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【楽曲考察】Peterparker69「fallpoi」~気分を上げることと空白を埋めること~
本記事ではPeterparker69(ピーターパーカーシックスナイン)という音楽グループの「fallpoi」(フォールポイ)という楽曲の感想を語ります。
1. はじめに
1-1. Peterparker69とは
Peterparker69はJeterとY ohtrixpointneverの2人からなるユニットで、基本的にJeterが作詞・歌唱、Y ohtrixpointneverが作曲を行っています。
詳しい説明は、LinkCore(リンクコア)にあった紹介文がよかったのでそのまま引用させてもらいます。
"JeterとY ohtrixpointneverによるポップユニットPeterparker69。
2022年に結成されてからすぐにリリースした1stシングル”Flight To Mumbai”は既にアンセムとして絶大な人気を東京のクラブシーンで獲得しており、同作が2023年のAppleのCM曲として活動1年目の若手ながら抜擢されたことも記憶に新しい。
そんな彼らが満を持して初のEP”deadpool”を発表。
どこか退廃的で夢想的なムードを纏いつつ、Peterparker69ならではの独自のポップスへのスタンスを表明した5曲と、AppleのCMにも採用された”Flight to Mumbai”1曲の合計6曲がEPとして収録されている。
彼らはそれぞれソロの楽曲でも海外の”Planet Rave”や”Hyperpop”といったプレイリストに入るなど、突出した音楽性を盾に自在に国内外問わず活躍を続けており、TohjiやkZmといったアーティストがリードするオルタナシーンの次世代を担う存在として方々から期待されている。"
大雑把にまとめると、「Flight To Mumbai」という代表曲が大きな話題を呼んだ若手注目ユニットというわけですね。
なお、「Peterparker69」というユニット名はかなりラフに名付けられたもののようです。
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◇
ちなみに私の大好きなピーナッツくんも「2022年印象に残った5作品」のひとつとして「Flight To Mumbai」を上げていました。
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1-2. Peterparker69との出会い
私はそんな感じでやけに「Flight to Mumbai」という名前を目にすることが多かったので、2022年は「Flight to Mumbai」は何度か聞いていました。
そして、2023年2月1日にPeterparker69の1st EP「deadpool」がリリースされたとき、私が目にした音楽関係者の人たちはこれを絶賛していました。そこで私も一度聴いてみたのですが、残念ながらそのときはそんなに良さを感じることができませんでした。やはり少し不思議な音楽ではありますから。そう簡単にハマることはできなかったです。
しかし、同年3月15日、PAS TASTAがリリースした1stアルバム『GOOD POP』にてPAS TASTAとPeterparker69の共作「blanc benzo」が収録されており、これがめちゃくちゃ気に入ってしまいました。今ではblanc benzoは『GOOD POP』の中で一番、いや、それどころか2023年にリリースされた楽曲の中で一番好きな楽曲になっています。
PAS TASTA & Peterparker69 - blanc benzo
『GOOD POP』の感想記事を書いているので、よかったら読んでみてください。「blanc benzo」だけ明らかに文章量が多いですが。
1-3. 『deadpool』との二度目の出会い
私は「blanc benzo」が本当に大好きでいつも何度でも聴いているのですが、あるとき仕事で非常につらい思いをすることがありました。定時が来て退社する同僚たちをみな見送った後、職場に一人残された私は何とか自分の心を救い出そうとイヤホンを装着しました。「あの曲でもない。この曲でもない」といくつか選曲している中で、「この最悪な気分からもっとも遠いところに連れて行ってくれそうなのは、やっぱりblanc benzoかな」と思い、blanc benzoを再生しました。
