レオブタヤギハイ『HIGH NECK』「舌打ち」考察・感想
はじめに
本記事ではレオタードブタとヤギ・ハイレグの「舌打ち」という楽曲について語ります。
「レオタードブタとヤギ・ハイレグ」は、ピーナッツくんの別名義である「レオタードブタ」とその友人の「ヤギ・ハイレグ」によるヒップホップユニットです。ビートはすべてヤギハイが制作しています。MixはYacaです。
詳しいことは非公式wikiが参考になります。
➡ぽんぽこ&ピーナッツくん非公式wiki - 「レオタードブタとヤギ・ハイレグ」
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2023年3月15日、レオタードブタとヤギ・ハイレグ待望の3rdEP『HIGH NECK』(ハイネック)がリリースされました。
トラックリストは以下の通りです。
全曲の歌詞がここに載っています。
『HIGH NECK』で1番好きなのは「KANE & SON」(ケイン&ソン)です。とにかくめちゃくちゃ楽しい楽曲だからです。レオブタとヤギハイが対等な関係性で楽しんでいる感じが伝わってくるのも好きなところです。
2番目に好きなのは「Ghost Town」です。ヤギハイverseのかっこよさが、これまでリリースされてきたレオブタヤギハイ全曲の中でもトップクラスだと思います。ヤギハイが1曲目にして120%の全力を見せてきたような気迫があります。
本記事では、私が『HIGH NECK』の中で3番目に好きな楽曲である「舌打ち」の感想を語っていきたいと思います。
なぜ「舌打ち」について語るかというと、一番語りがいがあるような気がしているからです。「舌打ち」からはレオブタ(兄ぽこ)のパーソナリティを強く感じるところが多分にあり、向き合うのが楽しいです。また、ヤギハイのラップも抜群にかっこいいです。
考察・感想
ここでは「舌打ち」を聴いて感じたことや考えたことを語ります。
まずタイトルの「舌打ち」に注目していきますが、そもそも舌打ちとは一般的に気に入らないことがあったときに出る反応ですよね。
この曲では何か気に入らないことについて歌われているのでしょうか。
さっそく歌詞を見ていきましょう。
なお、歌詞引用の「()」内は筆者が追加したものです。
レオブタパート
気に入らないことあるけど、今は適当に見過ごしてるそうです。また、「あいつ嫌い」とか「それはダメ」みたいに悪口を言ったりディスったりして過ごすよりパイを焼いてるらしいです。
ここからは、悪口言っている暇があったら手を動かして音楽でも作るぞというストイックな姿勢が感じられます。
「精神 根性焼き」はなかなか過激な表現ですが、ここでも自分に厳しくあろうとする様子が伺えます。
「ビジネスライクな君友達 だんだん出ていく体のサビ」については、「いまいちほんとのことを話せない表面的な関係性だけど、君は本当に友達なのか? だんだんボロが出始めてないか?」という疑念の表現だと思います。
レオブタは、誰かに対してそういった疑念を抱いても口には出さず、今はグッとこらえているようです。それが「全てを飲み込んでる俺カービィ(yeah)」ということだと思います。
”puppy”はざっと調べたところ「無邪気な子犬」的なニュアンスのようです。もちろん比喩的な意味でも用いられます。
うるんだ瞳で尻尾振って近づいてくる子犬たちも、状況で態度を変えるのでしょう。比喩的な意味で。
"swerve"は「失せろ」みたいな意味で使われるスラングのようです。
兄ぽこ(ピーナッツくんやレオタードブタを演じている人)がビジネスの話を持ち掛けてくる人間に対してどういう目線を向けていたか、その一端が感じられる作品があるのでよかったら見てみてください。(※映像的に少しグロテスクかもしれません)
第9話「ワクワクくん」おしゃれになりたい!ピーナッツくん【ショートアニメ】
「だけど金になる話は大事 全部奪い取るあいつの大金(yeah)」という箇所はおもしろいところですね。
兄ぽこ/ピーナッツくんは、演者としてのおもしろさや「心を込めて活動することはなにより大切」(KAI-YOU Premium「『インターネットストリート』を体現する」2020)といった実直さを持ち合わせている一方で、VTuber業界のあり方をビジネスの観点から眺める視点も持っている(しかもそれを「ぽこピー批評」などの企画で表に出す)のがおもしろいところです。
オリジナル楽曲を出しているVTuberはたくさんいますが、ウザい経営者失せろだの、あいつの大金全部奪い取るだのと歌っているVTuberは他に見たことがありません。これはちょっと尖ってるんじゃないですかね。
「尻軽」や「ビッチ」とは、遠回しに言えば、一か所に腰を落ち着けず様々な場所に居を移すようなあり様を揶揄する言葉ですが、兄ぽこのやっている活動にはそういう面があるかもしれません。ピーナッツくんは、ショートアニメ、VTuber、ゆるキャラグランプリ、そしてラッパーなど、様々な場所で様々な姿を見せてきました。
