両親の思いを受け継ぎ、地域とともに歩む菓子店
お話しを伺った方
北舘菓子舗 川原恵美さん・小保内和恵さん(2021年取材)
作り手の温かさが伝わる菓子
岩手県内陸北部に位置する一戸町に、古くから地元で愛されている菓子店がある。馬淵川に寄り添うようにして佇む北舘菓子舗だ。
昭和38(1963)年に創業し、現在は両親から店を受け継いだ小保内和恵さんが代表を務め、姉の川原恵美さんとともに手作りの菓子を提供。
父が他界した後も「菓子屋は地元の人に認められなければ駄目だ」という教えを守り続けている。
そんな北舘菓子舗は法事用の菓子を引き受けたり、地元の小学生が小遣いを握りしめて買いに来たりなど、地域の人たちとのつながりが深い。
「岩手のお土産」として買っていく人も多く、土産をもらった人から「遠くて買いに行けないけれど、また食べたいからぜひ送ってほしい」と注文が入ることも珍しくないという。
世界遺産・御所野遺跡にちなんだクッキー
一戸町といえば2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」として、御所野遺跡が世界遺産に登録された。
その遺跡を有する御所野縄文公園では、北舘菓子舗が手掛けた「はなまがりクッキー」と「みみかざりクッキー」を、御所野縄文博物館限定商品として販売している。
「はなまがりクッキー」は一戸町の蒔前遺跡(まくまえいせき)で発見された「鼻曲がり土面」を模し、「みみかざりクッキー」は、御所野遺跡から出土された耳飾りをもとにデザインされている。
縄文時代の人々に思いを馳せて
一度見たら忘れられないインパクトのある「はなまがりクッキー」。
これはココアパウダーが入ったクッキー生地に顔の土台となる型を抜き、そこに特徴的な一本眉と鼻を貼り付けて焼き上げる。
全て手作業で行うため、よく見ると一つずつ微妙に表情が異なっているのが面白い。
姉の恵美さんは「同じ表情がないということが、手作りだからこその“味”になっていると思います」と語る。
遺跡から出土した「鼻曲がり土面」も顔のベースから成形し、そこに太い粘土紐で眉と鼻を貼り付けたと考えられている。
縄文時代の人々と近い作業工程で作られていることも、手作りにこだわる北舘菓子舗ならではの特徴だ。
菓子に込める特別な思い
「はなまがりクッキー」よりも先に誕生した「みみかざりクッキー」は、創業者の父が手掛けたものだ。
御所野縄文博物館がオープンした際に同館から依頼を受けて作ったもので、一戸町産の雑穀「いなきび」が入っている。
一方「はなまがりクッキー」は、和恵さんが母と一緒に試行錯誤しながら完成させた。
その母は父が他界してから数年して体調を崩し、長きに渡る闘病生活の末、子どもたちに見守られて旅立った。しかし、和恵さんだけは母の最期に立ち会えなかったという。
「あの時、はなまがりクッキーの注文が入っていて、焼き上がったら病院に駆けつけようと思っていたのですが間に合いませんでした。もちろん心残りはありますが、それでもあの時に作っていたお菓子が母と一緒に作り上げたはなまがりクッキーだったということに、不思議なめぐり合わせも感じています」と、和恵さんは静かに語る。
両親や家族、地域に支えられて
機械を導入すれば生産力を上げることはできるが、両親が大切にしてきた手作りへのこだわりや「大切な何か」が変わってしまうのではないか。そう考えると、なかなか踏み切ることができないのだという。
店や作業場には両親の写真が飾られ、「本当はもっと親孝行がしたかった」と語る姉妹を見守っているようにも感じられる。
姉妹はこれまで決して平坦な道のりではなかったが、両親の代から関わりの深い御所野遺跡の世界遺産登録を受け、改めて店を続けてきて良かったと笑顔を見せた。
和恵さんは「岩手は温和な人が多く、本当にたくさんの人に支えられてきました。これからも両親の思いを大切にしながら、皆さんに愛されるお菓子を作り続けていきたいです」と教えてくれた。
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