果たして目論みは成功し、やはりこの神秘的で恍惚とした音楽だけが私をもっとも現実から遠くへ連れて行ってくれました。
しかし、これだけでは足りなかったのです。もう少しblanc benzoに近いジャンルの救いと解放の音楽が聴きたい、そう思いました。
でもblanc benzoみたいな不思議なジャンルの音楽がこの世に他にあるのでしょうか。私なんかがそこに容易にたどり着くことができるのでしょうか。疑問でした。
しかし、そこで私はひらめいたのです。
「もしかしたらPeterparker69の音楽ならblanc benzoと近い音楽なのかもしれない」と。今思えば何でもっと早く気が付かなかったんだろうとは思います。
私は4か月ぶりにPeterparker69の1st EP『deadpool』を頭から再生してみました。そして今回はうまく行きました。かつて一度は通り過ぎた『deadpool』が、ここにきて刺さりまくったのです。どの楽曲もひとつひとつが私に大きな解放の気分をもたらしてくれました。
それからというものの、私は一日に一回は『deadpool』を通しで再生するようになりました。
雰囲気と音楽と歌詞がいいですね。結構ハマっていると思います。やっとちゃんと好きになることができて嬉しく思います。ちゃんと好きになれるときが来るまでは、変に無理して聞こうとはしないのもそれはそれでありだと思っています。
2.「fallpoi」感想
一番好きなのは「blanc benzo」ですし、「Flight to Mumbai」も文句なしに好きなのですが、不思議なもので何となく「fallpoi」がめちゃくちゃ気に入っています。どうしてこんなに惹きつけられるのかまだ自分でも詳しくわかっておりませんが、いま一番再生したくなる楽曲になっています。音楽としても気持ちよく乗れるし、歌詞にもすごく惹きつけられるんですよね。
というわけで、ここからは「fallpoi」の感想及び考察を述べていきます。
Peterparker69 - fallpoi
2-1. 歌詞
まずは歌詞全体を引用します。
題名:fallpoi
作曲:Y ohtrixpointnever
作詞:Jeter
I miss the days
うまく伝わらない
I miss the days
あんまいい気分にない
ボニーアンドクライドでさえ
銃を置いて舞を舞い
脳は体にない状態
あんまいい気分にない
ボニーアンドクライドでさえつらい
ってそう信じたい
Funny things
honey wit a butter cream
I miss the days 無駄に
All right all right
You got me trippin 泣いてない
I miss the days
あの日を真似る
Time flies
ない時間に溺れる
If i only knew
What I could do for you
Time flies
ない時間に溺れる
If i only knew
What I could do for you
I think about you
ない元気?
剥がれるband-aid
All was so silent and serene
溢れるsoda
I think about you
ない元気?
剥がれるband-aid
All was so silent and serene
で迷う
やっぱきっと最高のパート
だってすごいよ今は
やっぱきっと最高のパート
だってすごいよ今は
一人であんま聴いていないような
Radio
用はないのにtalk a lot of shit
(Haha)
白埋めてたい
その一瞬にね
もう言うコマーシャルのみたく
Change my flow
止め処なく
Sensation
不意に上がる
Change my flow
不意に上がる
I'm spidey逃げちゃうこのまま
Time flies
ない時間に溺れる
If i only knew
What I could do for you
Time flies
ない時間に溺れる
If i only knew
What I could do for you
I think about you
ない元気?
剥がれるband-aid
All was so silent and serene
溢れるsoda
I think about you
ない元気?
