「ちえ」(66)「寝ぼう」
金曜日の夜に職場の飲み会があって帰りが遅くなりました。
と言うか正確に言うと帰って来た記憶がなかったのですが⋯。
翌朝に「ちえ」に起こされました。
「トクちゃん、起きて。起きてったら」
「う~ん。まだ眠い⋯」
「こら!起きろ!」
「なんだよ⋯。なんで、こんな朝早くに「ちえ」がいるんだよ?」
「トクちゃん!今何時だと思ってるの!」と言って目覚まし時計を見せられました。
「うん?ヤバ、もう10時半過ぎてんじゃん」
「もう!今日は9時に迎えに来てくれる約束だったでしょ」
「電話しても出ないし、また、腰が痛くて動けなくなってるかもって心配したんだからね」
「まさか、酔っ払って寝てるとは思わなかったわ⋯」
「トクちゃん、約束忘れてたでしょ?」
「忘れてはなかったんだけど⋯。昨夜、飲み会だったからさ」
「何時まで飲んでたの?」
「う~ん、二次会で「樹林」行って、その後、課長に「すみれ」に連れてかれて⋯」
「それから、茶そば食べに行って、その時、時計見たら12時半頃だった気がするんだけど」
「それで駅まで歩いてったら駅前に屋台のラーメン屋出てたから、皆でラーメン食べて」
「うん?その後どうしたんだっけ?」
「う~ん。思い出せない⋯」
「そんなに記憶がなくなるほど飲んだの?」
「う~ん、そんなに飲んでないと思うんだけど⋯」
「あれ?俺、ネクタイしたままじゃん。うん?スーツのジャケット着てないじゃん。どっかに置いてきちゃったかなあ⋯」
「ジャケットならトレーニングマシンの上にあったよ」
「あ~。良かった。でも、俺どうして帰って来たんだろう?誰かが送ってくれたのかなあ⋯」
「自分でタクシーつかまえて帰って来たのかなあ⋯。ダメだ、全然思い出せん」
「もう!そんなに飲んじゃ、体に毒だよ⋯」
「約束破った罰に、こうしてやる」と言ってほっぺたを引っ張られました。
「痛い、痛いよ」
「もう、今回は許してあげるけど、次に約束破ったら絶対に許さないからね」
「はい、分かりました」
「お水飲む?」
「うん、飲みたい」
「やっぱ「ちえ」は優しいな」
「午後から出かけようか?」
「出かけるって、トクちゃん運転できるの?酒気帯びで捕まっちゃうよ」
「まだ、お酒の匂いプンプンしてるから」
「そうか⋯。ゴメン・・・」
「ねえ、トクちゃん、トクちゃんのスーツ姿って久しぶりに見た気がする」
「そうか?」
「ねえ、ジャケットも着てみてくれる」
「うん、良いけど」
「あー。凄いカッコいいよ。そのスーツ似合ってるね」
「そうか、これ結構高かったんだ」
「トクちゃんってスーツどこのお店で買うの?」
「俺さあ、就職してから、ずっと同じ店で買ってんだよ。叔父さんが勧めてくれた店なんだけどさ」
「「青山」とか「はるやま」の方が全然安いんだけどさあ、色々サービスしてくれるんだよ」
「スーツ一着買うとYシャツ2枚とネクタイ一本くらいサービスで付けてくれるんだ」
「年に数回しか行かないけど、顔と名前覚えてくれてるしな」
「ふ~ん、そうなんだ」
「これ見て。こんなピンク色のストライプのYシャツなんか自分じゃ絶対に買わないけどさ、お店の人さんが、Tさんにはピンク色が似合いますよって言ってサービスで付けてくれたんだ」
「「ちえ」は、どう思う?」
「トクちゃん、そのYシャツ着てみて」
「あー、やっぱ似合うよ。トクちゃんってピンクが似合うだあ」
「じゃあ、酔いが覚めたらスーツ着てデートするか?」
「うん!」
つづく
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