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広告やマーケティングに携わる人に、書籍「心が分かるとモノが売れる」を必ず読んで欲しい理由

皆さんは、もう鹿毛康司さんが出された書籍「心が分かるとモノが売れる」は読まれましたでしょうか?

タイトルに広告ともマーケティングとも入っていないので、その手のノウハウ本を探している人はスルーしがちかもしれませんが、この本は広告やマーケティングに携わる人にこそ必ず読んで欲しい1冊です。

すでにAmazonでも大量のレビューが書かれていて、非常に高い評価になっていますので、本についての概要はそちらをご覧いただければと思いますが。

こちらの記事では、なぜ、広告やマーケティングに携わる人は、この書籍を必ず読むべきなのか、という話を書いておきたいと思います。

私にとって著者の鹿毛康司さんは、初遭遇から12年が経とうかという長い間おつきあいさせていただいていて、勝手に師匠と仰いでいる人の1人です。

鹿毛さんと私のこの12年間の軌跡は、以前にまとめた記事があるのでご興味があれば読んでいただければと思いますが、個人的に鹿毛さんに唯一たてついたことが1度だけあります。

それは、2017年に開催されたマーケティングアジェンダという4日間の宿泊型イベントの時のこと。

そのイベントでは、P&Gの伊東さんを中心に、元P&Gの方々のマーケティングロジックの話が4日間ずっと軸になって展開され、めちゃめちゃ勉強になる時間だったのですが。

イベントの際に鹿毛さんが、自分の取り組みの話をする際に、多分恥ずかしがって自分のやり方を少し丸めてお話しされてたんですよね。

で、私はそれを見て、つい夜の飲み会で鹿毛さんにたてついてしまいました。

鹿毛さんのメモによると、私の発言はこんな感じ。

「鹿毛さん、いつもおちゃらけてササ〜と感性でやっているみたいな話かたするけど、本当のところの思考をちゃんと言わないと、ああやればいいんだと勘違いしますよ。ちゃんと話しないと」

いや、私の記憶の中では、もっと本当は柔らかく言ったんだと思うんですけど、酒の勢いですかね、師匠の鹿毛さんにたいして、とても失礼な物言いなんですが(汗)

この12年間、鹿毛さんの活動を斜め後ろから拝見させて頂いて、しみじみ感じているのは、鹿毛さんほど人の「心」のことを真剣に考えて広告やマーケティングに取り組んでいる人はいないということです。

ただ、当時の鹿毛さんは、ご自身がシャイなのもあって、典型的な能ある鷹は爪を隠す状態。
実は、鹿毛さんはMBA的なマーケティングのロジックもちゃんとアメリカで学ばれた上で、日本的な組織に合わせた日本らしいマーケティングをつきつめて現在のスタイルに辿り着いた方なんですが。

その広告の作り方が、ご自身で音楽を作曲したり、いかにも感性から作った感じの天才肌の作り方なので、遠目に見るとすごい誤解されがちで、勝手な弟子の一人として、師匠がまわりに誤解されるのをイライラしていて、その夜はつい鹿毛さんに噛みついたんだと思います。
(実際にその4年前の2013年のブランドサミットというイベントで、鹿毛さんの発言が若手クリエイターに誤解されて、その誤解を解くために「カゲテック」というイベントが開催されるなんて歴史もありました。)

私からすると、鹿毛さんって桶狭間の織田信長だったんですよね。
P&Gとか花王という巨大なライバルに、エステーという小国で渡り合うために、あえてうつけものを演じている戦略家。

でも、これまでは、御本人がシャイだし、エステーの執行役員だったのもあり、なかなかその本音を私たちに見せてくれることが少なかったわけです。

今回の書籍「心が分かるとモノが売れる」では、そんな鹿毛さんが多分自分の恥ずかしさをかなぐり捨てて、私たちのために本当の鹿毛さんの「心」の中をすべてさらけ出してくれています。

鹿毛さんは2012年にも「愛されるアイデアのつくり方」という本を出されていて、この本でもある程度鹿毛さんの「脳」のプロセスは開示してくれていたのですが。
まだこの時は、鹿毛さんの本音の所はいくつもオブラートに包まれていたんですよね。

