敏史ヘンドリックス①
ジミ・ヘンドリックスの生まれ変わり
エレクトリック“キャタツ”、それは弾く人によって様々に表情を変える、いわば万華鏡である。この万華鏡を自由自在にあやつる男がいま、イギリスにいる。
彼の名は敏史(としふみ)。彼はアメリカで生まれた。幼少期よりブルースやR&Bに親しみ、自らも演奏するうち、彼は己の才能に気付くことになる。
彼はセッションを重ねるうちに、自分が他者とは違う“何か”を持ち合わせていることに気づいた。そして、いつしか世間は彼をジミ・ヘンドリックスの生まれ変わりと呼ぶようになる。
セッションの相手はたいていの場合自分とは違う楽器をえらんでいたが、それでも音使い、タイミング、ソロを取ったときのピークまでのもって行き方等々、彼が圧倒的に秀でたセンスを持ち合わせていることは明白であった。
そうするうち、彼はレコードデビューをすることになる。しかし、ヒット曲を生み出すため、彼は自らイギリスへと渡ることを決意する。
そして、彼が再びアメリカへ訪れたとき、世界は彼を時代のカリスマとして迎えることとなる。
*
フェス
ここはウッドストックである。ここではいま、アメリカで一番大きな音楽フェスティバルが開かれている。
ステージ上では、万華鏡と言われる“キャタツ”を自由にあやつり、その美しく、時に暴力的な音色で人々を熱狂の渦へと導くカリスマが立っている。
ステージから放たれる音に酔いしれる観客たち。
中にはトップレスになり、男に肩車をされながら自分がどれだけ最高の気分であるかをアピールする女もいる。
すでにファンになっていた者も、今日初めて彼らの音楽に出会った者も、いま、ステージから放たれる音に不感症でいられる者は誰一人としていなかった。
彼は楽器を燃やす。
前世でも彼がそうしてきたように。
彼は自分をカリスマの座へと押し上げてくれた“キャタツ”に愛情をそそぐ代わりに、オイルを撒き、火をつけ燃やす。
燃える“キャタツ”。
彼は呪いの言葉でもかけるかのように“キャタツ”に手をかざす。
ジュッ…。
「あっっつー!!」
彼は腕に火傷を負った。
「ちょっと演奏とめてーー!」
会場に緊張がはしる。
「あかんわ…。火傷した…。ココ見てココ。ほらー、水ぶくれなってるやん。もーっ!めちゃめちゃ熱かったっちゅうねん」
ざわめく会場。
「うわー、めちゃめちゃへこむわ。もう治らへんのんちゃう?この傷。」
ステージ上のメンバーたちは呆然とたちつくしている。
「あー、一生もんの傷作ってもうたー」
動かずじっと彼を見ているメンバーたち。
「何見てんねん?!大丈夫ー?とか言われへんのか自分?!」
彼は演奏している時とそうでない時とでは人格が変わるらしかった。
「自分やってみ?ホンマに。いっぺんやってみたらわかるって、俺の気持ち…。」
「大げさな…」
と誰かがつぶやく。
「ほんまに熱かったんやから…。ウソちゃうって!何が大げさやねん!本気や」
諦めた顔をするメンバー。
みな同時にため息をつく。
「マジやからー。ちょっとココさわってみ?鉄の赤なってるトコ」
首を横に振るメンバー。
「何が嫌やねん…。何でやねん!触らんかい!!エエから触れや!ちょっと手かせ!」
彼がメンバーに無理やり焼けた鉄を触らせようとして揉み合いになる。
バキッ…。
彼はすねをぶつけた。
「痛ッ!!!撤収や!今日はもう撤収!」
「気分わるい…。ちょっとさきに帰るわー」
あっけにとられる数万人の観客たちを置きざりにして、カリスマは滞在中の実家へもどっていった。
「ただいまー、おかん見てー!!めっちゃ火傷してもたー」
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