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  怒るにも、体力がいる。勇気もいる。ので、私は人に直接怒りを露わにするのは全く無い方で、代わりにこうやって誰が見るかもわからない場所でこっそりと愚痴を撒き散らしている。けど、この頃は「きちんと言ってやんなきゃ浮かばれない感情」もあるのかもしれないんじゃないかと、感情だけが先走って、崖の先に行ったり来たりを繰り返している。なんとか感情が身を投げずに済んでいるが。

  怒りを表現することのできる人は、改めて尊敬する。怒ることができないわたしは、共感のできるその叫びに身も心も委ね「私は完全に一人じゃない」のだと安心感を得るのだが、それでも各個人の怒りはそれを抱いたその人のものだし、私の怒りもまた私だけのものであるという事実は変わらない筈だ。私たちは一人だ、「みんな」は一人一人違うのだし、当然私もまた違う一人なわけで、誰かが何の気なしに「みんな」という単語を発するとき、きっと私の存在も無意識にふわりと混ざっているのかもと思うと不思議な話だ。怒る方法を忘れてしまっても、私を名乗れる人間は私ただ一人だけであるということを、忘れてはならないような気がする。

  私はハーフだ。両親が国際結婚をしたのだ。離婚してしまっているがめでたいことがあったのはほんとうのことで、おかげで私も生まれてくることができた。ありがたいことだ。しかし私は今も精神が成熟しきっていない若輩者で、年齢を考えれば当然ちゃ当然で、私はそれを恥じるのだけども、しかし同時に拭えないコンプレックスもあったりしちゃって、尚のことそれが落とすのにめちゃくちゃ手間取る油汚れみたいな感じで、ハーフだからってやな気持ちをしてしまったことが多かったっていう、言ってしまえば偶然に起きてしまったことに囚われてるわけで、私はそれをピカピカにする方法を現在も手探りなわけなのだけれど、も。しかしやっぱ気が弱くなってしまうんだよな、夜にそういうことばっか、考えちまうのよな、夜は考え事には向かないわよ、夜は寝る時間なのよ私、きいてんの、おい私、こんにゃろ、ばーかばーか。

  でもほんとのばかはここからで、私はつい、ツイッターを開いて自分のコンプレックスを吐露してしまった。吐き出してしまったんだ、公共の場で。誰にも気付かれなくていいと思ってたコンプレックスを、ついついゲロってしまった。数時間おいて、ツイートを消そうと思ったら、さいあくなパターンのリプライが付いてた。

  「俺はかっこいいとおもうけどな❗️気にし過ぎじゃないかな⁉️産んでくれた親に感謝、自分に自信を持つべし👀」

  私が卑屈すぎるんですかね、救って欲しかった訳じゃないけれど、なんかもうこんなの、逃げ場がないようで辛くなってしまった、親には感謝してるよ、自分に自信も持ちたいよ、ていうかテメ誰だよ、お前はお前は、ハーフだからって仲間はずれにされたことないだろ、銀行口座つくりたいだけなのに困ったことないだろ、おまえは気にしないで済む人生を過ごしてきたっていうのかよ、だまれだまれ、ちくしょう、わかった風な口きいて慰めようとすんなよ、おまえにはわかんないだろ、なんで急に視界に入ろうとすんだよ、強くなれってか、いちいち強くなれないよ、おまえはおまえの人生のなかで、いちいち強くなる必要があったのかよ、男で、長男で、純日本人で、日本で暮らすのにじゅうにぶんの資質を自動的にもたされて生きてきたおまえが、なんで私を慰めていいんだよ、勘弁してくれ、きらいだきらいだだいきらいだ

  という偏見まみれの私情を、私はやはり、ごくんと飲み込むしかなくて、でもやっぱり、ありがとうございますが出てこなくて、結局そのツイートは消さずに放置しているし、リプライにも返事はしていない。ちいさすぎる抵抗だ。

  誰に返事してほしいわけでもないネガティヴは、誰かに慰めてほしいというSOSと取られる可能性があるのを知った私は、うっすら絶望してしまった。もうあのアカウントで自分のコンプレックスについて話すのはやめよう。私のことを一番わかってあげれるのは多分私だから、これからは、もっとこっそりと吐露していこう。作品でも、noteでも、メモ帳でも。自分のテリトリーを確保しなきゃ。誰にも邪魔されずに済むような場所を、獲得しなくては。



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