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《 103万円は「障壁」》

1 はじめに
  国民民主党が打ち出した103万円の壁を打ち破る政策について、自民党や立憲民主党の国会議員さん、有識者、財務省OB及びマスコミが、所得税法上の限られた条文のみを解説し、たいした壁でないとか、「壁」ではなく坂道だとか、基礎控除の引上げは、高所得者ほど有利になると論説しています。「高所得者ほど有利」との表現は、不正確で一般大衆を惑わせているだけです。正確には、「所得が高く、税率が上がるほど有利」との趣旨です。
  また、106万円及び130万円の社会保険料の壁とセットで議論すべしとの意見もありますが、まずは、基礎控除の引上げとの国民民主党の主張の方が分かりやすいのであって、逃げ口上でしかないと思われます。
  実は、103万円の「壁」とは元々、「障壁」との趣旨で使われ始めたものであり、130万円の年金における「壁」等の「境界」の趣旨とは異なります。
  103万円の壁は、所得税だけでなく、家族手当(国家公務員では扶養手当といいます。)とともに語られるべき問題です。

2 夫(会社員)、妻(パート)、子(アルバイト)の3人家族の場合
  私の知人家族の夫の給与明細には、家族手当12,000円(扶養2名)との記載があります。内訳は不明ですが、配偶者8,000円、子4,000円としておきます。また、国家公務員(一般職)であれば、一般職の職員の給与に関する法律(以下「給与法」といいます。)において、扶養手当と称されます(給与法11条)。
  給与法は、人事院勧告に従い、民間準拠を原則としています。令和6年人事院勧告(令和7年4月実施)では、とされていますが、私の記憶では、過去に配偶者扶養手当11,000円、子扶養手当5,500円が支払われていました。
 霞が関官僚における扶養者2名分の年間収入は、月額扶養手当✖16.5月(賞与4.5月を含む。)に地域手当2割加算され、更に能率給などにも影響する金額が支払われていました。

3 103万円の壁を超えるとは、扶養者でなくなること
  給与所得者において、所得税が発生するラインを壁と称し、105万円の年収の場合、所得税は、超過分の2万円に税率5%で1000円であり、手取りは減る訳ではないとの説明は、「壁」を「境界」との意味であると理解した場合です。
  この反論として、所得税法上、妻と子が扶養者でなくなることで、夫の所得控除が減るため、夫の所得税がアップするので、世帯収入としては、手取りが減ってしまうとの説明がされています。妻の収入(所得)は少々増えても、配偶者特別控除があるので、影響は少ないと言えます(なお、復興特別所得税及び住民税は考慮していません。)。  
  しかし、実際には、所得税法上の話ではなく、妻子が扶養者でなくなることで、夫の家族手当(扶養手当)約20万円が減額されてしまうので、世帯収入で考えれば、大きな減収になってしまいます。扶養者であれば、受けられる保養所の割引や各種補助金も受けることができなくなるため、影響額は更に拡大します。
 103万円の壁は、最も影響が大きいため、「障壁」との意味合いで、最初に「壁」と称されるようになったのです。各種税金、国民年金及び国民健康保険料等を全て加味した世帯における損益分岐点は、各家庭の所得事情にもよりますが、妻子の給与がそれぞれ150~170万円くらい必要ではないかと思われます。この損益分岐点までは、タダ働きということになるので、世帯において、手取り収入の恩恵があると実感するためには、妻子の給与がそれぞれ年収200万円くらい必要というのが現行制度です。
 仮に、103万円を120~130万円に引き上げて、年金を徴収されるようなことになれば、結局のところ、手取り収入は増えない結果になってしまいます。世帯主の減税効果も年間数千円から3万円程度になると考えられます。

4 本当の高所得者の基礎控除は、調整により減額されていること
  会社員やアルバイトの給与所得者の皆さんは、基礎控除申告書を使用者に提出されたことだと思います。
  結論から言いますと、2595万円を超える給与所得者から基礎控除額が順次減額され、2695万円を超える給与所得者に基礎控除額はありません。別世界の年収の方々ですが、ここまでくると、現在でも基礎控除の適用はなく、基礎控除引上げに伴う減税対象者ではないと考えても良いと思います。基礎控除を引上げに当たっては、一定の給与収入を超える給与所得者から基礎控除額を順次減額しくこととなります。
 この一定の収入をいくらにするかが実際の所得税法改正において、焦点になると考えられます。

5 家族手当(扶養手当)の支給要件について
  国家公務員の扶養手当の支給要件は、所得税法上の扶養家族と若干相違しています。恒常的収入が年額110万円未満(月額9万1666円)とし、月単位で支給要件を判断します。「恒常的収入」には、非課税の交通費等が含まれ、譲渡所得や一時所得などの臨時収入は、除外されます。
  国民民主党玉木代表が述べていた10月で103万円に達しそうなので、年末にシフトに入れないという場合、扶養手当を考慮する国家公務員の場合には、年額でなく、歴月単位で支給要件の判断されるため、扶養家族の給与収入は、月額9万円以内にとするようにと伝えています。
  当局側も厳密に月単位でチェックできる訳ではないので、職員向けに広報しているところです。年1回、扶養手当支給要件について、確認されます。その際には、扶養手当支給対象となっている妻子の給与明細(直近3か月分)を提出します。
  民間での家族手当の支給要件は、勤務先による異なると思われまが、所得税法上の扶養家族とほぼ同様と推測され、年額(暦年)で判断しているとなれば、年末にシフト調整を行って年額収入を103万円以内としする必要があるということだと考えられます。
  家族手当は、103万円の壁とは別問題だと述べていた立憲民主党の国会議員さんがいましたが、一般職の国家公務員の扶養手当は、給与法で定められていることから、正に立法府の問題でもあり、単に別問題と片付けることはできません(なお、本年の人事院勧告は、完全実施となったため、配偶者に係る扶養手当は廃止され、子に係る扶養手当は増額されます。)。

6 事業所得者について
  103万円の壁を引き上げるとは、基礎控除が引き上げられることで、事業所得者の場合でも減税効果があるので、給与所得者に限られたことではありません。
  特に、青色申告の専従者給与において、基礎控除額の引上げによって、所得税負担のためにためらっていた支給額を引き上げることができます。今後、白色申告に係る専従者給与の経費算入可能額を引き上げるかが焦点となっていくと思われます。
  
  
  

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