WBCの挑戦に学ぶ、スポーツとネット動画の新しい組み合わせ
侍ジャパンの見事な優勝から、もう2週間以上になります。
プロ野球は開幕したものの、「WBCロス」や「侍ジャパンロス」になっている方も少なくないのではないでしょうか。
なにしろWBCにおける日本戦は、7試合連続で世帯視聴率40%超え。
日本における野球の根強い人気が証明された大会だったとも言えるでしょう。
ただ、実は今回のWBCでは、運営側が様々な新しいネット活用の挑戦をしていたのをご存じでしょうか。
今回のWBCは明らかにネット動画活用に大きく舵を切っており、従来のWBCとは異なる楽しみ方ができるようになっているのです。
■アーカイブ動画は、Amazonプライムビデオで視聴可能
まず多くの方がご存じの話で言うと、今回のWBCの中継は地上波のテレビ放送だけでなくAmazonプライムビデオでも生中継されており、スマホやパソコンなどでも視聴することができました。
その関係で、大会直前にはAmazonプライムビデオ専用の特別映像も公開されていたようです。
もちろん、こうしたネット配信の強化はオリンピックでも、サッカーW杯でも実施されており、いまや普通の話にはなりつつあります。
ただ、やはりWBCがスマホでも見られるということは、今回のWBCの盛り上がりにおいて非常に重要だったと言えると思います。
実際に今回のWBC決勝のライブ中継はAmazonプライムビデオの歴代1位の視聴数になり、特に若い世代の視聴が多かったのが特徴だったようです。
残念ながら視聴の実数値は公開されていませんので、その規模は想像するしかありませんが、テレビで生中継がされていても、やはりテレビ以外の端末で視聴したいというニーズが存在することが明確になったと言えます。
■スタジアム目線のカメラで臨場感をアップ
なお、今回の大会ではAmazonプライムビデオが日本でのネット側での配信権を獲得した関係で、テレビ局のツイッター公式アカウントも、ほとんど試合の動画を投稿しなかったのは残念な点でした。
特にサッカーW杯において、ABEMAがW杯専用の公式ツイッターアカウントや公式YouTubeアカウントを開設し、頻繁にハイライトを投稿していたことに比較すると、Amazonプライムビデオはツイッター上での大会の盛り上がりに全く貢献していない状態です。
ただ、その代わりに日本のツイッターユーザーに重宝されていたのが、WBCやMBLの公式ツイッターアカウントが投稿していた動画の数々でした。
特に象徴的なのは、準決勝のサヨナラのシーンにおいて、周東選手がホームに帰ってきた直後にスタジアムに飛びこんで、日本選手の歓喜の姿を捉えた映像でしょう。
反対側にも同様のカメラがあり、カメラマンが飛び込んでくる様子も映り込んでいます。
こうした新しい撮影角度での動画を、多数リアルタイムに公式ツイッターアカウントが投稿してくれたおかげで、生中継を観ていた方はもちろん、観ていなかった方も臨場感ある雰囲気を味わうことができていたと思います。
■公式YouTubeで試合の動画を無料公開
さらに、WBCでは今大会からYouTubeにも大きく力を入れるようになったようです。あまり日本では知られていませんが、実はWBCの試合は一定日数が経った後にYouTubeにフルで試合がアップされています。
例えば、大谷選手の特大ホームランが印象的だったオーストラリア戦はこちら。
ホームランのシーンはもちろん、試合開始前から終了後まで、まるまる2時間半の動画が無料で公開されているのです。
また決勝戦は、なぜかWBCではなくMLBの公式YouTubeにアップされていますが、こちらも最初から最後までフルで試合を観ることができます。
また、実は過去大会の試合もフルでYouTubeにアップされています。つまり2009年大会の、決勝戦でのイチロー選手の逆転タイムリーのシーンも、そのハイライトだけでなく4時間近い動画をフルで観ることができるわけです。
WBCとしては、過去のアーカイブは、無料で開放する方が長い目で野球ファンを増やすことにつながるという判断をしているのかもしれません。
■YouTubeの「切り抜き動画」にも挑戦
さらに、今回のWBCで最も先進的な取り組みだったのは、公式映像を元プロ野球選手やファンが活用できるという、いわゆるYouTubeの「切り抜き動画」を日本でもカーネクストのスポンサードで実施していた点です。
一般的に日本では、映像素材は著作権でなく肖像権の問題もあるため、「切り抜き動画」に対しては保守的な姿勢を取っている著作権者の方が多いのが現状です。
それが今回のWBCでは、「OUR MOMENTS」という企画で、公式映像をYouTubeに活用できるクリエイターが23組選抜。
上原浩治さんや江川卓さん、古田敦也さんなどの超有名プロ野球OBから、公募で選抜された一般クリエイターまで、様々なクリエイターの方が大会前から大会終了後までたくさんの動画を作成されているのです。
どちらかというと、ネット界隈でしか実施されていない「切り抜き動画」が、WBCのような世界的な大会のコンテンツで実施できたというのは、日本のYouTubeにおいては非常に画期的なことだったと思います。
まだまだ、日本のスポーツリーグでは、今回のWBCのようにYouTubeに過去の試合の動画を無料で公開したり、「切り抜き動画」を積極的に許容しているケースは少ないと思います。
ただ、こうした動画の数々が、今回のWBCの盛り上がりに貢献していたことは間違いありません。
是非、日本のスポーツリーグにも、今回のWBCのネット動画活用の挑戦に学び、日本のスポーツファンが参加しやすい動画活用を模索していただきたいと思います。