家族(親)との距離感
コロナ禍により、「ソーシャルディスタンス」という言葉がすっかり生活の一部となりました。「3密を避ける」「人と接するときは距離を十分にとる」……、コンビニでの買い物一つとっても、人との距離感に注意を払うようになっています。
ところが自粛期間中、家庭内では、真逆の事態が起きることになりました。リモートワークやオンライン授業により、家族が揃って家にいる時間が増えたのです。今までにないほどの「家族密」です。
「家族との時間を思う存分にとれた」と喜ぶ方がいる一方で、想像以上にストレスを感じた方もいたことでしょう。もともと家族関係に問題を抱えていた家庭においては、かなり厳しい日々だったのではないかと想像します。実際に、世界中で家族間のDVが増加したともいいます。弊社にも、せっぱつまった相談が寄せられておりました。
さて、このようなときだからこそ、「家族との距離感」について、改めて考えてみたいと思います。
メンタルヘルスの問題を抱えている当事者(本人)は、往々にして家族(とくに親)との間に健全な距離感がとれていないことが多いです。親を暴力で支配したり、何年も口をきかなかったりしながら、生活面や経済面では親に依存しています。それだけなら「親のお金を当てにしている」と捉えることもできますが、実際に介入して本人と話してみると、「親を尊敬している」「親のことは嫌いじゃない」などと言うこともあり、表面的な問題として片付けられない複雑さを感じます。
これは、本人の「きょうだい」にも言えることです。弊社には、きょうだいからの相談も多くありますが、きょうだいがキーパーソンとなって問題解決ができたケースでは、「きょうだい自身が自立している」という共通項がありました。経済面はもちろん、精神的な自立も含まれます。
わかりやすく言うと、きょうだいが「本人にも問題があるが、親にも問題がある」ということを客観的に理解できているのです。その上で、自分にできること・やるべきことは何かと相談に来られます。
ところが近年は、「きょうだいもまた、親との距離感がうまくとれていないのでは?」と思う相談が増えています。どうみても親の対応や育て方に過ちがあり、本人の問題行動を加速させているのに、きょうだいがそのことに気づいていない、もしくは気づかぬふりをしているのです。
きょうだいが、親の対応や子育てについて、客観的に理解できているか否かは非常に重要なポイントです。なぜならそれが分かっていないと、重要な局面での判断がにぶることになるからです。
本人が親と依存関係にある場合、治療とは別に、親との適切な距離感を模索していかなければなりません。当然、親自身ではそれができなかったから今があるわけで、きょうだいこそがキーパーソンとなって物事を進めるべきです。
しかしそのきょうだい自身が、決断の必要な場面で親の顔色をうかがったり、親の言い分を聞きすぎてしまったりするのです。たとえば弊社がいくら現実的なアドバイスをしても、「親はこうしたいと言っているので」などと言われてしまいます。その親の考えが現状を招いたのでは……とお伝えしますが、「悪いのは本人であり、親は悪くない」と返されることもしばしばです。
また、「親の老後の面倒はみたいが、本人とは関わりたくない」とおっしゃる方もいます。しかし、親と本人の関係が不健全なうちは、親に関わろうとすれば本人の問題も付随してくるのは当然のことで、そうそう思い通りにはいかないものです。
ここで声を大にして言いたいのは、「これは本人と親の問題でもあるが、あなた(きょうだい)自身の問題でもある」ということです。
昨今は甚大な自然災害やコロナ禍が続いていることもあり、先々への不安からか、必要以上に親(実家)の顔色をうかがう子供が増えているように思います。しかし、判断や決断を頼る先が「壊れた家族」であっていいのでしょうか?
逆に考えれば、未来のみえない今だからこそ、人は、そのつながりや結びつきを見直しはじめています。家族(親)のありかたを客観的にみて、家族以外の人間関係を構築するチャンスでもあります。そしてそれこそが、問題解決につながる第一歩です。
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