「お母さんのため」をやめてみよう
漫画『「子供を殺してください」という親たち」』。コミックバンチWeb最新話(35話)では、精神疾患をもつ「兄」の件で、「妹」が相談の電話をかけるシーンが登場します。
そして、妹の傍らには「母親」が……。
今回は、当事者の「姉」「妹」という立場からの相談について、お話してみたいと思います。
弊社に相談にこられる「姉」「妹」の方(以下、相談者とします)は、「しっかり者」タイプの方が多いように思います。これまでの経緯を尋ねれば、理路整然と説明してくださいますし、精神保健福祉行政の仕組みも理解しています。また、ご自身の考えを主張する力も持っています。
また、安定した職業に就いていたり、結婚して子供もいたりと、ご自身の生活スタイルを確立されています。パッと見た限りでは、実家に問題を抱えていることなど、周囲からはうかがい知れないでしょう。
ですが、お話をしていると、非常に「もろさ」を感じます。ガードの固い、張りつめた空気が漂っていて、少しの刺激で総崩れしてしまうような危うさがあるのです。
なぜそうなってしまうのでしょうか?
弊社の経験から一つ挙げると、相談者の思考・行動が、「当事者(きょうだい)のため」ではなく「親のため(とくに母親のため)」になってしまっていることがあります。
分かりやすく言うと、本当に当事者のことを考えるなら、「医療につなげるしかない」など、すでにやるべきことは決まっていて、あとは「やるか・やらないか」または「できるか・できないか」でしかないのに、そこに必ず「母はこうしたいと言っている」「母はこう思っていると思う」という思考が入ってきます。母親の感情に寄り添うあまりに身動きがとれず、ただひたすら悩むことになります(当然、問題も解決はしません)。
相談者が「兄」や「弟」(つまり息子)の場合、このようなことは少ない傾向にあります。息子のほうが、「母親」という存在に見切りをつけた時には切り替えが早い、とも言えます。弊社への相談でも、「本人がおかしくなったのは母親のせいでもあるので、母親にはもう口を出さないでもらい、自分がキーマンとして動きます」と覚悟を決めて来られます。
半面、「姉」「妹」(つまり娘)の立場となると、「母親」との関係がより密接になるようです。相談者と話をしていて、母親への依存や、母親からの支配を強く感じることもあります。
親が健在で、経済的・精神的に頼れるうちはよいですが、そうでなくなったときのことを考えると、あまりよい傾向とは言えません。これまで「母親」を通して見てきた「きょうだい」の問題が、一気に相談者にのしかかってきたとき……果たして耐えることができるでしょうか。
最悪の事態を避けるためにも、「姉」「妹」の立場にある方には、一度、「母親」のベールをはずして、今後のことを考えてみてほしいと思います。以下、具体的にできることを述べてみます。
●「お母さんのため」をやめてみる
相談者の方はよく、「姉として(妹として)本人に向き合いたい」「このまま見過ごすわけにはいかない」とおっしゃいます。本心であれば立派なことですが、そのためにすべき具体的行動についてアドバイスをしていくと、超えるべき壁の大きさに、とたんに萎えてしまう方も少なくありません。
本人も親も高齢となっているケースでは、相談者が、「親の面倒をみる気はあるが、本人とは関わりたくない」とおっしゃることも多いです。つまり、「母親を、本人からの拘束やお金の無心から解放してあげたい」という気持ちのほうが強く、「本人のため」には動く気持ちがないのです。「本人を医療につなげるなどして、関係を手放したい」と安易に考えている方もおられます。
しかし昨今は、長期化した難問ほど、きれいに解決することは非常に難しくなっています。弊社はとくにハードな問題をたくさん見てきており、きょうだいにはとても荷が重い問題があることも理解しています。場当たり的な対応や、中途半端な覚悟で関われば、自分自身をも苦しめるだけでなく、自身の家族(配偶者や子供たち)にも影響を与えることになります。
自分の心を壊してしまうくらいなら、「諦める」「逃げる」という選択肢もあるはずですが、潔くその選択ができない背景には、やはり「母親」の存在が見え隠れしています。「お母さんのため」=「お母さんに認められたい」という理想を手放すことができないのです。
その良し悪しをジャッジするつもりはありません。ただ、ここまできょうだいの問題を放置してきた(そうせざるを得なかった)相談者自身の「本音」があるはずです。まずは自分の気持ちに正直になってほしいと思います。なぜならそれこそが、親亡きあとの「本音」となるはずだからです。
●家族以外に、心を打ち明けられる場所を
「姉」「妹」の相談者には、「しっかり者」タイプが多いからこそ、実家の問題を自分だけで抱えているケースも多数、見受けられました。友達や恋人(配偶者)といった近しい間柄の方にも打ち明けたことはなく、弊社が電話相談で数時間お話をしただけで、「こんなに長い時間、話を聞いてもらったのは初めてです」とおっしゃる方もいます。
もちろん、身近な人に相談したからと言って、解決するような問題ではありません。しかしかといって、すべてを自分一人で抱え込もうとすることも、現実的ではありません。
とくに配偶者や義理の家族に対して、当事者の存在を徹底的に隠している方もいます。そのような状況だからこそ、「今のうちに自分が何とかしなければ……」と焦っておいでです。しかし昨今の精神保健福祉行政の現状を鑑みても、問題解決にはそれなりの時間と労力が必要となりますから、身近な家族に隠し事をしたままで……というのは難しくあります。
親が亡くなれば、葬儀や相続など、きょうだいが顔を合わせる機会も出てきます。積極的な協力を得ることは難しくとも、事実だけでも今のうちから少しずつ、知らせておくようにしましょう。
最近は「きょうだい児」(精神疾患のきょうだいをもつ方々)の集まりやネットワークも少しずつ広がっているようです。配偶者や友達に相談するのは気が引けるという方は、このような集まりに参加してみることも一つかもしれません。
ケアラーアクションネットワーク
全国きょうだいの会
各地のきょうだい支援
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