もうひとつのラブストーリー(30)「怒られる」
職場の旅行で和歌山県にある、とあるホテルに泊まりました。
駐車場からフェリーに乗らないとホテルには行けないようになっていました。
そのホテルには、いくつかの露天風呂があったのですが、どの露天風呂からも女湯がモロに見えてしまいます。
逆に言うと男湯も女性から丸見えなのですが⋯。
アパートに空手の同期の人間関係が3人集まってワイワイしている時に、このホテルの話になりました。
もちろん「ちえ」も一緒にいました。
「凄いホテルだな。俺も行って見たいよ」
「そんな女湯丸見えの露天風呂なんてホントにあるの?」
「それがあんるだよね。一応、低い囲いはしてあるんだけど、囲いの上からも丸見えだし、囲いの隙間からもモロなんだよね」
「良いなあ、お前良い体験したよな···。羨ましいわ···」
そんな感じで、男3人で女湯の話で盛り上がっていました。
その間「ちえ」は何も言わずに私の隣りに座っていました。
問題は、空手の同期の人間が帰ってからでした。
「おい「ちえ」」と呼んでも何も返事がありません。
「「ちえ」どうした?」
「···」
「お~い「ちえ」」
「···」
「なんだ?「ちえ」怒ってんの?」その瞬間です。
枕が、私の顔めがけて飛んできました。
「ちえ」が怒る=枕が飛んでくるです。
「おい!なにすんだよ!」
「△ちゃん嫌い!」
「えっ、俺なんか怒らすようなことしたか?」
「「トクちゃん」は、私だけじゃ満足できないのね」
「もう「トクちゃん」のこと信用できない···」
「おい、ちょっと待てよ。何怒ってんだよ···」
「さっきから、女の人の裸の話ばっかりしてさ···。「トクちゃん」は、私だけじゃ満足できないんでしょ」
「おい、女湯が見えるって話で怒ってんのかよ。俺は別に覗きしたわけじゃないぜ。露天風呂の作りが女湯が丸見えって言っただけじゃん」
「どうせ私の裸はキレイじゃないですよーだ」
よく見ると「ちえ」の目には涙が溜まっていました。
「おい「ちえ」」
「嫌!触らないで!」
「俺が女湯見たのが、そんなに気に入らないのかよ」
「見たくて見たワケじゃないぞ。自然に見える仕組みになってただけじゃんか」
「「トクちゃん」は、私じゃ満足できないから女湯見たんでしょ?」
「もう「トクちゃん」大嫌い!」
「ちょっと待ってくれよ。俺は、女は「ちえ」だけだっていつも言ってんじゃん」
「···」
「ちえ」は何も言わずに顔を背けたままです。
ここまで怒った「ちえ」を見たのは初めてでした。
「もう「トクちゃん」の顔なんて見たくない!私帰る!送ってくれなくても良い歩いて帰るから···」
「おい、別に浮気とかしたワケじゃないじゃん、他の女の裸見たのがそんなに嫌なのかよう」
「別に覗きしたワケじゃないって言ってるだろう」
「「トクちゃん」が私だけで満足できてるんなら、他の女の子の裸見たりしないでしょ?」
「おい、それとこれとは話が違うだろう?覗きしたとかなら別だけどさあ」
「覗きしたようなもんでしょ!」
「参ったなあ···。なんて言ったら良いんだあ?」
「男同士のバカ話じゃん···」
「せっかく婚約したのに、他の女の子の裸見て喜んでるなんて最低!」
「分かったよ、俺が悪かった、ゴメン、ホントにゴメン···」
「···」
「なあ、機嫌直してくれよ、頼むよ」
「···私帰る!」
「じゃあ、俺と別れるってことか?婚約解消か?」
「···。他の女の子の裸見て喜んでる人なんて信用できないから···」
「女湯見たことは謝るよ、ホントにゴメン。だけど、女は「ちえ」だけって言うのはホントだからな」
「それでも、どうしても俺のこと信用できないなら帰るか?」
「帰っても良いけど送ってくからな、夜道を「ちえ」1人で帰すワケにはいかないからな」
「···」
「どうする?帰るか?」
突然、こちらを向いて「「トクちゃん」のバ~カ」と言って抱きついてきました。
「私、心配なんだよ~「トクちゃん」が他の女の子に興味持っちゃうことが···」
「ホントに心配なの···」
最後の方は泣きながらで言葉になっていませんでした。
「ちえ」を抱きしめながら「ゴメンな、ホントにゴメンな、もう「ちえ」を心配させるようなことはしないから」
「許してくれるか?」
「ダメ···。許さない···」
「どうしてもダメか?」
「バカ!「トクちゃん」のバカ!」
「嫌いになりたいけど、嫌いになれないじゃん···」
「俺のこと嫌いになりたいか?ホントに嫌いになりたいか?」
「···、嫌いになれないよう···。好きだよう···」
「俺だって「ちえ」が大好きだからな、女は「ちえ」だけって決めてるからな」
「だから、もう泣くなって、「ちえ」が泣いてると俺まで悲しくなるからさあ」
「な、お願いだから機嫌直してくれよ」
「···」
「ホントにホントに「トクちゃん」のこと信用しても良いの?」
「もちろんだよ。俺は浮気はしないって。「ちえ」だけで十分満足してるから」
「「ちえ」は自分じゃ気づいてないけど「ちえ」の体って凄いキレイだからな」
「ホント?」
「じゃあキスして」
チュー。
「ゴメンな。もう心配させないから」
「うん、分かった「トクちゃん」のこと信用する···」
「俺も「ちえ」のこと信用してるからな」
「うん」
やっと「ちえ」の怒りが納まりました。
まさか、男同士のバカ話で「ちえ」がここまで怒るとは思ってもいませんでした。
つづく