漫画アシスタントになるには
質問箱でこういう質問をいただきました。
文章だけだとちょっと伝えにくいので、こちらでお伝えしたいと思います。
①背景サンプルを作成する
とにもかくにも、「自分はこれだけ描けるんだぜ!」っていうサンプルを作成しないと始まりません。たまに、サンプルなどなく「アシスタントしたことありませんが、精一杯頑張ります」という内容だけでアシスタント応募される方がいらっしゃいますが、やる気だけでは「お仕事」ができるかどうか判断ができないので、まずはサンプルを作成しましょう。
背景サンプルは、3枚以上描きましょう。
できれば、
・建物
・自然物
・モブ
が入っていて、トーンまで貼られた状態のもので
資料を見ながら考えて描いたものだと、「どのぐらい描けるのか」という参考になります。
ちなみに、私が初めてアシスタントに応募したときの背景サンプルはこちらです。
モブも自然物も描いてねーじゃん
ってなりますよね。
分かる。
私もね、最初の時は何を描いたら良いのか全く分からなかったんですよ……
・建物
・自然物
・モブ
この3つがそろっていると良い、というのは、アシスタントを始めてしばらく経ってから気づいたことです。
なので、あまり気負わず、自分が描けるものを頑張って描きましょう。
描くときに、時間を測っているとなお良いです。
こういう感じですね。(これはわりと最近描いたものです)
「描き起こし」っていうのは、資料を見ながら、ある程度創作を混ぜながら絵を描いたということ
「2H」っていうのは、2時間かかったっていうことです。
完成した絵のスミにちょちょちょっと書けばいいです。
ちなみに最初は時間がかかるのが当たり前なのですが、周りの様子を見て、あきらかに自分が絵にかける時間が長すぎると気づいて、あえて時間表記をしないというせこいことを、私はしてました……
↑初めて資料集を見ながら描いた背景で、これは10時間
↑これは自分の家のキッチンを見ながら描いた背景で、8時間
↑これは教室の参考資料を見ながら描いた背景で、15時間かかりましたが
なんと椅子が描かれてないですね。舐めてます。
窓枠だけは頑張りました。
ね!!!!???(なにがだ)
とりあえず、
「自分なりに頑張って背景サンプルを3枚描く」
第一ステップはこれです!
②よさげなアシスタント先に応募してみる
こちらのサイトがお勧めです。
漫画家さんとアシスタントさんのマッチングサービス行っている掲示板です。
ぶっちゃけ、アシスタント初めての人には、ハードルが高いです。
でも、どこの掲示板に行っても初めての人はハードル高いです。
漫画家さん側も、上手くて速い人を雇いたいに決まっているので、もう本当最初は運です。
たまたまそれほど上手い人じゃなくても良かった、なんとなくアシスタント未経験の新人を育てたい気分だった、アシスタント募集して応募してきたのがあなただけだった、など……
もちろん、実力は必要です。でも安心してください。みんな、最初は実力なんてない状態からアシスタントを始めています。
だから、私は、とにかく数を出していくことをオススメします。
アシスタント応募に1件出して、1日待って返事がなければ、他のアシスタント募集に応募しましょう。(時間に余裕があるなら、「採用の方は○日以内に返信します」の言葉を信じてきっちりその日数は待っても良いです)30件はフられることを覚悟します。その間、①で作ったようなサンプルを引き続き制作していきましょう。描いて振られてを繰り返していくうちに、どっかで「とりあえずお試しで1日だけ」と声をかけてくださる天使様が現れます。そうなったら第一段階クリアです。
【余談】
長い期間フられ続けた場合、以下のいずれかを見直しましょう
1.背景サンプル
2.メールの文面
3.サンプルデータの見せ方
4.迷惑メール設定
1.背景サンプル
