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005:「一生一緒にいたい男」よりも「別れても危なくない男」を選べ。【スピ婚】

 前回の【スピ婚】、『004:「産める年齢のうちに結婚しなきゃ!」と焦るより、「子どものいない人生」について考えてみよう。』では、「もしダメだった時のこと」に思いを巡らしてみるべきだ、という呼びかけをしました。今回もそれと同様のテーマです。今回の「もしダメだった時のこと」というのは「その結婚がダメだった時のこと」、つまり「離婚しなければならなくなった時のこと」です。結婚したい女子の皆さんに語るコラムの筈なのに、それを通り越して離婚を語り出しまして恐縮です。でも、大事なこと。

 結婚を決める時、後で離婚する想定で行う人はあまりいないのではと思います。誰だって「この人となら、一生一緒に暮らしていける」と思うから結婚を決断するのですよね。その時点で離婚の目が見えているなら、結婚しない方がいいですからね。

 ですが、それでも離婚してしまうこともあるのが人生です。離婚経験を語る人は大抵、「結婚してみなければ分からなかった」「結婚した時は相手に夢中だった」「だんだん気持ちがすれ違って、修復ができなかった」という風に振り返りますよね。わたしは2年で離婚してしまいましたが、それでも最初の1年間は、まさかそんなことになるとは思ってもいませんでした。

 結婚は必ずしも永遠の盤石のダイヤモンドではない。ダメになってしまうこともあるし、誰も先のことは完全には分からない。簡単に離婚することを奨励する訳ではありませんが(離婚するって、結婚するより気力体力財力を消耗するものなので、しなくて済むならしないに越したことはないです)、「別れるかもしれない」可能性に目を瞑って甘い幸せだけを夢想するのは、足元を見ずに綱渡りするくらい危なっかしいことなのではないかと思います。

「離婚することもあるかもしれない」を踏まえて結婚を考える時、一番強く女子の皆さんにお伝えしたいことは「稼ぐ手立てを手放すな」ということですが、このことについてはこれからも繰り返し繰り返し形を変えてお伝えしていこうと思っていますのでひとまず脇に置いて、今回お話したいことは相手側のこと、「別れた時に危ない羽目になる男とは結婚するな」ということです。

「別れた時に危ない男って、ナニ?」と思われる方もいるかもしれませんが、そういう時に危ない男というのは、別れを決意してそれを切り出す時、あるいは別れて違う人生を歩みだす時に、危害を加えてくる男です。そういう男は、相手が自分から離れていくと悟った時が一番危ないし(だから逃げる時は一発成功しないと身体と命に危険が及びますよ)、執着して追ってくるので住民票の閲覧制限などが必要になる訳ですし(役所の窓口の不注意で別れた元夫に住所を漏らしてしまった事件が最近もありましたが、ああいうのは本当に駄目です)、離婚した後も約束を履行しなかったり養育費の支払いをずるずる引き延ばしたり関わるたびに攻撃してきたりします。

「そんな男、本当にいるのかよ」と感じた方は、幸運なことにこれまでの人生でそんな男に関わることなく歩んできた方だと思います。わたしも結婚と離婚を経験するまでは、知識として頭の片隅にあったとしても、まったくリアルな実体としては見えていませんでした。でも、そういう存在にいったん気づくと、目にも耳にも入ってきます。実際いますし、そういう男も普通に結婚します。

 例によってわたしのその類のバッドな経験は元夫ですので、その体験談をしますね。結婚の末期にはいろいろこじれていたのですが、最終的にわたしが元夫の家を逃げ出したのは、ある春の日の夜中でした。その時は身の危険が迫っていたのでかばんひとつで車で警察に逃げたのですが、一回失敗して部屋に引きずり込まれて鍵をかけられましたし(まあ、その時元夫は内側から鍵をかけましたので、内側に閉じ込めた相手は内側から開けますよね)、車に乗った後も元夫は追いかけてきてドアをガチャつかせました。あの時の自分の機転で一番褒めたいところは、車のドアをロックしておいたことです。