今回の書籍「心が分かるとモノが売れる」では、鹿毛さんも独立されてかげこうじ事務所の代表になられたことも大きいのか、ここまで書いちゃうんだと私も驚くほど、赤裸々に鹿毛さんのこれまでの試行錯誤のプロセスや事例を言語化してくれています。

あえて書籍のタイトルにはマーケティングや広告色を出していませんが、第1章で「マーケティングは「心」である」とはじまるように、これは広い意味での未来のマーケティングを考えるための書籍です。
当然ながら書籍の冒頭ではマーケティングの基本もしっかりカバー。

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そして、論理的正しさやリサーチ結果に頼りがちな狭い意味での「マーケティング」や、ついついエクセルでの数字ばかりをおいかけてしまいがちな現在の狭い意味での「デジタルマーケティング」を超えるために、いかに「心」というものを考えるべきかという、鹿毛さん自身が20年以上試行錯誤してきた考え方を事例とともに丁寧に解説してくれているのです。

特に、この書籍で鹿毛さんらしさが全開となっており、皆さんに立ち読みでも良いので是非読んでいただきたいのが、第6章の「企業にも「心」がある」というパートです。

この章では今「心」を本当に大事にする鹿毛さんの原点となっている雪印での経験と、今や鹿毛さんの代名詞となっている東日本大震災後のミゲルのテレビCMの逸話が綴られています。

日本中が暗いムードに包まれ、テレビCMがすべて公共広告でしめられるという異様な状況の中、鹿毛さんは震災5日後にして、自分ができることは、コマーシャルを作ることだと自分を奮い立たせ、「日常にもどろう」をテーマにコマーシャルことを決意されます。

今だからこそ、私たちはこのコマーシャルの決断を誰もが気軽に評価することができますが、当時の状況を考えると、それがいかにリスクの高い決断だったかは想像に難くありません。

この本では、このコマーシャルが生み出される過程のエステー鈴木会長の覚悟、そして鹿毛さんが震災直後の混乱の中全役員に送ったメールの文面も公開してくれています。

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この2つの逸話を読んでいただければ、鹿毛さんが単に天才肌で面白CMを作り続けている方ではなく、注意深く顧客や世の中の人々の「心」に思いを寄せ、実は常に広告というもののリスクを意識しながら、仕事をされていることが、分かっていただけると思います。


恥ずかしがりで、自分の成功についてはあまり多くを語りたがらない鹿毛さんが、ここまで自分のメールの文章や「心」の中までさらけだしてくれているのはなぜなのか。

おそらくは、最近の「広告」や「マーケティング」に関わる方々が、目先の成果やKPIに引っ張られて、時に顧客や人々の「心」を忘れた行為に走りがちな傾向に、鹿毛さんなりに一石を投じたかったのではないかなと感じていたりします。


2017年の私の反発に応える訳ではないと思いますが、翌年の2018年にP&Gを退職された伊東さんとエステーの鹿毛さんが、ファブリーズと消臭力のマーケティング戦略の歴史について振り返るセッションを開催してくれたことがあります。

その際、光栄にもセッション後の番外編の質問者を担当させていただいた時に話題になったのが、P&G的なロジカルなマーケティングは再現性があるが、鹿毛さんのミゲルのCMのようなアプローチは属人性が強すぎて再現性がないのではないか、という議論でした。

今回の書籍「心が分かるとモノが売れる」は、この時の議論に対する鹿毛さんなりの答え、なのではないかなと感じています。

そういう意味で、この本は日本らしい「心」を重視したマーケターである鹿毛さんの人生やノウハウがまるまる詰まっています。

この本を読んで、日本に「心」を理解して、従来のマーケティングを超えるマーケティングに取り組んでくれるマーケターが増えてくれれば、日本のマーケティングや広告はもっと面白くなるはず。
広告やマーケ業界の方々には、必ず読んでいただきたい本なのです。

是非、一人でも多くの人にそんな鹿毛さんからの「心」のバトンを受け取ってもらえればと思います。


追伸
6月11日(金)には鹿毛さんと出版記念イベントを実施させていただきました。
ご興味のある方は是非ご覧下さい。

ちなみに、このイベントに合わせて鹿毛さんに無理矢理noteに自己紹介記事を書いてもらいましたので、こちらも合わせてどうぞ


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徳力基彦(tokuriki)
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