隣席

少し変わった経験をしたのでここに綴りたい

2021年12月25日、僕は東京から大阪に帰るために新幹線に乗ろうとした。
しかし、指定席を取っていた新幹線に間に合わず、東京にももう少しだけ居座りたかったので、帰りの新幹線を1時間半遅らせた。
窓側の席が空いていたので「指定席空いてるんだな」と思いながら時間を変更した。

一時間半後、お土産も買って新幹線に乗り込んだ。
「観たい動画溜まってるから消化するかあ」と思いながらキャリーバッグを荷物棚に載せていると、目の前に俺と同じ年代かそれより少し上の女性が立っていた。

どうやら俺の隣の席に座るらしい。
「窓側空いてたのに隣人おるんかい!」と思いながら速やかに荷物を整理して着席した。

新幹線で隣に知らない人が座るのは初めてだった。
1人で新幹線を使うほどの遠出をし始めたのはコロナ禍以降で、新幹線が混んでいること自体経験したことが無かった。

正直、この距離感に赤の他人がいるのはめちゃくちゃ気まずかった。とても神経質な性格で、パーソナルスペースが人よりも非常に狭い。

そこで僕は考えた。
「隣の人と会話できないかな?」と。

僕は2人で話すのが大の得意だ。だから、隣の人と仲良くなることで気まずさを取り除けるのではないかと考えた。

今思うと、かなり大きな賭けだ。そっぽを向かれていたら新大阪までの2時間半はどうなっていたのだろう。

あと、自分の世界に入りたい人だったらどうしようとも考えた。話しかける上で一番気をつけるべきなのはここだろう。とりあえず横目で隣の人を観察してみた。
幸い隣の人はイヤホンをつけて自分の世界に入り込むようなことはしなかった。

俺は勇気を振り絞って話しかけた。

「どちらまで行かれるんですか?」
「○○までです」
「何の目的で〇〇まで行かれるんですか?」
「帰省するんです。そちらはどちらまで行かれるんですか?」

話が繋がった。
自分から一方的に話しかけるだけでなく、お互いから質問が飛び交ったので、どうやら最悪の状況は免れたと胸を撫で下ろした。

話が弾むうちに気づけば窓から富士山が見えていた。いつの間にか静岡県に入っていた。

隣の人はここで昼食を取るようだ。同じタイミングで昼食を取って、流石に1時間近く相手の時間を取ってしまったので、ここで会話を終わらせてもいいかなと考えて自分から質問することを一旦辞めた。

しかし、隣の人からの質問は続いた。この瞬間、ずっと喋ってもいいんだと確信した。

ありがたいことに隣の人が食べていたグミも貰った。初対面の人にそんなことしていいのか。東京駅を出発する頃には考えられなかったほど、2人は仲良くなっていた。

お仕事の話、趣味の話、地元の話、東京の話...結果的に2時間半ノンストップで喋り尽くした。

隣の人は新大阪駅より西に向かっていたため、僕が先に降車することになった。
連絡先は聞かなかった。聞いたらただのナンパになっていたから。この2時間半をナンパにはしたくなかった。

「2時間半もお喋りしていただき、ありがとうごさいました」
「いえいえ、楽しかったですよ」

新幹線を降りてふと自分の座席を窓越しに見ると、隣の人が笑顔で会釈してくれた。自分の時間を1人の大学生に取られてしまったことを全く不快に思っていなさそうな笑顔を見た瞬間、この2時間半が決して忘れられない、人生にとって大切な1ページになった。

2時間半での出会いと別れ。不思議な経験をした僕は大阪という日常に帰っていった。

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