発想自体、今まで考えたこともなかったですが、めっちゃ納得感あります。
また、この書籍では、おまけ的な扱いになってますが、最後のアプリビジネスの統合マーケティングのチャートとか凄いです。
チラッと見せるとこんな感じ。
個人的にも、マスマーケティングと、いわゆる口コミや紹介のサイクルによるグロースハック的なAARRRモデルをどう組み合わせれば、アンバサダープログラム的な活動をマスマーケティングをされてる方にイメージしてもらえるか、というのは長年の課題なんですが。
ここにヒントがある気がしてます。
私も僭越ながら2年前に「顧客視点の企業戦略」という本を書かせて頂きまして、「顧客視点」と「顧客起点」でこの本とタイトル的には近いんですけど。
ちょっと書籍の具体的さとか深さのレベルでは、全く比較対象にならないです。正直、顧客視点という似たような単語を使ってしまったのが恥ずかしくなるレベル。
しかも、書籍中のチャートは画像データで全部ダウンロードできる上に、9セグマップとかをするためのエクセルシートのファイルもダウンロードできるようになってます。
お得です。というか必読です。
詳細は是非、本を買って読んで下さい。
と、ここで終わってしまうと、なんか通販番組みたいな感じで終わってしまうので。
ここまで読んで頂いた方のために、本の価値を簡潔に説明するのが私にはできない代わりに、西口さんがどんだけ凄い人かという裏話をコッソリご紹介しておきたいと思います。
私が初めて西口さんにお会いしたのは、もう今から8年前、2011年5月のimediaブランドサミットでした。
もはや当時のウェブサイトも残っていないので、ほとんど履歴が追えないんですが、当時のツイートにダイワハウスの大島さんが投稿した写真を見つけたので転載しておきます。
(まだツイッターに写真投稿機能がなかったのが、時の流れを感じますねぇ)
クライアントの方々と、3泊4日でフラットに議論ができるこのブランドサミットという合宿型のマーケティングイベント自体、個人的にめちゃめちゃ大きな影響を受けましたし、ここが起点となってアジャイルメディア・ネットワークはソーシャルメディアマーケティングではなく、アンバサダープログラムの会社になっていく決断が生まれるんですが。
その中でも個人的にメチャメチャ印象的だったセッションの1つが、このオープニングセッションでした。
当時ロート製薬のマーケティング責任者だった西口さんが、当時花王にいた本間さん、当時ユニリーバにいた山縣さんと一緒に登壇し、いきなり英語で議論が始まるんですよね(笑)
あの衝撃は忘れられません。
やっぱ大企業でマーケティングのトップをはってる人たちって凄いんだなぁと、勝手に憧れていたのをよく覚えてます。
昨年、P&G出身者の方々をネタにした記事を書きましたが。
実はその「P&Gマフィア」の中で、一番最初に深く話を聞かせて頂いたのが西口さんでした。
その後、ブランドサミットでお会いする度に、いろんなことを西口さんには教えて頂いてたんですが、とにかく凄いのは超絶論理的に打ち手を整理してるところ。
象徴的だったのがキャリアチェンジで。
個人的には西口さんをマーケティングのプロとして尊敬してみてたのに、ある日、西口さんが言うんですよね。
「徳力さん、もう日本だとマーケティングだけやってても、これ以上伸びないと思うから、自分で辞令書いて営業側見ることにしたんだよね」って。
ビックリしますよね。
マーケティング本部長ですよ。
カンブリア宮殿の放送で、会長の横に当然のように映り込んでる人ですよ。
そもそもマーケティングでキャリア積んでる人が、自分で積極的に営業に行く辞令書くとかって、聞いたことないじゃないですか。
しかも外資系のP&G出身のバリバリのマーケの人で、ロート製薬にマーケティング職として転職して、肌ラボを日本一の化粧水に伸ばした人ですよ。
マーケティングから営業に変わろうとか、絶対思わなそうじゃないですか。
どっちかというとマーケティングでキャリアを積もうと思ってた若い人が、現場を勉強して来いって営業現場への辞令おりたから辞める、というケースが日本企業でも増えてる印象すらあるぐらいなのに。
でも、そのまた1年後とかにお会いしたら
「徳力さん、やっぱり日本はマーケとかデジタルとか言ってても、まずは小売の現場から変えてかないとダメだ。今の日本は小売と一緒に売り場変えた方が利益にインパクトすごい出る」とか、言ってるわけですよ。
この人は、自分のやりたいとかよりも、結果を出すことに論理的にコミットする経営者肌なんだなぁと思って話を聞いてたら。
気がついたらロクシタンジャパンの社長に転身され、
ロクシタングループの過去最高利益達成に貢献されるわけです。
で、なんかのセミナーの後に久しぶりに遭遇したので、お茶しながら話を聞いてたら
「徳力さん、やっぱりモチベーションって大事だよ。お店をまわってスタッフと話をしてまわると、ちゃんと翌日から売上もついてくるんだよ」とか、言ってるわけですよ。
経営者ってこういう人が向いてるんだよなぁ。
あーやっぱり、この人はこのまま社長として、次々に大きい会社を任されていくようになるんだろうな、と思っていたら。
なんとびっくり、スマートニュースに転身されるんですよね。
で、どちらかというとグノシーに押され気味だったスマートニュースに見事に再度エンジンを点火するのに成功されるわけです。
どこ行っても成功するのが凄いですよね。
ちなみに、西口さんが転職した当初は、グノシーとかに比べるとスマートニュースはテレビCMにあまり積極的な印象なかったですからね。
(一度テレビCMをされてましたが・・・(遠い目))
それが、西口さんのテレビCMを軸にしたマーケティングで、いまやスマニューはテレビCM活用の大成功事例の代表例になってしまったわけです。
すごいですよね。
最近は、パズドラとかモンストのCMより、明らかにスマニューの方が良く見る気がします。
さて、改めて西口さんの一連のキャリアチェンジを振り返って、ここに論理構造が見いだせる人はいますでしょうか?