剥がれるband-aid
All was so silent and serene
で迷う
2-2. 歌詞解釈・感想
楽曲を聴いて歌詞を見て、感じたことを順番に述べていきます。
① I miss the days…
I miss the days
うまく伝わらない
I miss the days
"I miss the days"は和訳すると「あの日々が懐かしい/恋しい」みたいな感じですね。
「うまく伝わらない」からは、伝わってほしいのに伝わらないという悔しさやもどかしさを感じます。
冒頭からすでにセンチメンタルな印象です。
② あんまいい気分にない…
あんまいい気分にない
ボニーアンドクライドでさえ
銃を置いて舞を舞い
脳は体にない状態
あんまいい気分にない
ボニーアンドクライドでさえつらい
ってそう信じたい
この箇所の歌詞全体からは、「あんまいい気分にないけど、何とか気分を持ち直すきっかけを掴みたい」というささやかな前向きさを感じます。
Wikipediaによれば、
ボニーとクライド(Bonnie and Clyde)は、1930年代前半にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した犯罪者。
あまり詳しくありませんが、簡単に調べたところ、どうやら人々を惹きつける魅力のある凶悪犯罪者カップルのようです。様々な映画や舞台、音楽のモチーフになっているようですね。
「ボニーアンドクライドでさえ/銃を置いて舞を舞い」からは、怖いことより楽しいことを求めている心情を読み取りたくなります。
「脳は体にない状態」からは、この現実に縛り付けられた存在である「体」から、意識の中枢である「脳」が自由に遊離しているような状態が思い浮かびます。現実から解き放たれて恍惚とした浮遊感の中を漂っていたいというのは、まさに私がPeterparker69の音楽に求めている状態のひとつです。そうした状態が歌詞で表現されているように感じたので、少し好きな箇所です。
「ボニーアンドクライドでさえつらい/ってそう信じたい」は自分なりの解釈だと、「やりたい放題やってるように見えるボニーとクライドでさえつらいのかも、って考えるとちょっと気分がマシになる」という心情が歌われているのかなと思います。ボニーアンドクライドのことろくに知らないので自信ないですけどね。
③ Funny things…
Funny things
honey wit a butter cream
直訳したら、「面白いこと。バタークリーム付きハチミツ」でしょうか。
「甘すぎだろ」「調味料×調味料かよ」みたいなことを考えると確かにfunny thingsかもなぁと思います。
ちなみに"wit"は"with"の意味らしいです。個人的にはTohjiの歌詞でもよく見かけるので馴染みがあります。
④ I miss the days 無駄に…
またもや「あの日々が恋しい」という未練がましい心情と、「無駄に」という否定的な捉え方が描かれています。
「おもしろいこと考えよー。そうだ、バタークリーム付きハチミツとかどう? 甘すぎだろ笑」って無理やり楽しい気分に持っていこうとしたけど、やっぱりもう一度ダウナーな気分に落ちちゃったのかなという印象です。
なんとか楽しい気分に持ち直すための取っ掛かりを掴もうと暗中模索している様子がだんだん見えてきました。
⑤ All right all right…
All right all right
You got me trippin 泣いてない
I miss the days
あの日を真似る
和訳を混ぜ込むと、「大丈夫大丈夫/君は俺をトリップさせた 泣いてない/あの日々が恋しい/あの日を真似る」という感じでしょうか。
"君"と過ごした楽しい日々があって、そのときの感情を再現したいとすがるような気持ちでいるのかもしれません。
やはりメンタル的にギリギリな感じだけど、何とか這い上がろうとしているような印象を受けます。
⑥ Time flies ない時間に溺れる…
Time flies
ない時間に溺れる
If i only knew
What I could do for you
Time flies
ない時間に溺れる
If i only knew
What I could do for you
"Time flies"は「時は飛ぶようにあっという間に過ぎる」といったニュアンスで、日本語での「光陰矢の如し」に当たるほぼ慣用句的なもののようです。
"If i only knew/What I could do for you"は、和訳すれば「もし俺が君のために何ができるか知ってさえいれば」といった意味のようです。
あっという間に過ぎ去る時間の中で君に何かしてやることができず、ただ日々を無駄に過ごしてしまっているようなやりきれない感じが伝わってきます。
ここはJ-popで言えばBメロに当たるような箇所だと思っていて、サビ前の楽曲が少し展開を見せ始めた箇所というイメージです。
しかし、その後の箇所は確かにサビなのかもしれないですが、前のめりに躓(つまづ)きまくっているようなフロウが全然普通のポップスのサビらしくありません。すごく気持ちよくて大好きなんですけどね。
⑦ I think about you…
I think about you
ない元気?
剥がれるband-aid
All was so silent and serene
溢れるsoda
I think about you
ない元気?
