ハワイの恋が終わり苦しみの先に、悟りへの道が開けた 43
第六章 43 りさのがん再発の疑い
りさはクリスと会わなくなって、4か月後に婦人科へ行った。一年検診を受けたのだ。なんとなく4年前に、そう、クリスと出会って、すぐに発病した乳がんだった同じ胸に、違和感があった。
それをドクターに告げた。
「少し左胸が晴れたような、筋肉痛かもしれないのだけど」
ドクターは言った
「エクセサイズをしているなんて、偉いじゃないかい」
冗談を言いながらも、私の乳がんの再発ではないかと、少し疑いを持ったドクターの考えが、彼の真剣な目で読み取れた。
すぐにマモグラム、胸のレントゲンの予約を取るように指示を出し、次の日に予約を入れた。
私は悟りの勉強をして、もう少しでわかりかけるのではないか、と言う段階で、病気になるとは考えられなかった。
次の日、マモグラムを受けた。胸の大きくない私にとって、苦痛を伴ったレントゲン写真の撮影だが、もうその痛みには慣れて来ていた。
外に出て、ナースが医者の返事を聞きに行く間に思った。
(もしも悪い結果だとしたら、いったい私は何がいけなかったのだろう)
なるべくオーガニックの食材を買い、運動量は少なかったが、この半年間はクリスへの執着心が暴れたおかげで、5キロも痩せた。
先日10日間のバケーションで、体重が少し戻ってきたばかり。
(なんで罰が当たったのだろう)
クリスをいじめたからだろうか。いや、そんなことはない。連絡をするのを我慢したのは私の方だし、それは、彼とよりを戻すわけではない。彼が間違った選択をしているのを、阻止したかった。彼には幸せになってもらいたかったから。いや、すごく幸せになってもらっては困る、あの女とさえ結婚しなければ良いのだ。という新しい執着が、後半の想い
に生まれていたせいだろうか。もしも、これで死ぬようなことがあったら、死ななくても、癌になるようなことがあったら、もうクリスに会う事がないとしたら、私だけがわかる、クリスの状況を彼自身に教えてあげるべきではないのかと思った。
助かったら、会おうと決めた。
ナースが帰ってきて私に告げた
「ウルトラサウンド、エコーでも検査しましょう」
ああ、ひっかかってしまったようだ。
「もう少し、確かめたいからよ」
と、ナースは、私が心配しすぎないように、軽やかに言った。
終ってからナースは
「2―3日でドクターから結果が行くから。もし電話がなかったら、ドクターに電話してね」と言い添えた。
それから私は仕事に出かけた。終った時に電話が鳴った。ドクターだった。
「検査の結果はネガティブだったよ、良かったね」
私は神様にお礼を言い、守護天使にお礼を言い、守護霊様にお礼を言った。
「マハロ、ありがとうございます」
そしてクリスに電話した。
クリスはそんなに驚いた様子も興奮している様子もなく、ただ嬉しい感じでりさの電話に答えた。10分後に電話すると言った。
その日の夕方に家に呼んだ。部屋に通すわけにはいかない。コンドミニアムの中の、プールサイドで話をした。
「もしも私の乳がんが再発して、もうあなたに会えなくなるとしたら、やっぱり言っておきたいと思って。今ならまだ結婚をやめられるのではないの?他にいくらでも候補は出てくるよ。モテ期が来ていたじゃないの。数人の女性と付き合っていたらしいじゃない?それってあなたの嫌いな不倫よね?」
クリスの聞きたくないことまで、勢いで話してしまった。
クリスは言った。
「もう結婚は決まったことなのだ。後には戻れない。」
以前にも言われた台詞だった。あきらめたような印象だった。話し終えて、案外あっさりとクリスは帰って行った。
私は自分の言いたいことを言って、何回もクリスが話そうとするのを遮ってしまった。もっとクリスのことを聞いてあげればよかった、と悔やんだ。その思いが3日間に渡って残ってしまった。
ケリーにその話をしたら
「どうせ何を言っても聞きませんよ。」
と、あっさり言われた。
