令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド11:TRPGとダイスと結婚と嘘
解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。
文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ
ようこそ、私の研究室へ。
TRPG誕生から半世紀が経過した。
最初期の日本語版TRPGからも40年を越えた。
それはすなわち、ユーザーの初期層の多くは還暦を迎えているということでもある。先日も、グループSNEの重鎮、友野詳先生が還暦を迎えられ、彼の作品で育ったものたちが集まったが、彼らの多くが40代以上である。しかたない。彼のデビューは昭和の終わりなのだ。もう35年以上が経過した。私も還暦を過ぎた。本来なら、孫がいてもおかしくない年だ。
残念ながら、知人のゲーマーたちの結婚状況はなかなか厳しい。
平成元年(1989年)に、ソードワールドRPGが直撃した中学生から高校生たち(当時13-18歳)が今や、48歳から53歳であるが、早くに結婚できたものとそうでないものの明暗がはっきりと分かれている。その後の彼らはいわゆる就職氷河期に直撃し、さらに、明けることのない平成大不況の只中で、結婚そのものがリスクと言われてきた。政府は「自己責任」と称して、国民の生活から税金と権利を搾り取る施策、例えば、非正規雇用の拡充と中抜き構造の是認を推進し、庶民が結婚できない不況を打開することもなく、その裏で、形ばかりの少子化対策としてさらに増税を進めている。
それでも、我々は遊び続けたいし、生き続けたい。
ゲーマーたちに結婚という未来の可能性はあるのか?
令和6年3月
【主な登場人物】
難解好夫(なんかい・すきお。60歳、フリーランス、TRPG歴42年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)
難解さん還暦CON開幕
今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)であるが、今回は、古参メンバーの難解好夫(なんかい・すきお。60歳)の還暦祝いを兼ねた「難解さん還暦記念CON」(*2)。難解さんのお祝いを兼ねたTRPGコンベンションなので、難解さんと関わりがあるそうなTRPGをみんなで立てて、遊ぶというものである。
還暦なので、赤いちゃんちゃんこ(*3)を着せようとする今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)の提案を拒絶し、赤いスカーフ(*4)でごまかした難解さんだが、難解さんの妻のひろこ(46歳)、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)、少々の娘の梶理(かじり、14歳)だけでなく、最近、顔を出していなかった昔のゲーマー仲間も、家族連れでやってきたので、それなりにうれしそうだ。
難解「まっかぁなぁ、すかぁああふ」(*5)
色々「難解さんはヤマト(*6)直撃世代ですからね」
難解「スターウォーズ(*7)もガンダム(*8)も直撃じゃ」
色々「なんか1960年代前半生まれは、オタク黄金期を生きていますね。そんな難解さんが結婚できるなんて!」
難解「あのな、結婚は勢いだぜ、兄貴(ドズル(*9)風に)」
色々「あー、聞こえない、聞こえない!」
さて、主催者である少々がマイクを取り、開会の挨拶。
少々「・・・という訳で、今回のGM/KP各位には、難解さんから紹介があった、さまざまなTRPGをチョイスしてもらいました。残念ですが、古すぎて誰も立てられないゲームが多数あったことを最初にお断りしておきます」
難解「ハーン・マスター(*10)は現役だぞ!」
少々「さすがに、エンパイア・オブ・ペタル・スローン(*11)とドラゴン・クエスト(*12)は無理でしたよ」
梶理「え、ドラクエのTRPGがあるの!?」
少々「ない、ない。デジタル・ゲームよりも前に出ていたゲームなんだ」
梶理「えっとTRPGっていつからあるの?」
難解「最初のTRPGである『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は1974年1月末に発売された(*13)と言われているから、50年前だな」
難解さん、トークショー!?
という訳でイベント開会、難解さんとその妻ひろこが壇上に上げられてしまう。
少々「まずは、今回の主賓。難解さんから挨拶を」
難解「えー、今回はこういうお祝いをいただき・・・ああ、面倒くさい」
ひろこ「真面目にやりなさい!」
難解「こういうのは苦手なんだよ」(*14)
ひろこ「うちの主人が申し訳ありません。ゲームとプログラム以外、何もできない宿六ですが、引き続き、よろしくお願いします」
少々「難解さんはゲームのことならいくらでも話せるのに!