剥がれるband-aid
All was so silent and serene
で迷う
(Google翻訳の力を借りて)自分なりに翻訳すると以下のようになります。
「俺は君のことを考えてる/元気ない?/剥がれるband-aid(=絆創膏)/すべてがとても静かで穏やかだった/溢れるソーダ」
ここはすごく前のめりなフロウで、思いが溢れ出しているような勢いを感じさせます。
「I think about you/ない元気?」は君に対する気遣いの心情ですね。
「剥がれるband-aid」に対する解釈の一つは、「すでに傷は癒えた」ことを象徴しているという捉え方です。
"All was so silent and serene(=すべてがとても静かで穏やかだった)"からは、最悪に落ち込んだ気分でもなければ、最高に高揚した気分というわけでもない、ただとても安全で安定した心地よい状態にあることが感じられます。
「溢れるsoda」は、フロウも相まってなんだか感情が溢れているような印象を受けます。溢れている感情は、相手に対する気遣いの感情か、それともやっと最悪の気分は抜け出したということを自分で発見したときの高揚か、そういった感情でしょうか。
"All was so silent and serene/で迷う"については、静かで穏やか過ぎて逆にどうしたらいいか戸惑っているのでしょうか。
まだ心理的に完全な安定の境地には至っていないようですね。
⑧ やっぱきっと最高のパート
やっぱきっと最高のパート
だってすごいよ今は
やっぱきっと最高のパート
だってすごいよ今は
ここ非常に気持ちいいですね。
曲の展開としては、サビの一番の盛り上がりが終わった後、少しずつテンションを落ち着けているような役割をもった箇所だと思います。
歌詞の「やっぱきっと最高のパート」からは、「音楽がこんなにも気分を回復させてくれたんだ」ということの喜びを改めて嚙みしめているような印象を受けます。
「だってすごいよ今は」については、「あんなにどうしようもない気分だったのに、今はもう嘘みたいに回復したんだよ」という驚きと喜びを訴えかけてきているように思われます。
「だって」といういささか子どもっぽさのある表現が用いられていることもあって、すごく自分のピュアな部分や幼い原初的な部分が直接的にこの喜びを表明しているのだと伝わってきます。
⑨ 一人であんま聴いていないような Radio…
一人であんま聴いていないような
Radio
用はないのにtalk a lot of shit
(Haha)
白埋めてたい
その一瞬にね
もう言うコマーシャルのみたく
「一人であんま聴いていないような Radio」については、特別ラジオを聴きたくてそれを流しているわけではないが、ただ空白を埋めるためにラジオを流しているといった状況が想像できます。
何となく満たされないから、何となくつまらないような気がするから動画や音楽、テレビなどを流して意識を埋めるといったことは私たちがしばしばやることですよね。
「用はないのにtalk a lot of shit」は「用はないのにくだらない話ばかりする」みたいな意味で取れるようです。友だち同士の時間の潰し方かなという気がします。
「(Haha)」言うて笑ってますし、楽しそうですね。
「白埋めてたい」からは、やはり「空白を埋めたい」というモチーフを感じます。
「その一瞬にね/もう言うコマーシャルのみたく」は解釈が難しいですが、今ここで採用している「空白を埋める」というモチーフに近づけて考えるならば、「ほんのささいな沈黙さえも我慢できなくて、その一瞬でさえ、テレビ番組の幕間に流れるコマーシャルか何かのように、くだらないことであっても挿し挟んでしゃべりたくなる」といったことが歌われているのかもしれません。
◇
そう言えば、PAS TASTA & Peterparker69の「blanc benzo」でも「空白を埋める」ということに関わる内容が歌われていた気がします。
空白
Stuck in the middle (=行き詰まってどうしようもない)
足すゼロ
空白
境界線もなく平行
「空白」「行き詰まり」「何もないところにゼロを足してもゼロのまま」といった空しい状態の表現が連続します。
また、「境界線もなく平行」について考えているのは以下のことです。普通、重なり合った二つ以上の図形の間には一つ以上の「境界線」と呼べる部分が存在するはずです。しかし、互いに離れた二つの図形の間には「境界線」は存在しません。互いに離れて平行な関係にある二つの図形はどこまで延長したとしても常に「境界線もなく平行」だし、それらの間に「空白」が残り続けるように思われます。
私はblanc benzoの歌詞から「人間関係における距離感の難しさ」というテーマを感じ取っています。重なり合うところのない平行な関係にある二人の間にある空白にゼロを足しても空白は空白のまま、といったことが歌われているのでしょうか。深読みでしょうが、私はそういったことを感じてしまったんですよね。
もし人と人との心の関わり合いという曖昧なテーマがこのように模式化・単純化された図形同士の関係において表現されてしまっているとすれば、それはどこか芸術的でもあると同時にいたく簡素で空しいことだとも感じます。
そんなところも神秘的で好きなんですけどね。
◇
⑩ Change my flow…
Change my flow
止め処なく
Sensation
不意に上がる
Change my flow
不意に上がる
翻訳を混ぜると「フロウを変える/止め処なく/感覚(心地)/不意に上がる」でしょうか。
そう言えば、作曲のY ohtrixpointneverはインタビューで次のように語っていました。
- ヒップホップについて、ループで成り立っている音楽という点では共通していますよね。こうしたトラックを作るのに、Y ohtrixpointneverさんはどういったことを考えていますか?
