2024.08.24:海賊のフィアンセ
※ 普段は劇場にて上映中の作品について書いていることが多く、ネタバレを回避する目的で有料に設定していますが、こちらの作品は上映自体が稀有のようでDVDや配信も見かけないようなのでこの記事は無償公開いたします。
原題:La Fiancée du pirate
製作:1969年
監督:ネリー・カプラン
出演:ベルナデット・ラフォン、ジョルジュ・ジェレ、ルイ・マル
アフタートーク:竹内 航汰
東京日仏学院にて開催された「フランス映画と女たち PART2」にての上映
これはちょっとすごい作品でした。
タイトルだけ聞いて観たくなっちゃったんですよね。で、リヴェットの『ノロワ』みたいな、本当に海賊の話だと思ってた(ちなみに『ノロワ』観たときは上映前まで、いやいや、海賊の話なんてないでしょと思ってたら本当に海賊の話でちょっと引いた)。
で、この、『海賊のフィアンセ』は、もう、冒頭から冒涜の空気が漂う。淫らさが徐々に蔓延していくのは、母が殺され、ヤギが殺されて吹っ切れたように進んでいく。ヤギとかさぁ、もう、いろんなことが象徴的に展開されていく。日本人の宗教に対する苦手意識も働くんだけど、そこはまぁさておいて。(キャストにリストされているルイ・マルも置いとこうと思う。)
アンドレなる人物が「足長おじさん」的な役目を果たす。ちょっとベルモンド似のこの男は、マリーと早々に関係を持つのがあれだけど、金を与え、忠告をし、教育しつつテクノロジーという知恵を付ける。自らの正義、マリーの美しさと強さを識って、街の人たちを跳ね付けたりもする。それがまた映画屋(映写して巡業してるっつーか)っていうのがなんとも薄ら笑みを浮かべたくなるほどの皮肉にもとれる。しかも運転するバンは『昼顔』でデコしてる(売春を肯定していると言ったら言い過ぎなんだろうな)。
マリーは町を破壊する。町の風紀を乱し、秩序を乱し、人間関係を混乱させ、経済的に町のシステムを破壊し、宗教にも傷を残す。前払い制にしたり、値段を釣り上げてみたり、かと思うと道すがらの外国人には無料で相手をし、それを町の男たちに見せつけて解説させる。変な病気をもらっているんじゃないかと脅す薬剤師に対して正しい知識で反論し、教育の恩恵と弁論の強さを見せつける。アンドレはマリーに諭すが、結局のところ彼女に対する暴動は起きない。烏合の衆たる愚かな人たちにはそんなことは到底できないという象徴か。マリーが壊されるじゃないかという考えが過ってヒヤリと感じたりもするのだけれどそんなことは起きない。マリーは火炙りにされない。だって彼女自身が住処を燃やしてしまうのだもの。それは過去の自分に別れを告げているようにも取れる。そして、その後の彼女のなんと颯爽とした潔い姿が映し出されたことか。ハイヒールまで脱ぎ捨てて、アスファルトの道を堂々と歩いていく彼女は、そこまでの破廉恥な行動に覚えた低俗さを払拭してくれるほどの英雄として映るのだ。これはある種驚愕するほどであって、たとえばブレッソンの『ミュシェット』に見るような陰鬱さ、悲壮感、そしてやるせなさのようなものが感じられないのだもの。
きっと私の中で「エンディングが好きな作品」オールタイムのナンバー2として、生涯心に残る作品となることだろう(ちなみにナンバー1はリヴェットの『北の橋』、あんな終わり方面白すぎる)。
竹内 航汰氏による上映後のアフタートークも秀逸な内容だった。まさか字幕翻訳付けた方がチケット販売や上映の運営やアフタートークまでされると思っていなかったのでこちらも少し驚いた。リヴェット作品を立て続けに観た私にとってビュル・オジェは大好物になっており、フランスでは出版されたという自伝を読みたいくらい。主演のベルナデット・ラフォンとビュル・オジェは親友だったということで、たびたび引用を聞くことができた。それからネリー・カプランという監督のことをまったく知らなかった自分にとっては、とても良いイントロとなった。カプランの師にあたるアベル・ガンス監督については、最近リストア上映されたという『ナポレオン』は自分も聞き及んでおり、これを日本語で観られると嬉しいと思うと同時に、『シビルの部屋』もぜひ観たいと思った。『サラマンドル』も観られなくて残念だったけれど、今後もまだまだ観たい作品があるのだということを楽しみにしたいと思った。
ああ、それからこの邦題、「婚約者」じゃなくて「フィアンセ」というところにセンスを感じたということも言及しておきたい。
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