そして、そのことの不安定さや苦悩を歌ったのがピーナッツくん3rdアルバム収録楽曲「respawn」だと捉えることができるでしょう。
しかし、同じ事柄であっても、レオブタに歌わせれば「俺ビッチ呼ばわりでも気にならない てかそもそもじゃなきゃやってないスタイル」というボースティングに様変わりするんですね。なんということでしょう。
これはピーナッツくんとレオタードブタを両方追うことのおもしろさですね。
「LBYH 乗るCar (skrr skrr skrr)」は単純に楽しいです。
ちなみに「スクースクー(skrr skrr)」というのは元は車のアクセル音を表し、スラングとしては「立ち去る」的なニュアンスで使われるようです。
「ビッチ?知らねえよそもそもじゃなきゃやってないスタイル」と笑い飛ばして、タイヤを地面に擦りながらブタヤギ二匹で走り去っている様子が浮かびます。気持ちのいい格好つけ方です。
ヒップホップミュージックなら適当に挟むこともできる「スクースクー」を、ちゃんと「乗るCar」という車の話をしているときに出してくるのは文脈作りが丁寧で好感度が高いです。
「俺止まんねえよ」というボーストをばあちゃんに対して行うのは非常にシュールでファニーです。
「別にないよPost」が意味するのは、わかりやすい目指すべきロールモデルやキャリアプランが存在しないということでしょうか。仮にこれまで兄ぽこのような道を歩んできた人が世の中に一定数いれば、その中からよさそうなポストを選んで目指せばいいのでしょうけど、実際はそうもいきません。兄ぽこのクリエイターとしての経歴は、(おそらく)前代未聞のキャリアでしょうから。
「記事に書いてボースト ビリリダマ爆発」は難しいですが、ここで歌われているのは、「インタビュー記事で得意げに語っているけど恥ずかしい」という感情かなと思っています。
例えば、以下のツイートをご覧ください。
このインタビューでは、兄ぽこ本人が自身の自意識についても語っていてめちゃくちゃおもしろいです。Kamuiから「普通はちやほやされたいだろ?」と聞かれたとき、兄ぽこがなんて答えたと思いますか? ちょっと自分は感激しましたよ。
そうした、日ごろ見えている姿とはまた違う本心が明かされているインタビューについて、ピーナッツくんは「また変なことペラペラとしゃべってますナッツ🥜!!」という照れ臭そうな紹介をするんですね。
ビリリダマの爆発と言えば「じばく」ですよね。私は「顔から火が出る」という慣用句の過剰表現のようなものとして「ビリリダマ爆発(=じばく)」を理解しています。
「ガリレオ」(原作:東野圭吾)というテレビドラマが2007年に放送されており、福山雅治演じる物理学者の主人公「湯川学」の口ぐせは「実に面白い」というものでした。湯川先生は頭がいいので、よく警察から事件解決のため相談を持ち掛けられるんですよね。
そんな感じで兄ぽこ/ピーナッツくんの元へ案件依頼のメッセージがたくさん来ているのかもしれませんね。
ここの解釈は大きく二通りあります。
一つは他人に対して発破をかけているというもので、もう一つはレオブタが彼自身に対して発破をかけているという捉え方です。
他人/自分に対して「数字はなんぼ?なにそれ雑魚」と煽り、「ムカつくなら努力しなさい それしかないからやるしかない」と発破をかけているのでしょう。
「俺たちサンゴか真っ赤なマンゴー」は難しいですが、「サンゴ」は生き物という割に凝り固まって動かなくなってしまった存在の象徴で、「真っ赤なマンゴー」は熟し切って食べ頃を逃した状態を表しているのかもしれません。楽曲リリースについて言えば、レオブタヤギハイの沈黙期間はおよそ3年に及びました。その状態を自虐しているのかもしれません。
(ただし、調べたところ「真っ赤なマンゴーは食べ頃を過ぎている」という話はどこにも出てきませんでした。あまり適切な解釈ではないかもしれません)。
「運と才能とか環境」は一般に成功のために必要だと思われる要素ですよね。だけど、それら3つ以外に「努力」という要素が必要なんじゃないのかということを言いたいのかもしれません。
「俺ラッキーパンチ当たったみたい」は、ピーナッツくんの刀ピーOVERDOSEがバズったことを指している気がします。そのバズりについて運が良かっただけ、と謙虚に示しているのでしょう。(「俺」という一人称が「兄ぽこ(≒ピーナッツくん≒レオタードブタ)」を指していると捉えていいのなら、ですが)。
「けどまだ足りないから媚びへつらってる まだまだ何も変わっていない」からは、ストイックな向上心と気に入らないことを我慢している様子が伝わってきます。看過スタイルのカービィが再登場です。
「友達」はトレンドエレベーターに乗って上昇中だが、そこに隠された欺瞞に気づけ、と訴えかけているかのようです。しかし、そのような告発っぽい振る舞いを見せつつも、「もし俺も乗れたら乗るし」という現金な態度というか、素直な告白も見せてきます。
「仲良しいつでもCall me」はどこか心のこもっていない不敵な笑みを感じさせます。
