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徳地の重源さん、奈良の重源さん(第5回 心身を癒やす石風呂)
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ふるさとへの軌跡 徳地の重源さん、奈良の重源さん 〜奈良からの便り〜文筆家 倉橋みどりさんによる寄稿記事です。
東大寺再建を成し遂げた俊乗房重源上人の足取りを奈良と徳地の二つの地から紐解きます。
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重源さんの旅の2日目、岸見の石風呂を体験した。1186年(文治2)に、重源上人が杣人たちの病や疲れをケアするために作ったものだという。地元の花崗岩を積み上げた石室の中で小枝などを燃やして石を熱く焼く。その後、火をかき出し、ぬれたむしろ筵や毛布などを敷いた上に寝そべって熱気浴をする。要するに「サウナ」だ。
徳地を中心に同様の石風呂は70以上もあり、なかでも岸見は、800年前と同じように「使う」ことができる史跡であるのが素晴らしい。保存会のみなさんが、私たちが到着する11時ごろにちょうどよい加減になるよう、早朝から準備をして待ってくださっていた。服を着替え、いよいよ…と思ったら、「まずはこちらを拝んでくださいね」 と重源さんの木像の前に案内された。自らを南無阿弥陀仏と号した重源さん、体の疲れをとるだけでなく、こうして祈ることで、心の癒やしも得られるように考えていたのかと感心する。石風呂の内部は幅2.27m、奥行2.51m、高さ1.74m。3〜5人ずつで順に入って、寝そべる。数分もしないうちにじわじわと体じゅうに熱が回っていく。私は5分ほどで満足して這い出してきたが、「ずっと入っていられる」と豪語した友人も。彼女からは「石風呂にもう一度入りたいなあ」と今だに言われる。かき出したおき熾を集めた囲炉裏で焼いたお芋やかき餅のおいしさも忘れられない。保存会のみなさんのあたたかいおもてなしのおかげで、心身ともに温まる石風呂体験となった。
(執筆:倉橋 みどり氏)