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魅力的なキャラをどうやって作るか?(漫画制作の話)

<キャラの魅力が強い作品は売れやすくなる>

数々のヒット漫画を生み出した原作者である故・小池一夫さんは劇画村塾というのをやっていて、そこで漫画制作の技法を教えていました。
その中で「売れる漫画にするためにはキャラがきちんと魅力的である事」というのを教えていたようです。
「ストーリーとキャラのどちらかにより力を入れるかと言えば、やはりキャラクターの方だ」という事を以前読んだ小池さんの本で解説されていました。

実際に売れている漫画の中にはストーリーはそこまで素晴らしくなくてもキャラがかなり魅力的でしっかり読者の心を掴んで売れているのも多くあります。

キャラの魅力を構成する要素としては

・外見的な物(絵柄、キャラの顔立ち、体形、髪型や服装などのデザイン、仕種やポーズ)
・内面的な物

の二つに大別できますが、今回は内面的な要素で「どうやったらそのキャラを魅力的にできるか?」を考えてみようと思います。

今回も文字数が多いため時間に余裕がある時に読んでみてください。


<魅力のあるキャラには一体何があるのか?>

人を惹きつける魅力あるキャラには一体何があるのでしょうか?

私は「共感や親近感、好感などのプラスの印象を抱かせる要素を色々供えている」だと思います。


逆に魅力のないキャラは

・共感、親近感などを抱かせる要素がほとんど無い
・嫌悪感は持たれても好感をあまり持たれない

というのがあります。

ただの悪役でしかないキャラは魅力的なキャラにはなりえないです。
また外見的に恰好良くても共感や親近感などが抱けないようなキャラはやはり魅力が薄いキャラになってしまいます。


<いくつかの作品で考えてみる>

実際にいくつかの作品のキャラで考えてみましょう。


細野不二彦さんの漫画ギャラリーフェイクの主人公の藤田は、普段は身だしなみをきちんと整えて詐欺師みたいな事をしているキャラです。
これだけを見ると魅力的なキャラとは言えません。
しかし休みの日は無精ひげを生やして肌着などを着ていて見出しなみを整えていません。
ぼろいアパートにも住んでいます。
カニが大好物だったり、体力が無いなど、読者の好感や共感、親近感を抱かせる要素が色々ありずいぶんと魅力的なキャラに映っています。
詐欺ばかりではなく人助けをする事もよくあり好感度アップにもなっています。


こち亀の両津勘吉は借金を踏み倒したり、物をよく破壊したり簡単に他人を殴るなどして冷静に考えたらDQN系のキャラです。
しかしそのパワフルさや豊富な知識、子供のように色々なおもちゃやゲームを楽しんだり、面白いアイデアを次々と生み出す、一攫千金を夢見る(そして痛い目をみる)などで親近感や共感、好感度が高く魅力的に感じている人が多いでしょう。


ドラゴンボールのベジータは最初の方は「強い敵」「怖い」というあまり良い印象を抱かれなかったので読者には魅力的なキャラには映っていなかったと思います。
しかしフリーザにぼこぼこにされて「ちょっと可哀そう」と同情されたり、いつの間にか仲間的なキャラになって頼もしい味方に感じる人も多くなり、共感や好感、親近感などを読者が抱くようになって今ではすっかり人気のキャラになっています。


北斗の拳のラオウもベジータ同様最初の頃は「怖い」「強い」という印象ばかりでそれほど読者には魅力的には映っていなかったと思います。
しかし話が進むにつれてラオウの色々な一面が読者に提示され、読者は怖いだけではなく別のプラスの感情もラオウに抱くようになっていくにつれて人気が増していきました。


このような感じで色々な漫画で魅力的に映るキャラ達を観察すると、共感や親近感、好感、信頼感などプラスの気持ちを読者に抱かせる要素をいくつもキャラが備えているというのがよくわかるでしょう。


<「弱点を足せ」と編集者によく言われる理由>

「キャラを魅力的にするには弱点や欠点を足せ」みたいな事が編集者に言われたり、漫画制作の指導本でよく書かれています。

例えば見た目が恰好良い男性や女性がいても、それだけでは魅力はそこまでではないでしょう。

しかし普段は家にいる時はぐーたらしているだとか、猫や犬がすごい苦手だとか、定番ではあるけど料理が下手だとか、そういう面白く感じたり共感や親近感などを抱く要素が足されていくと読者がそのキャラに抱く気持ちもずいぶんと変わっていきます。

人間というのは誰しも必ず何らかの弱点や欠点を持っています。
完璧な人間や上手くいってばかりの人間には共感や親近感は持たれません。

漫画の中のキャラも完璧な人間よりも何か弱点や欠点があった方が親近感や共感を抱かせキャラの魅力を増すからこそ、編集者は「弱点や欠点を足せ」とよく指導されるのだと思います。

<身の回りの人間をモデルにしている漫画家も多い>


これを今読んでいる人も、自分の身の回りの人間は「魅力のある人」と「魅力のない人」に分かれていると思います。
その魅力のある人をモデルにキャラを作ってみると、読者受けが良いキャラを作りやすい。

