頚神経叢周辺の解剖とブロックについて

今回は、頚神経叢周辺組織の詳細な解剖と頚神経叢ブロックについて検討されている論文を紹介します。本報告では、献体による基礎研究とボランティアによる臨床研究を行い、頚部の筋群と神経系の超音波解剖学的位置関係を明確にしています。また、この研究をもとに超音波ガイド下頭長筋内注射による頚神経叢と上頚交感神経節の同時ブロックについて紹介されています。

疼痛の機序解明と疼痛治療の最前線:超音波解剖学的アプローチ
臼井要介・他:Dokkyo Journal of Medical Science 38 (2011)

【概要】
『基礎研究について』
○方法
 28体の献体遺体を用いて前斜角筋、中斜角筋、頭長筋、頚長筋の起始と停止、これらの筋群と腕神経叢、深頚神経叢、頚部交感神経幹との位置関係を詳細に調査した。
○結果
前斜角筋の前結節付着部最高位はC5が55.4%、C4が28.6%であり、筋の直径は頭側へ行くほど細くなる。中斜角筋の後結節付着部最高位は全例C2であり、深頚神経叢と腕神経叢の背側の壁となる。また全例C4前結節にも付着し、深頚神経叢と腕神経叢を頭側と尾側で分ける。頭長筋の前結節付着部最低位はC6が93%であり、筋の直径は頭側へ行くほど太くなる。一方で、頚長筋は頭長筋内側のC1からT3椎体に付着していた。そのため、腕神経叢は中斜角筋と前斜角筋の間に位置し、深頚神経叢は大部分が中斜角筋と頭長筋の間に位置している。また、頚部交感神経幹の内、上頚交感神経節は頭長筋の腹側に、中頚神経節・椎骨動脈神経節・星状神経節は頚長筋の腹側から外側に位置した。

『臨床研究について』
○方法
C4レベルで頭長筋が上頚交感神経節と深頚神経叢に挟まれていることに着目し、頭長筋内に局所麻酔薬を注入することで深頚神経叢と交感神経節へのブロック効果を検討した。ボランティア3名に対し、造影剤1mlと1%mepivacaine5mlの混合液6mlを超音波ガイド下に頭長筋内に注入し、3D-CTによる混合液の広がりと局所麻酔薬の効果を調査した。
○結果
造影剤の広がりは頭長筋内に一致しており、C3-5では前結節と後結節を覆うように造影剤が広がっていた。頚神経叢への効果は、大耳介神経、小後頭神経、頚横神経、肩甲上神経領域の知覚低下があり、浅頚神経叢ブロックが確認された。また、横隔膜の運動麻痺も確認され、深頚神経叢もブロックされていた。一方で、上肢の知覚低下や上肢筋の運動麻痺は認めなかった。交感神経系への効果は、ホルネル兆候、鼻閉感、顔面の温感を確認したが、上肢の温感と発汗停止はなく、上頚部交感神経節のみがブロックされた。

【感想】
臨床にて、頚神経叢領域に疼痛や感覚鈍麻を認める症例を時折経験します。本報告を参考にすると、C2-4レベルで頭長筋と中斜角筋との間に位置する頚神経叢周辺の圧痛所見などは、評価項目の一つとして知っておく必要があると思いました。また、頚椎前弯位を保持する上で重要である頚長筋は頚神経叢(C2-4)に支配を受けるため、同部位での障害は頚長筋の機能にも影響を与える可能性があります。今後は、このような解剖学的な位置関係を念頭において、評価・治療に繋げていければと思います。

報告者:石黒翔太郎


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