じゃあ、ジオンの演説風に」(*15)
難解「君たちの愛したガルマは死んだ! なぜだ!?」(*16)
一同「お坊ちゃんだからさ」
梶理「この人たちは!?」
中学生を置いてきぼりにする老害オタク軍団。
少々「そういう訳で、本人がしゃべりにくそうなので、今回のGM/KP陣から自己紹介と難解さんとの関係、そして、質問をひとつ、述べてもらいましょう! まず、色々さん」
色々「なぜ、俺!?」
少々「一番仲がいいですからね。一番手は嫌ですか? では、トリをお願いしますね」
色々「プレッシャーが!」(*17)
少々「では、D&D担当の洞窟入(どうくつ・はいる)さん!」
洞窟「『ダンジョンズ&ドラゴンズ』担当のダンジョン・マスター、洞窟入です。難解さんには若い頃から、D&Dのキャンペーンで鍛えてもらいました。何度、殺されたことか?」
少々「そんなに殺されたんですか? 回数は?」(*18)
洞窟「お前は今まで食べたパンの数を覚えているのか?」(*19)
・・・・
少々「そうですねえー。 では、難解さんに質問をひとつどうぞ」(*20)洞窟「どうやったら、ひろこさんみたいに若くて可愛い女性と結婚できるんですか?」
難解「なんでゲームの質問をしない!?」
洞窟「いや、難解さんが結婚できたのが不思議で!」
難解「・・・」
少々「ひろこさんからでも構いませんよ!」
ひろこ「勢いですかね?」
少々「勢い?」
ひろこ「私がTRPG初心者だった頃、うちの旦那がGMで」
少々「ああ、そうでしたねえ」
詳しくはこちらを参照。
https://www.mangaz.com/book/detail/121161
難解「宣伝か!」
洞窟「では、俺ももっとDMをすれば、いいと!」
少々「事前にアンケートを取ったところ(*21)、既婚者ゲーマーの約43%が配偶者とは、ゲームで出会ったと答え、その中には、旦那がGMで、奥様がプレイヤーだったという傾向が多数見られました」
難解「おい、そんなアンケート、いつ取った!」
少々「こちらのスライドを御覧ください!」
難解「プレゼンが始まったぞ」
以下、パワーポイント(*22)だと思ってください。
難解「配偶者、なにそれ? が53.4%だぞ!」(*23)
少々「ネタアンケートだと取られたようですので、それらを排除した結果、有効投票数(*24)が772票、うち、『配偶者とはゲームで知り合った。』が43%になります。331票ですね」
洞窟「そのアンケート、気になるぞ」
少々「なお、コメント欄によれば…」
・旦那とは『ルーンクエスト』(*25)で知り合いました。SF研究会の先輩が、ゲーム研究会にもいて・・・今や、二人ともルーンロードです。
・コンベンションで知り合い、『GURPSルナル』(*26)で仲良くなりました。自分がシャストア信者、家人はアルリアナ信者でした。
・彼女の初TRPGのGMとして呼ばれました。回したのは『深淵』(*27)。
・『ブルーローズ』(*28)のテストプレイに呼ばれたら、相方がいた。
・『ダブルクロス』(*29)のオンラインセッションサイトで。
・本屋で旧『ウォーロック』(*30)を手に取ったら、知らない女性から「ソードワールドのマスターできますか?」とナンパされた。
・ウェブで『クトゥルフ神話TRPG』(*31)の話をしたら、「KPできますか?」とナンパされた。
その他、出会いのきっかけや仲を深めたセッションでのタイトルとしては以下のようなものが上がっています。
『ギア・アンティーク』
『真・女神転生TRPG 覚醒篇』
『特命転攻生』
『天羅万象・零』
『トーキョーNOVA-D』
『シノビガミ』
洞窟:『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は!?
