「なな」(21)「破局②」
今回は「なな」との破局の第2弾になります。
「なな」は結局、私のプロポーズを待つよりも、結婚を選びました。
なんでも、お父さんの実家の遠い親戚にあたる方とお見合いをしたそうです。
お見合いをするまで、「なな」は一言もそのことを私には言いませんでした。
いつもの明るくて天真爛漫な「なな」であり続けました。
私から見たらですが。
お見合いをした後に「なな」がお見合いをしたことを知りました。
「なな」の口から「私、お見合いをしたんだよね⋯。ウチのお父さん厳しいでしょ。だから、逆らえなかったの⋯」
「今どきお見合いか」とも思ったのですが⋯。
この時は、当然「なな」は断ってくれるものだと勝手に思い込んでいました。
お見合いの相手も、相手の家族も「なな」のことを大いに気に入って、結婚話がトントンと進んで行ったようです。
私が一言「お見合いを断って欲しい。俺がお父さんと話をするから」そう言ったならどうなっていたでしょうか。
しかし、私は「なな」が当然、私を選んでくれるものだと思い込んでいました。
今思い出してみたら、このお見合いの前後に「なな」の笑顔に時折かげりが見えていたのでした。
しかし、それでも鈍感な私は、いつも通りに「なな」に接していました。
「なな」からお見合いの相手を選ぶと聞いたのは、それから1週間ほど後でした。
雨の夜に2時間ほどドライブをして、ある灯台まで行きました。
小雨の中、「なな」は傘もささずに車を出ました。
私が傘を差し出すと、私に背を向けたまま「私、結婚することになったから」そう言いました。
一瞬、何を言っているのか分かりませんでした。
「えっ。どういうこと?」と私が言うと。
「お見合いの話が進んで、もう断れないんだよね⋯」そう言いました。
思わず後ろから「なな」を抱きしめました。
しかし、「なな」は私の手を振りほどきました。
そして、雨に濡れながら「今日で会うのは最後にしょう」と言ったのです。
ショックでした。
ショックという言葉では表せないほどのショックでした。
帰りの車の中では「なな」も私も一言も口を聞きませんでした。
もう「なな」に会えない。そう思うと言葉も出てきません。
「なな」と結婚できない⋯。
「なな」を別の男にとられる⋯。
「なな」とでしか結婚は考えられませんでした。
その「なな」ともう会えない。結婚もできない。
この3年間は、なんだったんだ。
そんなことが頭の中でグルグル回っていました。
私のアパートにつき、最後のお別れの時に「なな」が「嫌いになったワケじゃないからね。ずっと好きだったし、これからもずっと好きだからね」
そう言うと、走って自分の車に乗り込みました。
私は呆然として「なな」を見送ることしかできませんでした。
これが「なな」とのお別れでした。
実を言うと、それから15年後に、一度だけ「なな」に会いました。
私が、成功確率50%という手術を受ける前日に、どうしても「なな」に会いたくて、連絡をとりました。
そして「なな」は病院に来てくれたのです。
「なな」は片手に幼い女の子を抱き、もう一方の手は男の子の手を引いていました。
なんでも、結婚してから、なかなか子供に恵まれなかっそうです。
だいぶ、おばさんになっていましたが、あの時の天真爛漫な笑顔は変わっていませんでした。
約15分の面会。
私は長年の疑問を「なな」に聞いてみました。
「あの時、灯台で、その人との結婚はやめて俺と結婚してくれ」って言ってたら、俺と結婚してくれた?
「う~ん」
「あの時じゃ、ちょっと遅かったかな⋯。でも、その少し前に言ってくれていたら結婚したと思うよ」
「私は、本当は、あなたと結婚したかったから⋯。ずっとプロポーズしてくれるのを待ってたから」
「そっか⋯。結婚って難しいね。お互いに好きでも結婚できないんだもんな⋯」
「今、幸せ?」
「うん。幸せだよ。この子達がいるから」
「でも、この子達が、あなたとの子供だったら、なんて考える時もあるんだ⋯」
これが約15分間の「なな」との最後の会話でした。
これが本当の「なな」とのお別れでした。
「なな」の顔を見れたのは、これが本当の本当の最後になりました。
もう「なな」には、どうしても会えないのです。
その理由はまた、次回に書きたいと思います。
つづく