背景サンプルが下手すぎて箸にも棒にもかかってない、という可能性があります。現在進行形でアシスタントしている友人に描いたものを見てもらう、というのが一番手っ取り早いのですが、アシスタントをしている友人などがいない場合、漫画系のコミュニティなどに入り、そこで添削してもらいましょう。厳しいことを言われるかもしれませんが、踏ん張って1枚だけ描きなおしてみて、そしたらもう一度アシスタント応募をしてみます。自分が何が描けていないのか、自分では分かりにくいので、他人に客観的に見てもらいましょう。牛歩でも良いから上手くなっていくことを目標に。
2.メールの文面
文面に誤字脱字がないか・敬語を使っているか・失礼なことを言っていないか、メールを送る前に確認しましょう。漫画家さんはあなたを知らないので、メールの文面で人となりを判断します。漫画家さんが「メールにはこの項目を入れてください」と言っていたら、その項目が抜けてないかも確認します。「社会性がありそうか」「細かいところまで気を配ってくれそうか」も、審査に含まれていると思って、最後まできっちり確認します。
私が良く使っているメールの構文をここに置いておきますね。
初めまして。漫画家志望の○○○○○と申します。
この度GANMOでのアシスタント募集を拝見し、
是非お手伝いさせていただきたいと思い、ご連絡差し上げました。
名前 ○○○本名○○○(PNとこり)
年齢 ××歳
連絡先 ○○○-○○○-○○○○
アシスタント歴 なし
活動歴 月刊少年ガンガンで特別奨励賞を受賞
背景サンプル https://drive.google.com/なんちゃらこーちゃら
↑こちらのURLをご確認ください。
特記事項 デビューが決まったため、○月に会社を辞める予定です。
これから連載に向け活動していくので、アシスタント先を探しています。
アシスタントは未経験ですが、精一杯頑張ろうと思っております。
宜しくお願い致します。
漫画家さんに合わせたメールの文章を考えたほうが良いと思います。例えば、「異世界漫画なので、ヨーロッパ風の背景が描ける方が望ましいです」と言われていたら、せめて1枚はそういう背景を描いて入れてみるとか、何かしらやる気を見せましょう。
3.サンプルデータの見せ方
漫画家さんは、とっても忙しいです。
なので、できるだけ漫画家さんの手間にならないようにサンプルを見ていただくように工夫します。
よくあるやり方は、Googleドライブやドロップボックス(Googleアカウントを持っていれば無料で使用できる)にフォルダを作成してサンプルを入れ、「URLを知っている人が見ることができる」設定にし、フォルダのURLを送るやり方です。このやり方だとPCでも携帯でもURLを開くだけですぐに画像を確認することができるので、やっている人が多いと思います。サンプルを差し替えたくなった時に簡単に入れ替えができるのも良いところです。pixivやHPにサンプルデータをアップしたページを作って、そのURLを使っている方もいます。
逆に、私がオススメしないのが「ギガファイル便」などのファイルストレージサービスにアップロードするというやり方。秘匿性は高いのですが、PCからしか開けないということと、zipファイルを解凍せねばならず、MacとWindowsの違いで文字化けすることもあり、非常に見にくくなってしまうこともあります。あと、私が実際に言われたのが「ダウンロード期間過ぎちゃったのでもう一度送ってもらえますか」です。
「サンプル提出方法が○○だったから」という理由で不採用になることはありませんが、「提出方法○○?めんどくさいなー後回しでいっか」ってなる方もいるので、できるだけストレスフリーな提出方法を選んであげてください。
4.迷惑メール設定
せっかくご返信いただいてるのに、メールが迷惑メールに入ってて見れてない……ってことはありませんか?
案外いるらしいですよ……
③採用された!
ここからが始まりです!
実際にお手伝いする日程、時間、お給料、準備事項など確認したら、万全に整えて初のお仕事です!
