<漫画やアニメの作画効率化の話> キャラクターの顔の作画効率化は悪い事なのか?
漫画家が長く漫画の仕事を続けるのに大切な事とは何だと思うだろうか?
「面白い漫画や魅力的な漫画を作り続ける事」というのももちろんあるが、それ以上に「自分の健康をきちんと維持し続ける事」というのがある。
漫画の製作の仕事は漫画家もアシスタントもきちんと休憩を取れずに体を酷使しながら続けているという事をしている人も未だに多い。
若い頃はそのような激務でも体がもっても、そういう仕事の仕方をしているとある日突然体を壊して長期間漫画家の仕事を休む事にもなりかねない。
場合によってはそのまま漫画家の仕事がずっと止まってしまう人もいる。
きちんとした休憩を取るには「作画の効率化を色々考え、それを意欲的に取り入れて休める時間を増やしていく」というのが大事だ。
アナログではなくデジタル作画に変えるとトーンなどの処理がかなり時間がかからなくなったし、枠線を引く時間の短縮化、下書きを消しゴムで消す時間もいらなくなった、その他にも色々な時間短縮ができるようになり漫画家やアシスタントの負担がずいぶんと減った。
また最近は背景を3D素材を使って作画を効率化したり、カメラで撮影した風景や建物写真を加工して背景の作画時間を大きく減らすという事もしている。
難しいポーズは3Dモデルを下絵として作画して時間を短縮している人もいる。
今回私が話をするのは「キャラクターの顔の作画の効率化」という話だ。
人によっては「こんな作画の効率化は読者をなめている」と怒り出す人もいるかもしれない。
しかし先にも書いたように「作画を効率化してきちんとした休憩を取れる時間を増やす」というのは長く漫画家の仕事を続けるためには大切な事だ。
「全部のコマはともかく一部のコマはこの方法で作画を効率化してみるかな」と考えてみて欲しい。
<5X6のキャラクターの頭部のテンプレート画像を作って一部のコマの顔の作画を効率化する>
ジャンプでもマガジンでもサンデーでもいいので、掲載されているいずれかの漫画でコマを色々見ていって欲しい。
キャラクターの頭部だけを見ると、「わりと同じようなアングルの頭部画像」というのを見かけるだろう。
一話単位ではなくコミックなどで何話も見ていくと「同じキャラクターの同じアングルの顔画像は、事前にテンプレートを作っておいてそれを下絵として表示しながら作画するとわりと作画時間を短縮できる」というのに気づくはずだ。
キャラクターごとに「頭部のアングルテンプレート画像」というのを作ってみてはどうだろうか。
上下方向に5アングル、左右方向に6アングルの計30アングルの。
頭部テンプレート画像は鉛筆ツールや青い線のペンツールで下絵風の作画で行う。
まずは真正面を向いているキャラクターの頭部画像を作画。
次にその左側にやや右(向かって左)を向いたキャラクターの頭部画像を描く。
さらにその左にもう少し右(向かって左)を向いたキャラクターの頭部画像を描く。
さらにその左にもっと右を向いたキャラクターの頭部画像。
こういう感じで真正面の顔画像から左へ行くほどキャラが右(向かって左)を向いていく顔の頭部画像を描いていき、最終的には完全に右(向かって左)を向いた画像を一番左に描く。
真正面の画像とあわせてだいたい6アングルくらいあれば十分だろう。
使用の際は左右反転して使えるので、左方向(向かって右)へ向いていく顔は描かなくても良い。
次に真正面を向いているキャラクターの頭部画像の上に「やや上を向いた正面の頭部画像」というのを描く。
そしてその左側には「やや上を向いてやや右(向かって左)を向いた頭部画像」を描く。
あとは左に行くにつれてそのやや上を向いた頭部が右(向かって左)へ向いていく画像を描いていく。
今度はキャラクターの真正面を向いている頭部画像の下に「やや下を向いた正面の頭部画像」というのを描く。
これについても左方向に「少しずつ右(向かって左)に向いていく頭部画像」というのを描いていく。
こういう感じで、だいたい縦方向に5種類(わりと上を向いている、やや上を向いてる、真正面、やや下を向いてる、わりと下を向いている)の上下方向のアングルを、横方向は6種類くらいで少しずつ右(向かって左)へ向いていく頭部の画像を描く。
5X6で計30種類の頭部のアングル画像ができあがる。
