ワインの理想郷から、世界中に愛される芳醇な味わいを
お話しを伺った方
株式会社エーデルワイン 代表取締役社長 藤舘昌弘さん
(2020年取材。現在は同社取締役のほか、株式会社エーデルワイン・サポートの代表取締役を務めている)
最高のワインは上質なぶどうから作られる
株式会社エーデルワインがある大迫町は、岩手県の中で降水量が少ない土地だ。夏は暑く冬は寒さが厳しい典型的な盆地性気候で、ぶどうの栽培に適した環境が整っている。
最初にその特徴に気がついたのは、1947年から2期に渡って岩手県知事を務めた国分謙吉だった。
国分知事は「この土地の気候や石灰質の土壌は、ぶどう栽培が盛んなフランスのボルドーに似ている。大迫町を日本のボルドーにしよう」と宣言。
当時、台風で深刻な被害を受けていた町の復興策に掲げ、1950年に県内初となる本格的なぶどう栽培をスタートさせた。
しかしぶどう栽培に適した土地とはいえ、最初から美味しいワインができたわけではない。
「昔は、渋くて酸っぱいというのがエーデルワインのイメージでした」と、株式会社エーデルワインの代表取締役社長を務める藤舘昌弘さんは語る。昌弘さんは大迫町の役場職員や町長の秘書、大迫町役場農林課農業研究所副所長などを経て、2001年から同社の常務に招聘された。
その頃のエーデルワインは醸造用のぶどうも栽培していたが、余った生食用のぶどうを原料にしたワインも多く生産していた。もともとぶどうは換金作物として栽培されていたこともあり、それを使うことで農家の救済事業をも担っていたのだ。
比較的どんなぶどうでも受け入れていたため、決して質が良いとは言えないものも混ざっていた。そうした現状に昌弘さんは、「農家もプロなんだから、出荷に値するぶどうを持ってきなさい」と、農協を通じて生産者に申し入れたという。
その背景には「良いワインは、良いぶどうからしか生まれない」という強い信念があった。
世界中から愛されるワイナリーへ
やがて昌弘さんが株式会社エーデルワインの代表取締役に就任すると、さまざまなワインコンクールへ出品し、国内外を問わず高い評価を得るようになった。
2003年に開催されたJAPAN WINE COMPETITION(第1回国産ワインコンクール)では、「五月長根葡萄園白ワイン」が特別賞を受賞し、翌年は「月のセレナーデ ロゼ」がロゼワイン部門の1位を獲得。
2006年にウィーンで開催された国際ワインコンクールでは、「五月長根葡萄園2005」と「ポラーノツヴァイゲルトレーベ2005赤」が銀賞に輝いた。
国際ワインコンクール2019では、エーデルワインが2年連続で日本唯一の一つ星を獲得。そのほかにも、生牡蠣との相性が良いワインを選ぶオイスターワインコンテスト2019や、日本のワイン業界で活躍する女性たちが審査するサクラアワード2019において、ゴールドメダルを始め多くの賞を受賞している。
ワイン愛飲家のなかには熱心なファンも多く、「日本全国のワインを飲み歩いたが、エーデルワインが一番美味しい。どうしてもここで働きたい」と言って入社したツワモノもいるという。
作り手の心が表れる最高品質の味わい
これまでさまざまな品種を栽培し、より質の高いワインを目指して研究を重ねてきたエーデルワイン。岩手県のワイン醸造の先駆けとしてスタートしてから50年以上が経ち、今では全国のワイナリーとともに日本の高品質ワインを牽引する存在になった。
そんなエーデルワインのこれからについて、昌弘さんは「せっかくの土地と気候、そして人が揃っている今だからこそ流通を拡大し、多くの人にエーデルワインの魅力を知っていただきたいと思っています」と語る。
大迫町の醸造用ぶどう生産者の多くはエコファーマーとして農林水産省の認定を受けており、化学肥料や農薬などの使用を控えた土壌づくりを行っている。
そうして手塩にかけて育てた大迫町のぶどうだけでつくる、純国産の日本ワイン。「堅実にやってきたからこそ今がある。これからもその姿勢は崩さず、亀のようにじっくりとした歩みで進んでいきます」と言って、昌弘さんは穏やかな笑みを浮かべた。
持続性の高い農業生産方式を取り入れ、真面目に、正直にぶどうと向き合い続ける生産者。そして細心の注意を払い醸造を行う工場のスタッフと、ぶどうを取り巻く大迫町の自然環境。
そういった全てのことが影響し合い、今日のエーデルワインを作り上げてきた。時を重ねるごとに増していく芳醇な味わいは、これからも世界中の人々を魅了し続けていくのだろう。