
クリスマスツリーは聖夜の怪
その時、曇天を貫いて、彼方から一条の光が射し込んだ。僕は茂みに隠れたまま、木下闇の中からそれを見た。丘の上に立って光に包まれ佇むのは…おお…人影だ!
超常の光に照らされたアフロは、オーロラの如く、目まぐるしくその色相を変える。不恰好なシルエット。僕はその人を知っているような気がした。だがそれが誰だったのかは、今も分からない。
低く垂れ込めた雲は次第に渦を巻き、トルネード状に降りてきた。丘の上の人影を中心に吹き荒ぶ寒風は今やびょうびょうと唸りを上げ、光柱の眩さは愈々増していった。
僕は必死に地面に這いつくばった。もう何も分からなかった。次の瞬間、不意に静寂が訪れた。そこは、真っ白な光の世界だった。
再び気が付くと、辺りは先刻までと変わらぬ闇夜で、僕は相変わらず公園の茂みにしゃがんでいた。
だが、おお…あれは!りんごとみかんと自転車ホイールで装飾された奇妙な…だが確かにそれは、丘の上に立つ、一本のクリスマスツリー!
その頂の宙空には、虹色極彩色に輝く創英角ポップ体の文字列が残り香の如く踊っていたのだ。
『メリー・クリスマス!』と。
これは僕の追憶の中で、どの事象とも結びつかぬ、いわば記憶の特異点だ。
いいなと思ったら応援しよう!