 離婚した後はそれほどこじらせずきっぱりカタをつけましたが(それでも元夫の連帯保証人がわたしである問題は未解決ですが)、結婚後に引きずるという点でとても気がかりに思っていたのは、彼の最初の結婚の相手のことです。元夫はわたしとは2度目の結婚でしたが、最初の奥さんに対する他責感情が強くて悪いのは一方的に彼女であることになっていましたし、その感情は彼女が連れて出たお子さんにも及んでいました。「子どもたちに会いたい」と言う一方で、彼女について行ったということで「裏切り者」「許さない」などともよく言い、わたしは内心(会えなくてよかったよね)と思っていました。いやすみません、ほんとになんで結婚したんですかね!勿論、結婚前はそんなこと分かっていなかった訳なんですよ。

 少し前、今の彼氏と「なぜ日本の離婚では別れた夫と妻が協力関係を築けないのか」というディスカッションをしたことがあります。アメリカのドラマや小説、エッセイなんかだと、別れた夫と妻が連絡を取り合っていたり、子どもが離婚した両親の間を行き来していたり、お互いのステップファミリー間で交流があったりというシーンが、普通にありますよね。彼氏は元奥さんたちや子どもたちとそんな感じです。日本では離婚すると単独親権になりますが、彼氏の様子を見ていると(共同親権って、そうあるべき姿なのかもしれないよな……)という気持ちにもなります。ただ一方で元夫のような例も知っていますので、日本に共同親権を導入するのはまだ危うい、とも感じます。

 元夫は極端な例かもしれませんが、そうは言っても日本はまだまだ結婚の規範が強い国ですから、離婚した時「仕方ない、合わなかっただけだ」とフラットに考えられず、相手へのネガティブ感情、裏切られた感や酷い目に遭った感、他責的で他罰的な気持ちが湧くことが多いように思うのです。要するに、トラブルが生じた時「あいつが悪い」と思いがちだということ。「好きだったし愛し合った、でもうまくいかなかった、どっちも悪かったしどっちも悪くなかった」と痛み分けられないということ。相手を責める気持ちを抱えていれば、そしてそれを爆発させる気持ちが抑えられなければ、離婚後に関係が断ち切られてしまうのもむべなるかなですし、共同親権も夢のまた夢だと思うのです。

 結婚の話をしている筈なのに離婚の話ばかりになって、自分でも(ちょっとこれはありなのか)と思わないでもないですが、わたしが今回申し上げたいことは、「ふたりの仲が不穏になった時が正念場だ」ということです。

「別れても危なくない」というのは結局、「ふたりの仲がこじれた時に、一方的に相手のせいにして責めてこない」ということです。「気に食わないことが起きた時に、罰を与えてきたり攻撃してきたりしない」ということです。順調な時、甘くラブラブな時に相手に優しく振舞うのは、誰だってやります。問題は軋轢が起きた時、感情的な衝突が起きた時のことです。「一生深い愛情で結ばれた関係でいよう!」というのは美しい決心ですが、長い人生の間、ざらっとした嫌なものがふたりの間に挟まることは、絶対起こります。そしてその時にどういう人間性が表面化し、どういう振る舞いが立ち現れるかということこそが、その後のふたりの進む道を決めるのではないでしょうか。

 そしてそれは、必ずしも非常時だけに関係してくることではありません。「別れても危なくない」相手こそ、あなたが素の自分を見せても大丈夫な相手、好きなことは好き、嫌なことは嫌と言うことのできる相手、異なる気持ちや意見を持ったとしても、それをぶつけることのできる相手なのではないでしょうか。「別れる!」という衝突が起きる時、そこに現れる自分は相手にとって、可愛くない、都合の悪い、見たくない自分です。でも、それはあなたから分離できないあなた自身です。それを相手がどう扱うか。可愛らしい自分、優しい自分、相手に異を唱えない自分、そんな自分を見せ続けないと平和な関係を保てない相手だとしたら、一生一緒にいることなどとてもできないのではないでしょうか。逆説的なようですが、「別れても危なくない男」、それがむしろ「一生一緒にいることができる男」になるのではないかと、そんな気もするのです。

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カバーフォトは、「みんなのフォトギャラリー」より、長月コージ(長月books) さんの写真を使わせていただきました。ありがとうございマス!このネコさんたちは両方女子にゃんみたいですが、それもまた、ありかな。

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