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2023.09.28 「アムジェン v. サノフィ」東京地裁令和2年(ワ)8642 ― 取得困難を自認した出願後の発明者のメール内容が実施可能要件及びサポート要件の判断に影響した事例 ―


1.はじめに

抗PCSK9抗体に関する特許(第5705288号及び第5906333号)に係る特許権を有するアムジェンが、抗PCSK9抗体製剤プラルエント®の販売は本件特許権を侵害すると主張して、サノフィに対し、販売の差止めを請求した前訴判決では、アムジェンが勝訴し、プラルエント®の販売差止めを命じる同判決は確定していた。本件(東京地裁令和2年(ワ)8642)は、アムジェンが、サノフィに対し、同侵害行為に基づく損害賠償の支払を求めた事案である。

アムジェンとサノフィの抗PCSK9抗体製剤を巡るグローバルな特許紛争が同時進行するなか、日本における関連事件は、本件特許の無効審判請求事件も含めて紆余曲折の経緯を辿っている。

本記事では、これまでの経緯をおさらいし、前訴判決から一転してアムジェン敗訴とした本件東京地裁判決を紹介する。

本件発明を構成要件に分節すると以下のとおりであり、プラルエント®(被告製品)は全ての構成要件を充足する。

A PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、
B PCSK9との結合に関して、21B12抗体又は31H4抗体(併せて「参照抗体」という)と競合する、
C 単離されたモノクローナル抗体
D を含む、医薬組成物。

本件は、機能的に表現された抗体(を含む医薬組成物)クレームの実施可能要件及びサポート要件がどのように判断さたかが注目点であるが、グローバルな特許紛争のなかで新たに取得された証拠が前訴判決を覆す一因となったという点で、社内文書管理の重要性の観点でも学びのある事案である。


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※ 当記事は法的助言を与えるものではありません。全ての情報はその正確性と現在の適用可能性を再確認する必要があります。


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