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生成AI(人工知能)時代の特許制度について ~進歩性の判断基準はどうなる?~
特許は、進歩性と呼ばれる「技術的な新しさ」が求められます。
これが、生成AIが発達してきた世の中で、従来の判断基準では吸収しきれなくなったのではないかと思います。
以下のように、論点をまとめました。
1. 従来の進歩性判断の前提
従来、進歩性の評価は以下の前提に立って行われてきました。
自然人の創造性と試行錯誤
発明は、技術者(当業者)が容易に考えつく範囲を超えた、創造的かつ非自明な技術的解決手段である必要があります。限定された創作リソース
高コストな実験や膨大な知識の蓄積により、少数の発明が創出されるという「稀少性」が配慮されて、実体的には進歩性が評価されていた。
2. AI時代の新たな背景
AIが発明プロセスに組み込まれると、以下のような変化が生じます。
大量かつ迅速なアウトプット
AIは人間が疲れることなく、かつ大量のアイディアや解決策を短時間で生成できるため、従来の「稀少性」という前提が薄れる可能性があります。AIと人間の協働
多くの場合、AIはあくまで「道具」として利用され、人がAIに対して具体的なプロンプトを与えたり、出力結果を選別・修正することで発明に至ります。この場合、発明の着想部分において人間の貢献がどの程度評価されるかが重要なポイントとなります。技術的複雑性の増大
AIが生成する技術は、膨大なデータ解析やシミュレーションに基づくため、従来の当業者が容易に再現可能な範囲を超えるケースも出現します。しかしながら、AIの活用が必ずしも「進歩性」を自動的に担保するわけではなく、どこまでがAIによる自動生成でどこからが人間の知的介入なのか、その境界の設定が課題となります。
3. 進歩性評価の再考
3.1 当業者像の再定義
従来の「当業者」は、経験豊富な技術者として設定されていましたが、AIが普及した環境では、AIを効果的に活用できる技術者が当業者像として再定義される可能性があります。つまり、AIの出力結果を精査し、そこから真に革新的な要素を抽出する能力が、進歩性の評価において重要視されるでしょう。
3.2 発明の創作過程の評価
AIが生成する多様なアイディアの中から、実際に有用な発明として成立するためには、人がどのようにAIの出力に対して判断・修正を加えたかが焦点となります。たとえば、以下のような点が評価基準に加えられる可能性があります。
プロンプト(入力指示)の精度と具体性
AIに対して与えた課題設定やプロンプトが、発明の独自性にどの程度寄与したか。出力結果の選別と改良
AIが大量のアイディアを生成した中から、人がどのように評価し、具体的な技術的解決策へと落とし込んだか。技術的融合の度合い
AIの出力と人間の専門知識との統合により、従来の技術水準を大きく上回る創造的な技術思想が生成されたかどうか。
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4. まとめ
★プロンプトが出力結果に影響を与えるから、生成AIを利用した発明においては、プロンプトが進歩性のウェイトを占める可能性がある。
★出力結果が複数でるような生成AIにおいては、効果が高い出力を選択したユーザのフィルター基準(これがAIの内部的なアルゴリズムとして含まれる)が進歩性に寄与するのかもしれない。
上記のようにまとめられるが、特許出願人が特許出願を提出した際に生成AIを利用して考えましたと自白することもないので、この基準で判断ができるかというと、問題は残る。
明らかに、特許の請求項の構成からして、「AI」の利用を書いてあるなら良いが、そういう特許の構成にAIの利用が反映されていない場合は、結局のところ判断がつかないので、安易に判断基準を更新することができない。
※バックテスト的に特許庁の審査官が生成AIを利用して実験すれば良いのかもしれないが、それはとても負荷が掛かる作業になる。
故に、生成AIが台頭し、かつ、過渡期の今は、色んな議論が巻き起こって大変な時期と言えるでしょう。
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参考資料:
執筆/得地