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月下美人

 お店のお手伝いが終わったら大体おばぁの家に帰ってきてごろごろしながらダウンロードしたアニメやドキュメンタリーを観たあと運動してシャワーを浴びてアルコールと共にレシピ本を眺めている、寝る前は眠くなるまで本を読む

 今日は、調子が悪くいつものリズムにのれなかった、シャワーを浴びてベッドの上で惰性を極めつついた頃、ふと、昼間に見た月下美人の蕾を思い出した

 それは、毎朝のようにくぐっている植物のトンネルの中に潜んでいたのにこの蕾がこんなに大きくその存在を主張するまで私はそれに全く気が付かなかった

 自分のある程度鍛えられたであろう、と自負していた自然に対する観察力は、まだまだだったと少し落ち込みながら、確かにそこにある大きな蕾を見上げた

 6年前もここを訪れたとき、これを見た記憶があった、あやふやな記憶の中に、暗闇の中で眩しく光る白いものを見た記憶が甘い香りとともにあった、それは見事に私の心を捕らえ私はそれをいつまでも仰ぎ見ていた


 静かで曖昧で鮮烈な記憶


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 よっしゃ、とようやく身体を起こしカメラを携えて外に出た

 曇り、夜風がさらさらと吹き通る、とても気持ちのいい夜、今までベッドの上にいたことを少しだけ後悔した

 歩いて5分ほど、昼間の蕾は大きく無数の花弁を開いていた

 不思議な花だ、名前といい生態といい惹かれるものはさぞかし多かろう

 私もすっかりそのうちの一人だった、カメラでその魅力を収めようとするが暗いのでなかなかうまくいかない
撮影は諦めて暫く眺める、そうそうこの香り


 6年ぶりの、再会


 きっと近い将来、家の前の小さな庭に迎え入れるだろう
その時はアルコール片手に時間を忘れて眺めていたいものだ



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