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2025.01

遺影がなければ顔なんて忘れていたかもしれない

数えきれないくらいわたしを呼んだ
あの声をもう思い出せないように
抗生物質に浸かる前の
侵される前のあなたの顔だってもう忘れてしまったのに

夢の中のあなたはいつも鮮明なように思う
起きたらもう覚えていないけど
わたしが死ぬ瞬間くらいあなたは鮮明でいてくれるだろうか

ただ細胞が腐っていかないだけの
死に際の蛙みたいな顔は覚えている

義母が到着するまで待ってください

意味ある?それ
だってきっともう、生きてないよ、これ

維持装置の電源を落とす

あの時、あなたはちゃんと死んでいた?
本当の最期はいつで、なにを見て、なにを思った?

薄い半透明のカーテンの向こうが騒がしくなる
事故で重傷
命に別状なし
この世の終わりみたいな声で泣くなよ
足の1本や2本安いもんだろ

薄い半透明のカーテンのあっちで人が生き返る
薄い半透明のカーテンのあっちで人が死ぬ
末期患者専用棟ならまだしも
ここから回復していく人だっているだろうに
死にかけの人間と同じ空間に隔離されんの
死ぬより地獄だろICUと思った

あなたが生きていてくれればよかったと思ったことはない
この先こどもができるようなことがあったら不安かもと思うくらい
ただ
あの日のレジデントを許すことは絶対にないと思う

助けてくれと喚いて
譫言のように死にたいと言って
我に返ってごめんねと泣く
どれが本当に思ったことだった?

神はいなかった
仏にはなれた?

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