筺底のエルピスを読んでくれ

筺底のエルピス(オキシタケヒコ/小学館GAGAGA文庫)を読んでくれ、という話をしたい。
Amazonで買うならURLはこれだ。 https://www.amazon.co.jp/dp/4094515275/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_xcr.BbE8TSESW

まずはじめに、あなたはこのテキストを読むのをいつやめても構わない。
むしろ今すぐにこのテキストを閉じて1巻を購入し、そのままこのテキストの存在など忘れ去ってしまうならその方がいい。
そうしなければ、あなたがまったく情報を知らずに読む事は永遠に失われてしまうからだ。
どこかひとつでも「面白そうだ」と思ったところがあったなら、どうか途中で読むのを止めて購入してほしい。
きっと損はしないだろうから。

なお筆者は作者とも小学館とも関係ない。
正直言って売れたところで関知できる立場にないけれど、面白いので読んでくれ。
普段のTwitterならどこで買うかは選んでね、とばかりにAmazonリンクだって貼らないのだけれど、このタイトルだけは売れてほしいので入れた。売れてほしい。売れろ。


リンクを開いてもらうとわかる通り、イラストはtoi8先生だ。
擦れの多い画風で、夜の暗さ、夜闇の恐ろしさを鮮やかに描き出し、
闇を切り裂く照明や希望まで余すところなく紙面に落とし込んだ挿絵の数々が美しい。
夜の挿絵が、街灯で明るく照らされている場所を切り取った絵ですら明らかに夜と見て取れるのだ。すごいぞ。

さて、ひたすらどこが面白いのかを書く。
何度でも繰り返す。どこかが面白そうだと思ったら、そこで読むのを止めて買ってみてくれ。


まずはやはり、この物語が抱えるジャンルの幅広さだ。
これが紹介を簡単にまとめるのを難しくしている要因でもあるのだけれど、そこはそれだ。

――時は現代。
文明の光が夜闇から恐怖を抉り出し、携帯電話が人々を繋ぐようになって久しいというのに、鬼、悪魔などと呼ばれる怪異はなおも変わらずそこにあった。
これは日本において古来より鬼を退治してきた門部の封伐員たちの戦いの物語である。

これだけ切り出せば現代伝奇、日常の裏に蔓延る怪異と戦う物語だ。
もちろんここで終わらない。

彼らが武器にするのは停時フィールド。時間の止まった場所を作る能力だ。
フィールドの内部は時間が止まっており、フィールドが解除されるまで一切外からの干渉はできない。
守りたいもの全体を包めば無敵の保護になるし、敵の一部だけを包めば削り取る事も出来てしまう。
何もない場所に固定して足場にすることだってできてしまう。
停時フィールドにルールはただ3つ。
・同時に起動できるフィールドは1人にひとつ、複数分割することはできない。
・サイズの自由度、射程、展開時間……フィールドの個性も1人にひとつ。
・既にフィールドのある場所に重ねて使用することはできない。

それぞれの停時フィールドが単純なルールに則って違った個性を見せるさまは現代異能だ。

停時フィールドという名前から察せられる通り、
強烈なガジェットのある現代をエミュレートしたSFでもある。
停時フィールド以外にもSFガジェットだってもりもりでてくるぞ。

超技術系SFというだけでなく、がっちりと練りこまれた綿密なルールとロジックの上にある物語でもある(ハードSF成分と呼んでもいいんじゃないかと思っているくらいだけれど、これは筆者のSF読書量が足りないせいでもあるかもしれないので「これはハードSFじゃない」などの指摘は無用だ)。
停時フィールドのルールだってそうだし、それ以外にも作品の根幹にかかわってくるためにここには書きづらい要素にもそういうものが多々ある。

分かりやすいものから些細なものまで、いくつもの伏線をばらまいては片端から回収して見せる物語展開は本格ミステリのようですらある。
さらに主役の1人・乾叶は元空手少女なので、たまにものすごく濃密な格闘描写すら現れる。

いくつものジャンルの要素が混ざり合って、そのどれもが面白い。
しかも恐ろしいことに物語のどこかで重要な役目を持ち合わせている。
何かのジャンルに分類できるというなら教えてほしい。
いったいこの小説のジャンルは何なんだ。


もう少し物語の中に踏み込む。
ここまでで面白そうだと思ったなら、このテキストを読むのを止めて1巻を読んでくれ。
改めて貼るけれどAmazonで買うならURLはこれだ。 https://www.amazon.co.jp/dp/4094515275/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_xcr.BbE8TSESW

『鬼』は怪異の正式名称ではない。
正式名称を殺戮因果連鎖憑依体という。
むやみに長たらしくごてごてした印象があり、日本の公文書らしい名付けだけれど、
その一方で、これ以上なく正確に言い表した名前だ。

『鬼』に憑りつかれた人間は誰かを殺したくなる。
誰かを殺し殺して、最後にはどこかで返り討ちに遭う。
返り討ちに遭った『鬼』は、より力を増し、殺された殺し方に対して対抗する手段を身につけて――
改めて、自身の憑いていた相手を殺した人間に憑りつくのだ。
自身の憑代を殺したという因果を辿って。

もちろん封伐員だって例外ではない。
だったらどうやって対応しているのか。
筺底のエルピス最大のギミックのひとつはここにある。
読んでくれ。

凄まじいのはやはり、物語運びの巧みさだ。
大小さまざまな伏線を張りつつ、大きなものは繰り返し見せることで、読者に思い出させるのも忘れない。
アクションシーンは誰もが一撃で決着をつけてしまえる能力を持ち合わせているにも関わらず、5巻までたどり着いてなおも鮮やかに展開し続けている。
相手を捕まえてしまえば一撃で決着がついてしまう能力は戦闘が難しい(と言われているけど筆者は物書きでないのでちょっとわからない)にも関わらずだ!

これ以上書こうと思ったら具体的な内容を挙げていかねばならなくなって、
読んだことのない人に読んでもらっては困るテキストになってしまうのでこれまでにする。
ここまで読んだ人。悪いことは言わない。どうか筺底のエルピスを読んでくれ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4094515275/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_xcr.BbE8TSESW

なおtokuninaは収入がなくなってしばらく経つので今後発売される6巻以降は買えないと思う。
これを読んだ方、どうか6巻以降を見届けてほしい。
筆者もどうにか収入を手に入れて……よみたい……願望……

【1/26追記】
お仕事を手に入れたので発売された6巻も無事読めました。よかった。
アクション小説は空気が入れ替わる瞬間——うまくいくと思っていたところに新しい危機が飛び込んできてこれはもうダメなんじゃないかと思わせられたり、もうダメだと思っていたところを上手く乗り越えてこれなら大丈夫だと思われたりする瞬間だ——こそが醍醐味だ、となにかの解説で読んだ記憶があるのですが、このシリーズはまさにそういう瞬間を繰り返し味わえるタイトルだと思います。読んでくれ。

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