漫画家やイラストレーターのための腱鞘炎対策の話

漫画家やイラストレーターなど、仕事で絵を長時間描き続ける人の場合、腱鞘炎や腕部の筋肉痛対策は必須となっています。
プロはもちろんアマチュアで色々な絵や漫画を作っている人も同様。

腱鞘炎が悪化すると痛みで長時間描き続けるのが難しくなり仕事にかなり影響が出たり、さらに悪化すると手術などするはめになる事もあります。

独自に色々な対策をやっている人もいると思いますが、どういう腱鞘炎対策や筋肉痛対策をしていくべきかを書いていきたいと思います。


<そもそも炎症とは?>

腱鞘炎は細胞に炎症が起こっている状況です。
炎症時には細胞自体が傷んでいて、体内ではその患部の細胞の修復作業を必死になってやっているという状況です。

食事内容や日頃の行動、仕事中の行為によって炎症の治る早さ(細胞の修復速度)がずいぶんと違ってくるのです。

<筆圧設定の調整>

デジタルで作画している人はタブレットのドライバーだったり作画ソフトの筆圧調整機能で、「もう少し腕の力を抜いて作画できるようにする」という風にする事で腱鞘炎や筋肉痛のなりやすさを緩和できます。
力を入れた作画をする人ほど腱鞘炎や筋肉痛になりやすい。

ただし漫画の連載中に筆圧設定を変えてしまうと絵がおかしくなる事があるため、連載していない時期にこれをやって慣らしておいた方が良いでしょう。

<日常生活では利き腕の使用回数を意識して減らす>

仕事の時に利き腕を酷使するからこそ、日常生活ではその利き腕にはしっかり休んでもらうべきです。
日常生活の多くの時間は利き腕の力をしっかり抜いておいてあまり使わない。
一秒でも長く利き腕を休ませる」の意識を。

「ドアを開ける」「スイッチを押す」「蛇口をまわす」やその他の利き腕でない方でしても問題ない事は、これからは意識してそちらの腕でやってみるようにしましょう。
スマホはともかく机の上にタブレットを置いて操作する時は利き腕ではない方の腕でもっぱら操作したりも。

これらを意識すると一日に利き腕を休ませる時間がずいぶんと増えます。

ただし「包丁を使う」「落とすと大変な物を持つ時」などは利き腕のままにしておかないと怪我や物損事故を起こす事があります。
リチウムバッテリーが搭載されている製品を不慣れな方の手で使って落としてしまうと、後で内部でショートして突然出火して火事を起こす場合もあります。

このように日常生活では利き腕の方は意識して力を抜いて休ませて、もう片方の手でやっても問題ない作業はそちらでやると腱鞘炎のなりにくさもずいぶん違ってくるでしょう。

<患部を揉んではいけない>

腱鞘炎や筋肉痛になった人やなりかけの人に「患部を揉みましょう」みたいな事を言っている人もいますが、それはかえって逆効果になります。
炎症や筋肉の損傷が起こっている箇所では細胞が壊れていて、その修復作業が行われています。
患部を揉んでしまうと修復作業中の細胞を潰して傷める事になり、治るまでにより時間がかかってしまうため、患部を揉むという行為はおすすめできません。

これは腱鞘炎に限らず怪我においても同様で、患部を不必要に触ったり圧力をかけない事は細胞の修復を邪魔しないために大切な事です。

<睡眠をきちんと取る>

睡眠中に肉体の修復を促す物質(ホルモン)の分泌がより活発になるのが色々な研究でわかっているため、きちんと睡眠を取る事が大事です。
睡眠不足な生活を続けると確実に傷の治りが遅くなり、腱鞘炎になりやすくなったり、なっている時もなかなか治りにくくなってしまいます。

<血液とリンパ液の流れを良くする軽い全身運動を仕事の合間に行う>

仕事の合間合間に立って軽い全身運動などをして、血流を良くしたりリンパ液の流れを良くすると肉体の治癒速度が上がり、腱鞘炎になりにくくなったり、なっている時の治りの早さが違ってきます。

ウォーキングなどでも同様に血流改善と治癒速度向上効果があります。

細胞の修復作業で必要な物質が送られてくる血液、また細胞の修復過程で発生する老廃物を排出するリンパ液、この双方がきちんと流れてくれないと細胞の修復速度がずいぶんと低下してしまいます。

座ってばかりで普段体を動かさない人は血液やリンパ液の流れが悪くなり、細胞が修復されにくい体質になってしまいます。

<栄養バランスの取れた食事をする>

栄養バランスが偏った食事を続けると肉体の治癒速度が低下するという事もわかっているため、食事にも気をつけるのが大事です。
たんぱく質はもちろん、ビタミン類もきちんと野菜などから取るようにしましょう。