色々な漫画家が自分の知り合いをベースにしたキャラを漫画に登場させるのは、「こいつはキャラとして面白い」「これは読者に受ける」という要素がその知り合いにあるので、その要素をそのまま流用する事で魅力的なキャラを作りやすいからでしょう。

自分の身の回りの人間で魅力ある人がいたら、どういう部分がその魅力につながっているかじっくり考えてみるのもおすすめします。


<実際にただのおっさんを肉付けして魅力あるキャラにしてみる>

外見的にはただの小汚いおっさんをベースに肉付けしていって、魅力あるキャラにしてみます。

たとえばそのおっさんは「実はインディーゲームが大好きで、週末には色々なゲームを買って楽しんでいる」みたいな設定を付け加えるとか。

今はインディーゲームを楽しむ人が多いからこそ、そういう要素は多くの読者に共感や親近感を抱かせ、このキャラを好きになってくれる人が一気に増えるでしょう。

それ以外にも「稼ぎが少ないので生活費のやりくりにかなり苦労している」だとか「時々盛大にやらかして大失敗してしまう」、「頑張っているのになかなか報われない」みたいな今は多くの人が抱えている要素を足したり。
これも共感や親近感を増す事につながります。

さらに「努力を積み重ねた末に何か偉大な事を遂に成し遂げた!」みたいなストーリー展開になると読者の心を強く動かせるのではないでしょうか。


ただのおっさんをベースに色々肉付けしてみましたが、こういう風に足していく要素については日頃から考えてネタ帳などにどんどん書きこんでいくと、キャラ作りの時にずいぶんと助かるでしょう。

「カードゲームにはまっている」「vtuberをやっている」「イラストや漫画をよく描く」「釣りが好き」「ロードバイクの趣味がある」など、他にも色々な共感や親近感、好感を抱かせる要素が思い浮かぶでしょう。

また、主人公キャラにばかり設定を足すよりも、脇役や敵役にも足していく事で漫画に登場するキャラ達に厚みや人間性が出て来ます。

<ストーリーでしっかり心を動かすには、キャラに親近感や共感、好感を抱かせるのが必須>

キャラをきちんと魅力的な感じにするのはその漫画の売れ行きを増やすためにも大事ですが、それだけでなく「よりストーリーにはまらせる」という事にもつながります。

キャラに親近感や共感、好感を抱かせていない段階で良いストーリーを展開しても、読者はキャラに感情移入していないのでそのストーリーが空振りしてしまいやすい。
キャラと読者の間に壁のような物がまだ残っている段階で何か感動させるストーリーをやってもあまり心に響かないのです。

その漫画で読者の心を強く動したい場合は、キャラ達に読者がきちんと感情移入できているかどうかが肝になってきます。
そのためには日頃のエピソードでキャラに共感や親近感、好感などのプラスの気持ちを抱かせるよう仕向けていくべきです。

ベルセルクのガッツは最初は化け物を倒しまくる恐ろし黒い剣士でしかありませんでした。
しかし少年時代編に入って以降は読者がガッツやその他のキャラに好感や親近感、共感などを抱くエピソードが色々あり、それですっかり感情移入しきった段階であの例のシーンに突入した事で多くの読者は心を強く動かされたのではないでしょうか。


連載ではなく読み切り作品でもキャラへの共感や親近感、好感を抱かせる要素を入れていた場合とそうでない場合では読者が受ける印象が結構違ってきます。


色々な漫画を見ていると、キャラの魅力が足りないと思ってしまう漫画も結構あります。
ストーリー的に何かが起きてキャラがそれに反応するだけの淡泊な漫画になってしまっているケースもわりとあります。
キャラがストーリーを動かすためのただの駒でしかない感じになっている。

そうではなく元のキャラクター設定の段階で読者の共感や親近感、好感を抱かせるような要素を入れていくべき。

キャラの設定は後付けもできるため、連載中にキャラに新しい一面を足していく事でもそのキャラの魅力を増す事ができるでしょう。


漫画を雑誌やアプリで連載中の人だけでなく、連載を勝ち取ろうと何度もネームを編集者に提出している人も、「キャラの魅力が弱い」と言われたら今回の記事を参考にキャラに共感や親近感、好感を抱かせる要素をいくつか足してみてください。
編集者の反応もずいぶんと変わって「キャラがずいぶん魅力的になった」と言ってもらえるでしょう。

SNSで漫画を連載している人もやはりキャラの魅力が強い方が読む人の数もずいぶんと増えるでしょう。


漫画を作っている人はもちろん、小説を書いている人もキャラの魅力如何でその作品を読む人の数や売れ行きも違ってきます。
あなたが書いている小説のキャラは共感や親近感、好感を抱かせるキャラにきちんとなっているでしょうか?


コンテンツというのは結局何が一番大事かというと「ユーザーの心をしっかり動かす」という事です。
これがきちんとできている作品ほど評価が高くなったり、売れ行きも良くなります。

そのためには面白いストーリーはもちろん、キャラがしっかり魅力的である事、そしてキャラを魅力的に感じさせるためには共感や親近感、好感を抱かせる要素をきちんとキャラに入れるのが大事なのです。