漫画アシスタントには「レギュラー」と「ヘルプ」がいて、最初の1回目は「ヘルプ」で入ることが多いと思います。
「レギュラー」は、ほぼ毎話のようにその漫画の作業をしているアシスタントさんのことです。
「ヘルプ」は、月に一回とか、数か月に一回とか、あまり高くない頻度で入るアシスタントさんのことです。
・漫画家さんの要望にどのくらい応えることができるか
・漫画家さんとの相性は良いか
・作画のスピード・クオリティはどのくらいか
この辺を漫画家さんの基準で計られ、「うちの現場でやっていけそうだな」と判断されたら、「次回も宜しくお願いします」と言ってもらえます。嬉しいー!でも、注意しなくてはならないことがあります。その嬉しい言葉、お世辞の場合があります。
具体的に「次回は●日に」って言われたら、本当に雇ってくれようとしていると思いますが、そうでないなら、「キープ」または「不採用」にされている場合があります。ダメだった時にはっきりと言ってくれる漫画家さんもいらっしゃいますが、少数派だと思ってください。
また、「ヘルプ」という立場は特殊で、「その他にレギュラーで入ってくれている人がいる又はヘルプスタッフがたくさんいるから、いなくなっても大丈夫」な立場です。たとえば「たまたまレギュラーの人がお休みしちゃったから、入ることができた」っていう状況の場合、レギュラーの人が再開したら必要なくなってしまい、そのままフェードアウトするように音信不通……ということもよくあります。
まあつまり、「どんどん他のアシスタントに応募しても良いんやで」ってことです。アシスタントは、一人の漫画家さんに操を立てる必要はありません。週刊連載くらいの速度でない限り、漫画家さんは、アシスタントの生活を保障することができません。アシスタントとしての腕を上げたい、生計を立てたいと思うなら、最初は「働く日数」をとにかく増やしましょう。
一度お手伝いした先生には、「今回描いた背景をサンプルにして他のアシスタントに募集しても良いですか?」と聞いたりして、精度の高い作画サンプルを増やしていきます。(大抵OKって言ってもらえますが、漫画家さんと出版社の契約の問題でNGになることもあります)
すると、だんだんと不採用になる確率も低くなっていくはずです。
④とこりのアシスタント遍歴
私が「アシスタントになりたい」と思い始めたのは、まだ会社に勤めていた頃でした。漫画とはあまり関係ない事情で仕事を辞めることにして、退職の日程も決めました。
すでにアシスタントを経験していた友人にどういうことをしたら良いのか聞いて、まずは背景サンプルを作ってみることにしました。当時漫画制作はアナログでやっていましたが、私は広島県在住なので、アナログでのアシスタント先は見つかりません。クリスタの勉強をしながら、同時に背景サンプルを作成していくことにしました。
ちなみにクリスタで初めて描いた背景はこれです。
土日休みなので、日曜日だけサンプル制作に充てていた記憶があります。背景サンプルが完成したら、友達に見てもらって、「これ本気……?」って言われた記憶があります。
友達から、
とこりさ、ちゃんと資料を見ながら描こうね
と言われて、
資料って何のこと?
って思いました。
こういった感じの、写真のみが掲載されている資料から1枚、描きやすそうな写真を見つけて、描いてみました。
1点透視!廊下!描きやすそう!
でも、実際に描くとなったらとても難しかったです。10時間近くかかって完成させて、友達に「こんな感じかしらっ!」ってドヤ顔で見せたら、5分くらいで赤ペン入って返ってきました。レスポンスの速さ~!
ちょっとよく覚えてないのですが、たしかこんな感じだった気がします。
赤ペンをしてもらうことで、当時の私は「目からウロコ!!!」ってなりました。
そして、
物の構造が分かっていないみたいだから、自分の部屋を描いてみたら、どんな構造になってるかわかるんじゃないかな?
と言われたので、次の1枚を描きました。
これもかなり時間がかかりましたが、「明らかに1枚目より上手では?」と思ってドヤドヤしました。友人からも、「これならアシスタントできるよ!」と言われて、嬉しかったのを覚えています。
これもちょっと覚えてないですが、たしかこんな感じ。
さて、最後の3枚目。
友人から
学校の教室は背景を描くときの基本だから、教室を描いたらどうかな?モブも一緒に。
と言われ、同じように教室の写真を見ながら描き始めましたが
途中で力尽きました。
椅子が描かれてないのはそういった事情があったんですね!←
窓枠だけは頑張りましたが、椅子の曲線や斜めの足を考え始めると頭が混乱してわけが分からなくなってしまい、友達に「ごめん……これ描くのキッツイ……とりあえずこの状態でアシスタント応募してみるわ……」などとのたまいました。
良い子は真似しないでください。
この3枚でいくつかのアシスタントに応募したときに、(ギガファイル便で送った気がします)1週間くらい遅れて連絡をいただきました。GANMOで募集をされていたその方は、掲示板でアシスタントを募集したのが初めてだったらしく、応募が来たこと自体が嬉しかったそうです。「せっかくのご縁なので」と言っていただき、お試しで1日採用していただけることに。天使か。
ちなみに、その時描かれてたのは二次エロ同人誌でした。
ゴリゴリ男性向けの乳袋アリアリのムッチムチです。
※リンク先にはR18の内容が含まれております。作家様にご了承いただき、リンクを掲載させていただきます。18歳未満の方は閲覧をお控えください。主にツイッターに生息されてます。
↑その時描かせていただいた背景です。
ちなみに本当に最初のお仕事は背景ではなく、モンスターのモブだったのですが、私の描いたモブを見た時「ひどすぎてどうしようかと思った」と言ってらっしゃいました。(後日談)
が、先生がそんなことを思っているとは知らない私は自分なりに一生懸命何枚か描き上げ、無事お試し1日目が終了。その際、なんとサンプルで見せた背景に赤ペン添削をしてくださっていたりして、その日のお仕事の総評をいただきました。これもうろ覚えなのですが……
「丁寧なお仕事で助かりました。アシスタント未経験とのことでしたが、上出来だったと思います。ぜひ次作もお願いしたいです。今回は試用ですので日給○円ですが、次回から日給△円にします。次はたぶん◇か月後くらいになると思います」
的なことを言っていただきました。
ヤッター!!