Y ohtrixpointnever - だいたいワンループの積み重ねで曲ができるじゃないですか。そのすべてのループでブちかましたいみたいな感じがありますね。
- とにかく強いループを作ると。
Y ohtrixpointnever - それでいて、こういう感じで……(歩くジェスチャー)。
Jeter - (怪訝な顔)。
Y ohtrixpointnever - 歩いてたら自然と周りの景色が変わってく、みたいな。その自然さは重要ですね。いきなりグウェーン、じゃなくて。それができればその逆もできるし。
言っていることの正確な意図は私もよく理解できているか自信がありませんが、トラックの展開を「歩いてたら自然と周りの景色が変わってく」という言葉で表現してくれたのはとても興味深かったです。
fallpoiはイントロの時点ではトボトボ歩いてるような雰囲気だと思いますが、気づいたら「Change my flow♪ 止め処なく♪」って横にノッているような歩き方にチェンジしていますよね。「Sensation♪ 不意に上がる♪」って歌っていますが、言われてみれば不意に気分が少し上がってきてたかもな、って思わされます。
また、ここはJ-popだとCメロみたいな部分に当たる気がします。ちょっとだけ違う雰囲気出してくる終盤の箇所みたいな。それでこの後はサビが繰り返されます。
そう考えると、fallpoiは「Aメロ→Bメロ→サビ→Cメロ→サビ」みたいな構成になっているのかもしれません。これは確か典型的なJ POPの構成ですよね。
LinkCoreにあった紹介文では"Peterparker69ならではの独自のポップスへのスタンスを表明した5曲"という表現もあったので、こういう観点からの捉え方もやってみました。
⑪ I'm spidey逃げちゃうこのまま
I'm spidey逃げちゃうこのまま
調べたところ「spidey」はアメコミ上でのスパイダーマンの愛称みたいです。
「俺はスパイダーマンだ。このまま逃げちゃうぜ」っていう少しお茶目な感じの歌詞でしょうか。MARVELネタがかかってるのもおもしろいところですよね。
ただフロウがオシャレすぎて初めは「I'm spidey逃げちゃうこのまま」とは聞き取れません。歌詞を知ってしまった以上は、難しいフロウだからこそかえって一緒に歌ってみたくなる箇所だと感じます。
◇
序盤はなかなか気分を上げたくても上げられなかったような歌詞でしたが、気づいたら少し気持ちを持ち直すことに成功しており、最終的には「I'm spidey逃げちゃうこのまま」で回復した気分のまま「逃げちゃう」宣言です。そこからは再び"Time flies ない時間に溺れる"から"I think about you ない元気?"にかけてのサビのような盛り上がりパートを繰り返して気持ちのいいまま逃げ切ってくれます。
これはすごくいい曲ですね。
◇
ここまでこの曲と向き合った以上、私はこれまで以上にこの曲との間に深い絆を感じています。このことは私にとって今後一層の喜ばしい音楽体験をもたらしてくれることでしょう。
何事も愛情を育むのは豊かなことですね。たとえそれが一音楽作品に対してだったとしても。
3. まとめ
以上、fallpoiの感想でした。
最後に2点だけ語っておきたいことを述べて終わりたいと思います。
3-1. ローテンションに寄り添いながらも気分を上げてくれる音楽が好き
世の中にはいろいろな音楽があります。
底抜けに明るくて元気をもらえる音楽、それとは逆にあえて悲痛な感情を歌い上げることでカタルシスをもたらしてくれる音楽、あるいは破壊衝動をそのまま表現してくれるような激しい音楽など。