そうかもしれない。これでまたメールを出したら、また縁が深くなってしまう。またりさが乱れてしまう。
結局、どんなに重たい波動に戻っていたとしても、ペーパーマリッジの状態であるとしても、日本から通いの奥さんを痛めつけているクリスには、結構楽しいことも起こったり、成功したりもするのだと思う。
一生懸命には働いて、外面は優しい素晴らしい説教をする牧師先生に、神様はそんなにひどいことはしないのかもしれない。
ただ、奥さんがいない時期は、さびしくて切なくてたまらないだろう。そして他の女に救いを求めていくのだ。
さて、それも実は私には全く関係なく、クリスの問題。どんなにクリスが不誠実だったとしても、それはクリスの奥さんが関わるプロブレム。別れた女の私には、全く関係ない事である。
私に、クリスと再びやり直したい気持ちがあれば、そこで介入して奥さんから奪うような考えもあるわけだが、私はどう考えたってクリスを選ぶことは99%ない。と言うことは、私の本当の自分とは関係ないことを考えていて、私の思考や感情はクリスの寂しさによる行動が、正当化どうかなど、関係ないのだ。
りさは、この瞬間を敵に回して、ぐるぐる思考の中で葛藤し、嫌な気持ちになっているだけなのだ。
私はまだ思考の罠にはまってしまった。
荒木和義さんの手放し法をしたり、
「オンシュダシュダ、オンシュダシュダ」
と呪文を唱えたりして、[この木何の木]のモンキーポッドの大木の下に寝そべって、元の自分に戻す事を毎日のようにした。
モアナルアのウェディングの仕事がある日には、必ずこの木何の木の公園に立ち寄り、寝転んで本を読む。ただ、寝転ぶだけの時も多い。
大木からの良いエネルギーが、思考に乱れた私を癒す。こつを掴んで、悟りの本のどのページを開いても、今のここに居なかった自分がわかるようになってきた。
元の自分に戻る時間が、だんだん早くなってきた。3日後にはもう連絡しないと決めて、落ち着いた。
彼の波動が重くて、何を言っても伝わらないし、彼の身勝手な嘘で固めた話にひっかからないようにしなければならなかった。
もっと純粋なクリスだったのに。
寂しさと失敗を認めたくない自分との葛藤のうちに、彼の性格が変わってしまっていた。これを乗り越える事が、彼が彼女を選んだ修行なのだ。乗り越えられなかったら彼はいったいどうなるのかと思うと、ぞっとした。
彼の以前の上司と同じ状態になってしまうと思った。髪を長くして、売名行為に走り、女遊びをして、平気な顔をして礼拝で説教する。
クリスは一度言ったことがある、
「僕は女を抱いた後の男がわかるのだ。上司は、今朝は絶対して来たと思う」と。
上司はクリスを毛嫌いしていた。初めは兄弟子だった、クリスを可愛いがっていた。しかししばらくすると、クリスはりさのお陰でホノルルでは有名な牧師になって行った。
上司は講演会で居合わせたクリスに言った
「お前、何をしに来たのだ」
ほかの信徒の前で怒鳴ったりした。ライバル視したのだ。
クリスが私に言い放った言葉で、りさはクリスの上司を思い出したのだ。
クリスは自分の名前に先生付けをして
「時子は、クリス先生より30分早く起きて、支度するのだよ」
「30分早く起きます、と言って掃除をしているのだ」と自慢した。
私はクリスに、グーでパンチするしぐさをした。
「そんなことは私に言ったら、これだよ。」
以前、私の家に泊まっているのにもかかわらず、クリスは言ったことがある。
「朝、包丁でおネギを刻んでいる音で目覚めたいな。するとお味噌汁の香りがしたりしてさ」
私は言った。
「クリスが作りなよ」
クリスがのぞんでいるのは、掃除ではないのだ。朝食を作って欲しいのだ。時子は私に泣きついたときに言った。
「どうして欲しいか言わないので、わからないの」
クリスは相手をコピーする。相手が心を開いていれば心を開く、りさのように。
残念ながら、クリスがコピーしているのは、話をしない秘密主義の時子さん、あなたなのよ。時子に教えてあげたかった。