ここにさらに余白に「パースがかかった斜めの頭部画像」も何種類か描いておく。漫画の中ではパースのかかった顔画像も結構登場するので。
これがキャラクターの頭部テンプレート画像だ。
あとは実際の漫画作画の際、「ポーズが複雑だったり、きっちり描きこみたい」というコマはともかく、あまり力を入れていないコマの場合はこの頭部テンプレート画像を下絵として読み込んでから作画する。
キャラの表情はその都度変えて描いていく。
本来は漫画のキャラクターの作画は何もない真っ白な状態から
・当たり用の作画(顔のパーツの位置やサイズを軽く描く)
・下描きで顔や体を描く
・ペン入れ
というのをしていくのだけど、実際は下描きの時にキャラクターの目や鼻、口のサイズや位置がうまく決まらずにここでわりと時間がかかってしまう事がある。
でも事前に作っておいた頭部テンプレート画像を下絵として作画すると
・頭部テンプレート画像の読み込みと位置やサイズ傾き調整や左右反転
・下書きレイヤーで体を描き足す
・ペン入れ(下絵と違う表情の場合はペン入れの時に表情を変えるか、下書きレイヤーに下絵とは違う表情を描いてからペン入れする)
で顔の部分に関しては作画時間が短縮されるし、何よりキャラの顔の作画が安定するようになるので「コマごとに同じキャラの顔が違ってくる」という漫画家にとってわりと悩ましい現象を解消する事ができる。
「なんかこのコマは顔が変になって別人のようだ」という事で作画しなおしてそこそこ時間を余計に取られるという事が減る。
顔ではなく体についてはその都度描く事になるが。
全てのコマで頭部テンプレート画像を使うとコピペみたいな漫画になるのでおすすめできないが、「このコマは力を入れていない」というコマ(わりと漫画で多い)については、今回私が提案した方法で頭部の作画時間を効率化されてはどうだろうか?
「漫画は一コマ一コマきちんとゼロから描いていくのが本来の姿だ」と思って怒る人もいるかもしれない。
しかし最初にも書いたように漫画家にとって特に大切な事は「自分の体を壊さないためにきちんと休憩を取る」というのがあり、一部のコマはこういう事で作画時間を短縮化して休憩の時間を増やすというのをやってはどうだろうか。
休憩をろくに取れずずっと座りっぱなしで痔や腰痛になったり、腱鞘炎がひどくなって作画に支障をきたす人もいる。
時々休憩を取れるようになると、体を休めたり軽く立って体をほぐすなどでもずいぶんと肉体の疲労や痔や腰痛やその他の病気のリスクなども違ってくるはずだ。
これで稼いだ時間で休憩できる時間を増やすのも良いし、時間にわりと余裕ができた場合は「もっと作画を頑張りたいコマにその時間を使う」というのでも良いのではないだろうか。
今は漫画制作ソフトで3Dの頭部モデルを使って色々なアングルの顔を効率良く作画できるようにもなっている。
頭部3Dモデルを使って作画時間を短縮化するのも良いし、「3Dの頭部モデルは自分の漫画の絵にはあっていない」という人は私が今回提案したように「色々なアングルのキャラの顔画像を事前に作っておく」という事をして、それを下絵に作画されてはどうかと思う。
・ポーズがわりと複雑なコマ
・キャラの顔の表示が小さいコマ
の場合は頭部テンプレート画像は使いにくかったり、使う必要が無いと思うけど、顔のアップのコマや肩から上しか出ていないコマ、場合によってはバストアップのコマで使えるだろう。
アニメの制作においてもこのような5X6種類(+パースのかかった顔数種類)の頭部テンプレート画像をキャラクターごとに事前に作っておくと、一部のシーンにおいてはキャラの顔の作画時間短縮化になってアニメ制作スタッフの負担を減らしたり、また顔の作画が安定する事にもなるだろう。
顔が動かず口やアゴだけ動くシーンとかでは。
漫画やアニメの作画の場合、「真正面の顔の絵でさえ真っ白な状態から描いていくと実際は結構時間がかかる」というのがある。
同じ真正面を向いている顔でもコマやシーンごとに顔の感じが違ってしまわないよう、目や鼻、口やその他のパーツの位置やサイズなどに神経をかなり使うし、うまくいかなかった場合はパーツの描き直しなどで時間が取られてしまう。
でも事前に作っておいたキャラクターの真正面の頭部画像を下絵に作画すると作画にかかる時間がそこそこ短縮化されるわけだ。
こういう作画の効率化は私はやって良いんじゃないかと思っている。