そのどれもが誰かにとっては、あるいは誰かの人生のある時期においてはその人にとって重要な意味をもった音楽足りえます。
ただ、私がよく好む傾向にある音楽は、次のタイプの音楽です。
それは、ローテンションでありながらもどこか気分を上げてくれるような音楽です。
こっちはテンション低いのに無理に明るく元気を引っ張り出そうとかしてこない。また、こっちは何とか気分を回復したいのに、これ以上暗い気持ちにさせてこない。そういったちょうどいい、こちらの気分に寄り添ってくれる音楽がこの世にはいくつかあるのです。
私が魂の底から愛しているアーティストに「group_inou」(グループ・イノウ)というのがいて、彼らの音楽はまさにそんな「自分のローテンションに無理なく寄り添ってくれる。だけどちょっと気分をよくしてくれる」そうした音楽を作る人たちでした。
group_inou - BLUE
私はPeterparker69の音楽に、それと共通する特徴を見出しているかもしれません。私のデフォルトである、ちょっとローテンションだけどずっと何か楽しくなれることを探しているようなこの気分に寄り添い、ごく自然に快感と喜びを与えてくれる音楽。それがPeterparker69の音楽にはあると感じ始めています。Peterparker69、素敵な音楽をありがとう。
3-2. 歌詞解釈しようとすることについて
私は本記事では、(音楽として楽しむことに加えて)歌詞に深く向き合うような楽しみ方をしてきました。
しかし、作詞と歌唱をやっているJeterはインタビューで次のように語っています。
Jeter - 音楽始めた時からあんまり歌詞の内容は気にしていなくて。それよりも音の方が大事だから、メロディーを考えてからそこに歌詞を当てるようにしています。
(2023.02.15)
- 自身の音楽スタイルの特徴はどんなところですか?
Jeter - 自分にとって歌や声は音でしかなくて。だから音的におもしろいなっていうので声のピッチをいじっていて。そもそもリリックを聴き取らせたいと思っていないので、音として聴いてほしいんすよね。
自分の作品は英語と日本語を混ぜて歌っているんですけど、それは日本語が固くて扱いづらいからっていうのがあります。英語は柔らかくて、音に乗せると馴染んでくれる感じがする。でも英語だけでもいやなので、いい具合に混ぜていて、日本語もめっちゃ崩してますね。
(2022.08.24)
「歌詞の内容は気にしていない」「リリックを聴き取らせたいと思っていない」「音として聴いてほしい」などというのです。
これを聞いて、私は普通に困ってしまっています。
「歌詞の内容は気にしていない」と言われるわりには、私は歌詞にやけに惹きつけられてしまうし、そのことがPeterparker69の楽曲に対する音楽体験をすごく深めてくれています。
別に悪いとか邪道な楽しみ方だとまで言われることはないと信じていますが、それでもどうやら作者の意図にはあまり合致した楽しみ方をできていないのかもしれません。(あるいは、作者の意図を越えた楽しみ方をしているのかもしれません)。
どんなに歌詞の内容は気にしていないと言われても、「言葉」自体は意味をもっています。そして、言葉の配置次第では多様な解釈が可能になったりします。
謎めいた言葉の集まりを、それなりに整合性や納得感のある解釈に落とし込んでいく作業自体が知的快楽を伴う娯楽活動になりえます。
てんでデタラメな解釈ばかりしていたら自分でも情けなく感じますが、それなりの納得感を保持しつつもそれなりにおもしろいことが言えたのではないかなと信じています。
楽しんでくれた方がいれば嬉しいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
おわり