人との縁に感謝し、染物で思いをつなぐ
お話しを伺った方
株式会社京屋染物店 庄子さおりさん(2021年取材)
大正時代から続く老舗の染物店
大正7年創業の京屋染物店は、今年で103年目を迎えた。地域の祭りを支える染物屋としてオーダーメイドの半纏や浴衣、手ぬぐいを生産するほか、あずま袋やマスクなども手掛けている。染物屋は分業制を取り入れる店が多く、縫製や出荷作業は外注に出すのが一般的だ。
しかし京屋染物店ではデザインや染め、縫製、出荷といった全ての工程を一貫して自社で行っている。その理由は依頼主の大切な思いを共有し、メンバー全員が理解した上で最後まで丁寧に商品づくりを行うためだ。
入社4年目の庄子さんは、こうした京屋染物店の仕事を「お客様の心に寄り添い、一緒に形にできる特別なもの」と表現する。
庄子さんは当初、事務職として採用されたが、入社から半年ほど経った頃から新たな自社ブランドの立ち上げに携わるようになる。それが現在、庄子さんが統括を務めるブランド「縁日」だ。
「縁日」は“何気ない日常を、特別な縁日に”という思いを込めて、今の暮らしに合ったデザインのKAPPOGI(割烹着)や東北地方に昔から伝わる野良着のSAPPAKAMA(さっぱかま)、邪気を払いその手に福が来ると言われる手ぬぐいのOTEFUKI(御手福来)など、衣服から小物までさまざまな商品を生み出している。
庄子さんは「東北では着古した着物を再利用する裂き織りや、生地を強化させて長く使う刺し子の文化が育まれてきました。自然や土地に感謝して物を長く大切に使うことは、まさに今の時代が求めていること。それを『縁日』というブランドを通して表現しています」と語る。
理想を叶えるマネジメントサイクル
京屋染物店では庄子さんのように職種を超えて活躍するスタッフが多く、その背景には誰もが「やりたい」と思ったことを実行できる社内体制がある。
採用しているのはPDSサイクルと呼ばれる手法で、計画(Plan)、実行(Do)、評価・見直し(See)を一つのサイクルとし、それを繰り返すことで目標を達成していくというものだ。
これを社員一人一人が行うことによって、上からの指示を待つのではなく常に“自分ごと”として仕事と向き合えるようになる。こうした京屋染物店の取り組みは高く評価され、2020年には「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業」に贈られるホワイト企業大賞を受賞した。
人のご縁に支えられて103年
京屋染物店の4代目である蜂谷悠介社長が大切にしてきたのは、父である先代の「人とのご縁を大切にしなさい」という言葉だ。2011年に発生した東日本大震災の時には、祭り用の半纏や浴衣の注文が一気にキャンセルになり、店は窮地に立たされた。
しかし、沿岸で出会った祭り好きの人たちから「染屋は染屋の仕事をしろ」と励まされ、沿岸地域にある祭りの団体へ半纏を寄付。これまで支えてくれた人たちのご縁を胸に、今度は自分たちが支えなければと活動を続けた。
また現在は、社員のみならず地域の企業も参加できる経営や生産管理の研修会を開催。地域の企業がより充実した経営ができるよう、学びの機会を提供している。
将来はものづくりを盛り上げる存在に
生産管理や経営に興味があるという庄子さんも、積極的に研修会に参加して勉強している。将来は地域のものづくり企業のブランディングや経営計画のサポート、販売方法のアドバイスなどをして、地域のものづくりを盛り上げる存在になることが目標だ。
さらに京屋染物店では、岩手県を始めとする東北の工芸品を集めた「村」を作る計画も進められている。そこでは工芸品だけでなく郷土芸能の公演が見られたり、草木染のワークショップやジビエなどが楽しめたりする構想もあるという。庄子さんはその村で、東北の工芸品を扱うセレクトショップを開きたいと目を輝かせる。
仕事をする上で、常に「お客様の思いを120%形にすること」を心がけている彼女。岩手の魅力を発掘し続けながら、今日も染物を通して多くの人の思いに触れている。