足底腱膜炎の診かた
高橋謙二先生(船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センター部長)
MB Orthop.36 (3):9-16, 2023
要約
足底腱膜炎は、腱膜の局所的な炎症や変性をきたした状態と定義される。しかし、その本態は「炎症」ではなく難治性の有痛性変性病変が主体であるため、近年欧米では「足底腱膜炎(plantar fasciitis)」でなく「足底腱膜症(plantar fasciopathy)」とする傾向にある。足底腱膜炎には付着部と腱膜実質部に生じる病変がある。これらの発症にはアーチ形態や母趾を介した適度な伸張負荷が関連し、付着部は中高齢者、腱膜実質部はスポーツ活動の患者に多い。本症では病変部に圧痛を認め、初動時や長い歩行・立位保持で痛みを訴える。鑑別疾患として、脂肪体炎、踵骨下滑液包炎、短趾屈筋断裂のほか、遠位足根間症候群やBaxter’s nerve entrapmentの神経絞扼障害が含まれる。
治療は保存療法が原則である。米国の報告では、10人に1人は足底腱膜炎の疼痛に悩まされたことがあるとされるが、その90%は1年以内に保存療法で治癒する。足底腱膜や下腿三頭筋の柔軟性改善、アーチ強化などの筋力訓練の理学療法は第一選択で、近年、拡散型圧力は治療の併用が有用である。また、痛みの強い場合はステロイド注射を行う。終息型体外衝撃波治療は、これらの治療が6カ月以上有効でなければ選択でき、最終的に80%以上の患者に有効である。これらの保存治療に6カ月以上抵抗性の難治例に対しては、足底腱膜切離術(PF:planter fasciotomy)と腓腹筋退縮術(GR:gastrocnemius recession)の手術療法が選択されるが、侵襲的となるため手術へ移行する例は決して多くない。
手術療法
PFは、直視下または鏡視下に足底腱膜の内側を部分切除するとともに踵骨棘切除を行う。鏡視下法の術後経過で全荷重歩行は平均約14日、スポーツ復帰は約11週と報告されている。
GRは、腓腹筋内側頭拘縮による足関節背屈制限が認められる症例に直視下または鏡視下に腓腹筋筋膜切離を行い、足関節背屈制限を改善することで踵部痛を軽減させる。
感想
現在、私が担当している足底腱膜炎を呈した患者さんは2名である。2名ともが保存療法、徒手療法、運動療法、体外衝撃波で症状の寛解を得られている。足底腱膜に関する解剖学的特徴を整理し、症状の緩和に努めていきたい。
次回
令和6年1月17日に子どもの靴のトラブルの診かたについて報告します。
投稿者:小林博樹
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?