高飛びの村
こんにちはトクです。
本日も訪問くださりありがとうございますm(*_ _)m
拙い文章ですが、創作物語(ショートショート)を書いてみたいと思います。
最後までお付き合いをお願い致します。
その村は山の奥のそのまた奥にあった。
村の人口は500人ほどである。
渓流釣りの人間でも辿り着けないほどの山奥である。
山奥の村には似つかわしくないほど新しい家々が建っていた。
その村にある男が迷い込んでしまったのである。
渓流釣りの帰りに、思いのほか時間が過ぎてしまい、周囲は真っ暗闇であった。
どこで道を間違えたのか分からないが、いつの間にか知らない道を走っていた。
そして、道なりに走っているうちに、その村に辿り着いたというワケである。
一晩、車の中で過ごした男は、山奥の村に似つかわしくない新しい家々の並びを不思議に思った。
さて、帰ろうにも帰り道が分からない・・・。
携帯電話を見ると、圏外になっていた。
「今どき圏外の場所があるのか・・・」男はつぶやいた。
仕方なく、村の役場を探した。
役場なら、道を教えてくれるだろう。そう考えたのである。
村役場は、男が一晩、車で過ごした場所から30分程した所に建っていた。
役場の職員に道を尋ねたのだが・・・。
なんだか様子がおかしいのである・・・。
よくお役所仕事と言うが、それとも違う異様な雰囲気を感じた。
道を尋ねた職員が上司らしき男を連れて来た。
どうやら厄介者扱いらしい・・・。
どういうワケで、この村に来たのかを問われた。
道に迷って仕方なく来た事を話したが、それでも色々と聞いてくる。
村に来てからどの位の時間が経ったのか、村の何処を見たのか等々。
まるで警察の職務質問である。
とにかく一刻も早く村を出て行けとの事である。
いくらお役所仕事とはいえ、こんな態度はありえない・・・。
男は腹がたった。
そこで、村から少し離れた場所に車を置いてから、今度は歩いて村に向かった。
「この村は、何かを隠している」そう思ったのである。
男の職業は探偵であった。
この手の秘密を探るのは、お手の物であった。
村には不思議な事に、お店という物が一件もないようであった。
いくら山奥の村とはいえ、お店が一件のないなどということがあるだろうか・・・。
益々、不思議を感じた。
秘密の匂いがプンプンして来た。
男の探偵としての性がうずうずして来た。
注意深く観察して見ると、看板こそないが、食事を提供しているらしい建物を見つけた。
その建物に出入りしている人間の話を盗み聞きしたのである。
そうこうしている間に、なんだか見覚えのある顔を見つけた。
「どこかで見た顔だな・・・」
男は記憶の糸を手繰り寄せた。
「そうだ!あれは確か、麻薬で捕まった芸能人の〇〇だ!」
しばらく顔を見ていなかったが、こんな村に居たのか・・・。
そうこうしている間に、また見覚えのある顔を見つけた。
「あれは確か、元〇〇組の組長だ・・・」
一時期テレビのワイドショーを賑わせたヤクザの親分である。
それにしても、なんで奴らがこの村に居るのだろうか・・・。
彼らは確かにこの村に住んでいるようであった。
たまたま、この村に来たのではないことは確かであった。
それ位は、探偵の目で分かる。
益々、不思議な村である。
実は、この村は、知る人ぞ知る「高飛びの村」であったのだ。
よく、犯罪者が高飛びした。と言うことを聞くが、この村は「高飛び」したい人間を受け入れているのであった。
外国に高飛びすると、色々な面で不便である。
食事一つを取ってもそうである。
しかし、住み慣れた日本であれば、そういった不自由を感じず済む。
村では、多額の移住費を取って、そういった「高飛び」したい人間を受け入れているのであった。
必要ならば戸籍も作る。
何しろ村ぐるみで匿っているのであるから、戸籍を作ることなど朝飯前である。
住民票もしかりである。
もちろん、それ相当のお金が必要にはなるのだが。
それも村の貴重な収入源となっていたのである。
これも一種の村おこしであった。
男は、村全体に広がる異様な雰囲気を後にして、村から出ることにしたのであった・・・。
それでは、最後までお付き合いくださりありがとうございました。