実は、西口さんの中ではあるんですよ。
以前、2017年のマーケティングアジェンダで、P&Gのようなマーケティングドリブンの会社と、一般的なマーケティング不在といわれる日本企業は何が違うのかという議論が展開されたことがあります。
その時の西口さんが、議論を整理するために提示していたのが、日本企業、外資系企業ではなく、企業をステージ毎に
1)スタートアップ時
2)ブランド確立して急成長時
3)安定頭打ち時
4)そこからの脱却と新成長時
と分類すべきという指摘でした。
通常は、1や2の間は、創業者が現役で、創業者を軸に企業が成長することができます。
しかし、3や4のフェーズに入ると、創業者だけでは目が届かない事も増えてきますし、経営者も代替わりしてサラリーマン社長が継ぐことになりがちです。
そうすると、企業文化がかわり大企業病に陥りがちなので、そこをP&Gは個人による本能的なマーケティングではなく、組織全体をマーケティングドリブンにする構造変換に取り組み、成功したわけです。
しかし、日本企業は戦後の好景気で2の期間が長すぎちゃったので、3や4に向けた組織のステップアップや構造転換ができずに時間が経ってしまい、顧客よりも上司の顔色ばかりを見るようになり、今会社として苦しんでいるところが多いのではないか、というのが西口さんと話して、個人的に納得できた結論でした。
(参考:あなたの会社は、上司が間違っていた時に、平気で部下が間違いを指摘することができるか?)
で、西口さんは3も4も経験したから、1と2「も」経験するために、スマートニュースにキャリアチェンジされたということだったんですよね。
自らのキャリアアップに関しても、超絶論理的な人なんだなと、めちゃめちゃ腹落ちしてしまった逸話でした。
ちなみに、初めて西口さんにお会いした時には、頭も良いしめちゃめちゃロジカルだし、マーケティングの責任者だし、昔仮面ライダーに出てましたって言いそうなイケメンだし、天は二物を与えず、なんてウソだなぁとかしみじみ思ってた記憶があるんですけど。
今回の「顧客起点マーケティング」の後書きに、実はその西口さんも29歳の時に大きな挫折を経験したという逸話が書かれています。
マクドナルド復活の立役者として有名な足立さんと西口さんはP&Gの同期だそうなんですけど、2人の対談で、実は2人を比較すると足立さんがロジック派で、西口さんが思いつき派だったらしいんですよね。
もちろん、足立さんがロジック派すぎるという比較論なんだと思いますが、あの西口さんがロジック派に分類されない、というのが個人的には意外すぎる逸話です。
おそらくは、西口さんも最初から今のような完璧な人間だったわけではなく。
挫折を経験しながら、何度も挑戦をして、考えて積み上げて、また挑戦してと言う努力を続けた結果、今のような完璧に見える存在になったんだろうな、と思ったりするわけです。
今回の書籍「顧客起点マーケティング」は、そんな西口さんが27年間にわたって模索した、「マーケティング」が論理的にかつ具体的に整理して書かれている本です。
正直、私も全ては消化し切れていませんが、西口さんの27年を数時間の読書で追いつこうというのが甘い考えなのかなと思ったりもします。
ある意味、西口さんの27年間がこの一冊に詰まっているわけですから。
この「顧客起点マーケティング」は、今の西口さんが29歳の時の悩んでいる西口さんに向けて書いた本。
そういう意味で、今、マーケティングに悩んでいる方にとって、必読の一冊になっていると思いますので、10年以上かけて身につけるつもりで是非どうぞ。
追伸:
ちなみに、7月10日(水)に、西口さんにアジャイルメディア・ネットワークのイベントに登壇してもらおうと画策中です。
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