人の肉体の修復に必要なのは必須栄養素とビタミン類です。
これらが欠落した偏った食事は確実に細胞の修復速度を低下させてしまいます。

<甘い物を飲食しすぎない>

お菓子やジュースなどの甘い物をよく飲食すると血糖値が上がりやすく、高血糖状態では血液中の糖分が増える事で血のめぐりが悪化するのが分かっています。
高血糖の時間が多い生活では肉体の損傷個所の治癒速度を低下させてしまいます。
実際に糖尿病の人達が傷が治りにくいというのは有名な話です。

また甘い物はビタミンの消費も促してしまい、ビタミン不足によっても細胞の修復にずいぶんと影響が出てきます。

<脂質の取りすぎにも注意>

脂質を取り過ぎると血液がドロっとした状態になりやすく、これでも血液の流れを悪化させて細胞の治癒速度を低下させてしまいます。
脂質は必須栄養素の一つのため適度に取るべきですが、油っこい物を食べ過ぎるなどはしないようにしましょう。


<連続して絵を描かず、合間に腕を休める時間をきちんと設ける>

仕事に熱中してつい休みも取らず連続して長時間絵を描き続けてしまう人もいると思います。
休憩無しでずっと絵を描き続けると腕への負担もより高くなってしまいます。
合間合間に意識して腕を休める時間を入れていくと腱鞘炎になりにくくなります。

休憩の際は頭も休めてあまり物を考えないようにしておくと脳疲労の軽減にもなるでしょう。
休憩中にスマホを触りだして腕も頭も使うというのはおすすめできません。

<ネームやあたりや下描き作業では意識して腕の力を抜いて線を引く>

ペン入れの時はきちんと腕に力を入れる必要がある一方、ネームやあたりや下描きの線の作画は腕にほとんど力を入れていない状態でペンを動かしても大丈夫な事が多いと思います。

これらの時は「腕の力をきちんと抜く」と意識して作画してみてください。
こまめにこれを意識しないと、いつの間にか力が入っているという事もあります。

<ひじを使って作画してみる>

絵の作画は「手首を動かして作画する」と「ひじを動かして作画する」の二種類に分かれています。
手首を動かして作画する事が多いほど腱鞘炎になりやすいため、ひじを動かして作画でも問題ない時は手首を動かさないこの作画方法をやってみましょう。

全ての線の作画をひじを動かして描くようにすると描きにくくなるため、あくまでもひじでの作画でも大丈夫な線の描画の時に時々これをやってみましょう。


<冬場はきちんと温かい環境にする>

冬に寒さを感じたらきちんとエアコンや暖房器具を入れるようにしましょう。
寒い環境で無理に作業を続けると冷えにより血管が縮小し、血流が悪化して細胞の修復速度を低下させてしまいます。
温度を上げすぎて頭がぼーっとするのも駄目ですが。

また、エアコンや暖房器具使用の際はこまめに換気する事もお忘れなく。


<ボタン連打を要するゲームはあまりプレイしないようにする>

ゲームを息抜きや娯楽としてプレイする場合は、「ボタン連打が多いゲームはあまりプレイしない」を意識すると良いでしょう。
シューティングゲームなどでは自分でボタン連打するゲームもあり、仕事で腕を酷使しているのにゲームでもボタン連打で腕を酷使すると腱鞘炎になりやすくなってしまいます。

シューティングが好きな人はオート連射機能を使うのをおすすめします。

机の上にタブレットを置いて遊ぶゲームも利き腕ではない方の手で操作してみましょう。


<マウス操作は意識して力を抜く>

PCでゲームをする人もマウス操作で何気に力を入れて腱鞘炎を悪化させる事もあります。
マウスを使う時はゲームでも普段のPC作業でも意識して力を抜くようにしましょう。
マウス使用時は「握らず手をかぶせるだけ」や「力を抜く」をこまめに意識してください。

また、マウス操作も手首ではなく肘を動かして操作する癖をつけましょう。

慣れが必要となりますが、PCの一部のマウス操作は左手用のマウスや左手用のトラックボールでやるようにすると、右手で絵を描いている人は右手を休める時間がそこそこ増える事になります。


<キーボードで文字を打ちすぎない>

腱鞘炎というのは絵を描く人だけでなく、PCで大量に文章を打ち込むライターや作家でもなる事があります。

SNSにはまると文章を書きすぎて腱鞘炎を悪化させる事になるので、ほどほどの文章量で終えるようにしましょう。


<悪化してからではなく日頃から腱鞘炎対策を意識した生活をしておく>

腕に痛みや違和感が出てきてから慌てて対策しても、もうすでにその段階ではかなり腱鞘炎は悪化している状況です。

悪化してから慌てて対策をするのではなく、日頃から腱鞘炎になりにくい生活をしている事が腱鞘炎対策では大事だと思います。

良い作品を生み出すには健康な体でいる事も大切です。
肉体はもちろん脳もしっかり休めるように。
プロとしてやっていく人は体調管理をしっかりやる事も大事なのは言うまでもない事です。

体の悲鳴を無視して仕事を続けると、やがてまとまった形でその代償を支払う事になってしまいますので注意してください。