擬態屋だぁぁぁぁぁいすき
これから私が日頃愛してやまない擬態屋の素晴らしさについて綴っていきたいと思う。
写真家・佐内正史と曽我部恵一による異質のユニット、擬態屋。
佐内正史が紡ぐ静かだが疾走感のあるポエトリーリーディングと曽我部恵一による穏やかかつ緊張感のあるサウンドがブレンドする。丁寧な心地のよさを感じさせつつオルタナティブな一面を覗かせる小気味良い音楽が特徴。彼らの不定形故のフレキシブルな音楽は普段私たちが過ごしている日常に内包されているやすらかな光の存在を気づかせてくれ、時間と空間の間を漂いながら私達をどこか遠くまで連れていってくれるような感覚を味あわせてくれる。
私が思う擬態屋の素晴らしさの1つは歌詞。
正直、歌詞というよりも詩と言った方が良い気もする。
写真家である佐内正史が繰り出す詩は今目の前にあるものや今湧き上がった感情、今思い出された記憶などの意識の流れがリアルに描写されている。脳内で目まぐるしく切り替わる刹那的な映像は曽我部恵一が出すサウンドによってはっきりと存在が認識され、意味を持つ。普段から眼前にあるものや人の感情の一瞬を切り取っている佐内正史の瞬間描写の上手さは写真家ならではなのが見て取れる。
ここまで朗読したくなる文章はないと思う。リズムの良さを感じる。
ここで私が擬態屋で1番好きな曲の歌詞の一部分を紹介したい。
サムネにもなっているがこれはふっくらシップの比較的初めの方に出てくる歌詞である。
理論的に考えてここがこうでこういうになっていて素晴らしいから好き、というわけではない。元々理論的に考えるのは得意じゃないし、普通にフィーリングだ。あと夏好きだし。特に『無名の夏の犬』なんかは小説のタイトルっぽくてなんとなくカッコいい。
擬態屋を聴いていると懐かしい気持ちになる。私は千葉にアジフライを食べに行こうなんて思ったこともないし、歌詞に出てくる街を歩いたこともない。でもなぜか懐かしく感じる。太陽の光の熱や都会の喧騒、クーラーがよく効いた喫茶店、パーカーの気持ちよさ、よく感じる。擬態屋の知らないはずの遠い夏の記憶が自分の中に本来あった夏の記憶によって補完され、リンクする。懐かしく思う。
これは個人的な話なのだが私は知らない街に行ってみたいという欲求が常日頃からある。
実際電車を乗り継いで適当な駅で降りて行ってみたりする。しかし期待とは裏腹にここで私の中で湧き上がった感情は違和感と言い知れぬ失望感。色んな街を降りてみた。同じだった。やっぱり違う。どこに行っても違う。どこにも私の理想とする”知らない街”はなかった。原因は分かっていた。私はその場所に足を踏み入れ、視界に入った瞬間にこの場所を認知する。駅前の大きな本屋。少し遠くにあるシャッターだらけの商店街。雑草だらけの空き地。建物のサビ。道の脇に放置された壊れた自転車。知ってしまった。私にとってこの場所は知らない街ではなくなってしまったのだ。
こんな話をしてしまえば元も子もないが言い知れぬ感情が抱かれる要因は実際そうなのだと思う。私は知らない街を知らないままでいたかった。なにも知らないという浮遊感に身を任せ、私的な感情の介入を一切許さず、ただただ空っぽの気持ちのまま漂っていたかったのだ。だからこそこの欲求は昇華されることは永遠にない。残念ながらただひたすらに知らない街を歩く妄想に耽るほかないのだ。
しかし、擬態屋に出てくる街は私が理想とする街によく似ていた。長年夢見続けた街と不思議にもリンクするのだ。固有名詞があまり出てこないのでリンクさせやすかったのかもしれないが言葉と音だけの風景の抽象性と節々に感じる映像的なリアリティな描写はより深く”知らない街”の空気感に移入することができた。すごく内的な話になってしまったがこれが擬態屋を好きな理由の一つでもあるのだ。
曽我部恵一が織りなすサウンドは丁寧かつオルタナティブ的なかっこよさを感じさせる。
1stアルバム『DORAYAKI』の1曲目ギタイヤなんかそうだと思う。私は『間応』と『ふっくらシップ』が好きなのだが、『間応』は曽我部恵一のスロウなギターは歌詞のリズムの良さを際立たせていて、空気中に溶け込んでしまいそうな心地の良さを感じる。
『ふっくらシップ』はスピード感のあるサウンドにピアノのリフレイン、約16分の長尺だがそれを感じさせない良さがある。素晴らしい。素晴らしいすぎる。
詩の朗読と音楽とのブレンドしたギグ。今までにいただろうか。
2024/3/7にGEZAN/擬態屋/ハナレグミのライブ見たが大変素晴らしいものだった。DORAYAKIの中に入ってない曲もやってくれたし演奏直前に作ったものをやってくれた。最高だった。心地よかった。
普段CDを買うような人間ではないけど、渋谷のタワレコでアルバムを買ってしまった。付属していたわからないステッカーをスマホケースの裏に入れている。歌詞カードをほぼ毎日読んでいるし、たまに朗読なんかもしちゃっている。朗読は楽しい。小学校から高校まで朗読で指名されたときはすこし嬉しかった。喜んで朗読した。
擬態屋の1stアルバム『DORAYAKI』のジャケットは佐内正史が撮ったもの。
佐内正史は静岡県出身で24歳で写真を始めた。写真集『生きている』でデビュー。くるりや中村一義らのジャケットも手がけており、GEZANのフロントマンでもあるマヒトゥ・ザ・ピーポーの初監督作品、i aiの撮影も担当している。
曽我部恵一は日本のシンガーソングライター。サニーデイ・サービス、曽我部恵一BANDのボーカル、ギターとしても知られる。インディーズレーベル「ROSE RECORDS」主宰。