ちなみに、ピーナッツくんのショートアニメでは、ピーナッツくんとレオタードブタは幼馴染のような友人関係にあるものとして描かれています。
アニメ作中では、いまや大スターになったレオタードブタと、「オシャレになりたーい」と言っていまだ地道にチャンチョと冒険しているピーナッツくんの対比が描かれています。しかし、現実世界に目を向けると、年を追うごとに注目度を増していくピーナッツくんと3年間休止していたレオタードブタとの間に開いた大きな差が浮き彫りになります。別にどちらも兄ぽこのやっていることだとは思うのですが、なんだかものすごく皮肉めいたものを感じてしまいます。
(ピーナッツくんは結構メジャー寄りになってきたというか、確実に注目度合いが高まっていますよね。他方で、レオブタヤギハイの注目度合いはどうなのでしょうか。私にはよく把握することができません)。
第26話「HIPHOP」オシャレになりたい!ピーナッツくん【ショートアニメ】
(普通にアニメとしておもしろい回です。あと概要欄も味わい深いです)。
金の話してくる経営者を退けつつも「金になる話は大事」と言ってみたり、トレンドに乗ることの欺瞞を訴えかけつつも、自分だって乗れるなら乗るけどねという現金さを見せてきたりしています。
ここまで、気に入らないものに対して毒を吐いてきたレオブタですが、hookではとうとう自分自身が「ビジネスライクな(偽)友達」や「状況で変わるpuppy」に近づいている様子が歌われているのかもしれません。
レオブタ、この楽曲ではいったい誰に対して舌打ちをしているんでしょうね…。
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ヤギハイパート
「舌打ち」のヤギハイパートを鑑賞するにあたっては、レオブタヤギハイ「幸せジャンク生活」を聴いておくとより一層味わい深くなります。
「幸せジャンク生活」は、大変乱暴にまとめると「パリピはsexしてるんだろうけど俺たちは構わずジャンキーな引きこもり生活を送るぜ」みたいな曲です。
それでは、「舌打ち」のヤギハイverseを見ていきましょう。
ここの前半部分は、(少し誇張して言えば)「プールで遊んでるような海パン野郎(パリピ)は、どうせsexのことしか考えてない」という偏見を歌っているんだと思っています。
そして後半部分の解釈については、はっきり言ってお手上げです。さっぱりわかりません。まあ、何か腑に落ちちゃったんでしょうね…。
季節のアクティビティを楽しみたい気持ちはあるんだけど、なぜか午後眠たくなっちゃって結局外出できないんですね。自分で自分に鞭打って行動することができない自堕落さに「舌打ち」しているのかもしれません。
こういった話は、「幸せジャンク生活」でも歌われていましたね。
また、「季節の野外アクティビティしたいんだけどね」みたいなヤギハイの思いは、『HIGH NECK』リリースの8日後に公開されたトーク動画「レオブタヤギハイの『トーキングモカフラペチーノ2023春』」にて語られています。おもしろいので、未視聴の方はお時間あるときにぜひ聞いてみてください。
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正直に申し上げると、ヤギハイのリリックはうまく解読することができません。ただ、感想を述べることはできますのでそうします。
感想ですが、ここめちゃくちゃかっこいいですよね。
この箇所について自分が過去にツイートしていたので、そのまま引用しちゃいます。
聴くたびにこの感想を抱いて痺れています。この箇所はマジでめちゃくちゃ好きです。
他の感想としては、本当に「吐息使いのヤギ・ハイレグだなぁ」と改めて思います。
あとは次の感想もいつも抱いています。
まとめると、「舌打ちのヤギ・ハイレグのラップすごくかっこいいな」と思っています。
さいごに
その他の感想は以下のものです。
めっちゃ早口だなぁ
「LBHY 乗るCar (skrr skrr skrr)」が好きすぎる
「湯川先生」と「You got a message」のライミングが気持ちいい
「Friends on the trend 黙れ 嘘とほんと見抜け」の頭を大きく振りたくなるようなフロウが気持ちいい
ビリリダマ、ラッキーパンチは両方ともポケモン要素だと思っています。レオブタの名曲である「ポケモンパープル」の要素を少しだけ引き継いでいるように感じて嬉しいです
「花見プールや紅葉スキーでおれもさ 良い日送りてえのに なぜか眠たい昼下がり 俺が俺に金縛り」のヤギハイフロウが本当によすぎる。ここを聴くためにこの曲を再生しているかもしれない
3rdEPの中で一番「舌打ち」がレオブタのリリックを読解してて楽しかった
「舌打ち」という楽曲、なんか深みがあっていいですよね。
◇
以上になります。
読んでくださった方はありがとうございます。
もっといい捉え方とかあったら教えてくださると嬉しいです。
おわり
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