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人口動態でひもとく、2030年のものづくりの現場:燕三条の町工場の一例
2030年のものづくりの現場はどのようになっているのでしょう?
2030年は今から5年後で、遠いようで近い未来になります。
今回は「人口動態」を切り口に考えてみたいと思います。
・団塊の世代が80歳
団塊の世代とは、1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)に生まれた世代を指します。
ここ数年、後継者不在の中小企業、個人事業主の廃業が相次いでいますが、高齢を理由とした廃業が一巡すると思われます。
現在進行形として起きているのですが、それまでやってくれていた協力会社が廃業することで、サプライチェーンの断絶が発生します。燕三条地域においては、特に表面処理業者の廃業をよく耳にします。塗装・メッキ・バフ研磨などの表面処理は、年々職場環境管理が厳しくなり、また厳しい労働環境などの影響から後継者不足に悩まされています。
表面処理加工は、ものづくりの仕上げ工程にあたるため、納期の集中や工期の短縮要請などの、時間的制約も多く受ける傾向にあります。さらに前工程が進まなければ作業に入ることが出来ないため、仕事量も不安定になります。
個人事業主、もしくは少人数の町工場でものづくりを行っている場合は、事案ごとの単価も割安になる傾向があります。価格設定も数十年前の据え置きといったこともあり、昨今の物価上昇の時流から取り残されている製品もあります。
そのような製品が、加工業者の廃業に伴い正規の査定をされると、現行の価格設定では製品を作ることが出来なくなるのです。
加工費用が合わなくて行き詰った製品は、どうなるのでしょうか。
・製品単価を上げて、加工費用に見合うよう調整する。
・製品を廃盤にする。
・製品を継続するため、別の地域、海外などに調達先を変更する。
海外に調達先を求めたところで、円安の影響で目標とする価格で調達できないかもしれません。もしできるのなら、もっと以前の1ドル=100円以下だったころに、調達先を海外に変更していたはずです。
別の地域で調達先を探したところで、団塊の世代の引退は全国的に起きていることですので、早晩成り立たなくなります。
廃盤にして支障のない製品であれば、致し方ないでしょう。但し、ユーザーには代替品が必要になります。それまでと同価格での調達は難しいのですから、割高になった製品を受け入れなければなりません。
このように思案していくと、結局は「製品単価を上げて、加工費用に見合うよう調整する。」というのが落としどころとなるようです。
二社購買
委託業者の廃業リスクを分散させる手段としては、二社購買という方法があります。二社購買は地震や自然災害などの地政学リスクやサプライチェーンの混乱による供給中断リスクを分散させることが出来ます。
トクニ工業でも、顧客が二社購買の内の一社として、製品を購入している場合もあれば、自社の調達先として複数社から同一の部品・材料などを調達している場合もあります。
二社購買を継続していく中で、価格差や品質の開きを調整していくことが出来ます。売り上げにしても仕入れにしても、一社依存はリスク度が上昇します。但し、二社購買にすれば、リスク・デメリットも軽減されますが、メリットも軽減されてしまいます。事業規模にもよりますが、損しない程度のリスク分散としての二社購買は有益でしょう。
2030年のものづくりの現場は、そのような統廃合が一定程度済んだ状態だと予想されます。新たに組みなおされたサプライチェーンの仕組みの中で、ものづくりの町工場がどのように存在意義を見出していくかが課題となります。