(現在はあまりアシを頼まれることはなくなってしまったのですが、私が東京に行った際には一緒にお食事させていただくくらい良くしていただいております。)
ちなみに、この初めてのアシスタント時、有休消化中ではありましたが、まだ会社に勤めていました。日程の自由があまりない中で、雇っていただけたことは本当にただの運です。
こちらの先生は当初アシスタントのお仕事の日数が少ない現場だったため、生計を立てるためにもう少しアシスタントを増やさなくてはいけないと思い、この現場で描いた背景をサンプルに増やした上で再度応募をしていくことにしました。
次に仮採用となったのは、「会社員漫画家」の方でした。
会社員として働きながら、連載をしているというお方で、メインの作業日が土日祝。アシスタントにもその日に入ってほしいという募集でした。ぴったりか!
日程の調整をして、初アシスタントの日を決めたのですが、ここでGANMOに新風が吹きます。
なんと、広島県在住の漫画家さんが、作業場に通ってくれるアシスタントさんを募集されていました。昼夜ごはんつき。
その方は一度ドラマ化もされた漫画を描かれていた方で、新連載のためアシスタントを募集されているとのこと。すごく絵の上手い方で、私も知っていました。初心者歓迎、となっていて、「ダメ元だが……応募する!」と思って、応募しました。
広島駅の某カフェにて面接をしていただき、無事仮採用が決まりました。ちなみにその方が面接時に見ていた基準はこちら
・不潔じゃないか
・デブじゃないか
・会話できるか
漫画歴の長い方なので、現在の実力云々より、「一緒の作業場にいて不快にならないか」というのが一番大きな採用ポイントだったみたいです。不潔は嫌だし、デブは食費がかさむし、会話できないと仕事が回らないからだそうです。実力で採用する在宅アシとはまた違った観点で判断されたんだなと思いました。
ということで、お試しで入った1日目。どでかい液タブが1台与えられ、操作を覚えながら、チーフアシさんの指示に従って背景を描いていきました。ちなみに、1日目に私は仕事はさせてもらえてません。
「この写真をトレスしてみてください※作品内で使わない」「ペンの強弱を意識して、こんな感じに描いてください※作品内で使わない」という指導だけで、実際の原稿を1ミリも触らせてもらえませんでした。お試し1日目は、実力を測るための日だったのだと思います。余裕ある……
終わった後に聞かれたのは、「ここでやっていけそうか」「やる気はあるか」「日程は大丈夫そうか」という、私の意思の確認でした。
かなりレベルの高い職場だったので大変でしたが、とても多くのことを学ばせていただき、約1年半?2年?くらいでしょうか。
このくらい描けるようになりました。
見違えるようですね!!!!
このくらいまで描けるようになると、大体自分が思った場所でアシスタントできるようになります。ただ、私は当時「アイレベル」が全く分からないまま描いていました。この2枚も、パッと見は上手ですが、通常のアイレベルよりちょっと高い場所にアイレベルを取ってるんですよね。作家さんが180センチ以上の高身長のキャラを描くことが多かったため、アイレベルが分かっていない私は自分の漫画で150センチのキャラを描くことができず、毎回変な感じの画面になってました。
1年以上の長い期間、同じ現場でアシスタントをすると、良くも悪くもその先生の独自のやり方に染まってしまいます。
自分の絵と相性がよかったり、目指している画風に近かったりするなら良いんですけど、相性の悪い現場だと結構きつかったりするので、時には成長のためと割り切ることも大切だと思います。その場合は、作家さんに極力迷惑が掛からない形になるように、誠心誠意心を砕きましょう……!
私なりの「アシスタントになるため、採用されるためにすること」は以上でした!
質問者さん、お返事が遅れてしまい申し訳ありませんでした!頑張ってください!
作業時の紅茶代にさせていただきます。