【ミリマス】桃子「雨の日なんて大ッ嫌い」
1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:10:23.15 ID:24VJ867B0
「あぁー、降ってる……」
事務所からほど近い撮影所の扉を開けてみると土砂降りの雨だった。
来る時から怪しかったけれども、まさかこんなに降るだなんて。
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:11:37.40 ID:24VJ867B0
「ついてないの」
最近買ったばかりの靴をちらっと眺めてため息を一つ。
まぁしょうがないよね、と鞄に入れてる折りたたみ傘を取り出す、……取り出す、……取り出せない。
覗き込んで探してみる。
ハンカチに、ティッシュに台本、手帳に、お財布に筆箱。
どうやら折りたたみ傘は入れ忘れちゃったみたい。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:12:16.74 ID:24VJ867B0
「はぁ……」
今日はこのまま直帰する予定だったから誰かが迎えに来てくれるわけでもないし。
傘を貸してもらおうかなと思ったけれども、あいにく絶賛全部貸し出し中のようだった。
何度目かのため息をつく。
たくさんついたからってやんでくれるわけでもないが、つかずにはいられない。
やっぱり雨の日はどうも苦手。
特にこういう急に夕方になって降り出す雨の日は。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:12:53.36 ID:24VJ867B0
っていう話を育と環にしたら、
「わかるわかる! 雨のせいでお洗濯ものがなかなか乾かないーってうちのお母さんも言ってたもん」
「たまきも!外で遊べないしさ。 部屋の中で遊ぶのは、怒られちゃうし」
って。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:13:23.56 ID:24VJ867B0
まぁたぶん普通はそう。
でも桃子が苦手なのはそういう理由じゃない。
いやまぁくせっ毛だから雨の日はいつも大変だとかあるけれど、そうじゃなくて。
あの頃を思い出しちゃうから。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:14:09.59 ID:24VJ867B0
あの頃の桃子も、こうやって突然降り出した雨を眺めていた。
子役の時に入ってた事務所でも、学校でもどこで眺めてもその灰色に変わりはなかった。
急に雨が降り出すと、事務所でも学校でも他の子たちは、みんなお母さんやお父さんが迎えにきてくれていた。
でも桃子だけはそういうのはなかった。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:15:22.60 ID:24VJ867B0
もっとちっちゃい時にはあったけれど、桃子が子役として売れてからはそういうことはなくなっちゃった。
だからかな。
桃子の家には傘だけはたくさんあった。
待ってても誰も迎えになんか来てくれないから、急いでコンビニまで走って買ったなんのプリントもされてない可愛くもなんともないビニール傘。
そして家に置きっぱなしにして、二度と使わない。
それの繰り返しでどんどんたまっていく。
お父さんもお母さんも増えても何にも気になどしなかったしね。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:16:14.26 ID:24VJ867B0
思い返してるとどんどん落ち込んできてしまうので、よしっ!とほっぺたをぺちんとしてみる。
ここから一番近いコンビニは、入り口出たらすぐ右に曲がって、突き当たるまでまっすぐ進んで左。
靴どころか洋服も汚れちゃうとかは今は考えないようにして。
よし。よーい、
「桃子~」
気の抜けた声が桃子を呼んだ。
一気に力が抜ける。
そこで転ばなかったのをちょっと褒めてほしい。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:16:43.81 ID:24VJ867B0
声のしたほうを向くと、そこには傘をさしたお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは桃子のほうに駆け寄ってきた。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「お前傘持ってるかなって思ってさ。手持ちの傘は持ってなかったし」
「……折りたたみ傘、入れたはずだったんだけど」
「入ってなかったんだ」
「うん」
「ならやっぱり迎えに来てよかったや。ほれこの傘使え」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:19:02.69 ID:24VJ867B0
そう言ってお兄ちゃんは桃子に傘を差し出した。
大きくて、黒くて、重い。
可愛くも何ともない傘だけど、でも今までの傘の中で一番好きかもしれない。
たださ……。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:20:10.67 ID:24VJ867B0
「お兄ちゃんさ、この傘一本だけでしょ」
「おう?」
「桃子がこれ使ったらお兄ちゃんはどうするの?」
「……ぁ」
全くちょっとカッコいいなぁって思ったらすぐこれだもん。
「事務所まで帰って、そこでまた傘を借りるよ。……ほら、どうぞ」
「……お邪魔します」
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:20:55.28 ID:24VJ867B0
じゃんじゃんと降る雨の中を桃子たちは一つの傘で帰ってる。
「お兄ちゃん、今度からちゃんと確認しなよね」
「お前にだけは言われたくないわい」
「う、うるさいの」
「っていうかもっと寄れって。ほら濡れるだろ」
「……う、うん。ありがと……」
心臓の音が聞こえちゃいそうなくらい、お兄ちゃんに近づいて歩いてる。
だというのに、ドキドキしてるのは桃子だけ。
子供扱いして、もう。
いつか絶対ドキドキさせてやるんだから。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:21:28.63 ID:24VJ867B0
雨の日は嫌い。
だけど今はこうやって迎えに来てくれる人がいる。
こうやって一緒に入ってくれる人がいる。
だからかな。
今はちょっとだけ好き、……かもね。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/21(火) 02:22:33.29 ID:24VJ867B0
終わりです。
お読みいただきありがとうございました。
今日からの雨の一週間、頑張っていきましょう。
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