色々:察しろ(肩ぽん!)
洞窟:誰か! 誰か、プレイヤーと結婚したDMはどこかにいらっしゃいませんか?
報告をお待ちしております。たぶん、たくさんいそうなのだが。
PBMから結婚へ
少々:PBMやPBW、MMOでの出会いも多数報告されていますね。
梶理:PBM?
難解:プレイ・バイ・メール(*32)やな。郵便でやりとりするRPG。毎月、送られてくる物語に参加する。だいたい1年ぐらいで遊べるが、熱心に遊ぶ人はそのやりとりの間に、情報収集して行動の打ち合わせして、下手すると同人誌1冊でっち上げる。(*33)
梶理:同人誌1冊?!
難解:まあ、全国規模で文通しながら、遊ぶゲームやったから、交流の幅が広まって、それで結婚した奴もたくさんおったな。昔の友だちが蓬莱学園(*34)のGMでな、イベントで交流したプレイヤーと結婚したのがいたな。
梶理:PBWは?
難解:プレイ・バイ・ウェブ(*35)。郵便が電子メールに変わった訳だ。
MMOは分かるな。ネットで遊ぶ多人数型のデジタルRPGだ。特に、チームやギルドを組むタイプは、交流が多くなるしな。
好きなGURPSは?
恍惚果「『ヴァンパイア:ザ・マスカレイド』のストーリーテラー(*36)の恍惚果(こうこつ・はてる)です。難解さんとは色々なゲームで遊びました。ワールド・オブ・ダークネス(*37)が多いですが、『Wraith: The Oblivion』(*38)で死霊を遊んだのが一番ひどかった」
難解「あれは、隣の奴が、自分の暗部を演じるからなあ」(*39)
恍惚「『GURPS妖魔夜行』(*40)にハマった時に、難解さんにGMしてもらったのはいい思い出です。あの時に同卓したのが彼女との馴れ初めでした」
洞窟「く、ここにも同卓結婚者が!」
恍惚「あの時、私は赤マントで、彼女は口裂け女でした(*41)。
都市伝説同士だねーと盛り上がりましたよ」
難解「あの日の打ち上げで、都市伝説を語り続けるお前を見た時は、友人の彼女(非オタ)に『機動戦士ガンダム』を解説した庵野秀明(*42)を見る思いだったが、あれからうまくいったとは!」
恍惚「実は、ゲームを始めたきっかけが二人ともゲームブックで、同じパラグラフが好きだったので、結婚を決めました」(*43)
難解「マジかあ」
少々「では、質問をひとつ」
恍惚「考えてこなかったので、『妖魔夜行』の話からつなげましょう。
難解さんの好きなGURPSのサプリメントは?」
難解「ああ、やっとまともなゲームの質問が来た。
GURPS Ultra-Techかな。SFネタががっつり入っているのがいい」
少々「原作物とかは?」
難解「GURPS The Prisoner Roleplaying In The Villageかな。ドラマ『プリズナーNo.6』のサプリだ。あれは面白かった」(*44)
色々「あれは、『ログアウト』(*45)の『おこんないでね』(*46)で見ました」
難解「あれはまだ、井上純一(*47)が太かった頃。
いや、あの男が結婚できるとは、誰も思っていなかったぞ」
恍惚「GURPSはいいゲームでしたね」
難解「ああ、夢が詰まっておった」
結婚生活は闇?
暗黒司「シャドウラン5TH EDITION(*48)担当の暗黒司(あんこく・つかさ)である。本日は、新シナリオが間に合わなかったので、『シャドウラン・コデックス』(*49)から『理力の騎士』(*50)を回すぞ、こーほー」
難解「待て、あれか! また、洞窟が真っ二つになるぞ」(*51)
洞窟「ああ、確かに真っ二つになりました」
暗黒「なるほど、ご助言感謝。
だが、余は世情にも詳しい。
今や、世の趨勢はシナリオ改変禁止(*52)と聞いたぞ」
難解「それは意味が違うな。
あれは、クトゥルフ神話TRPGで通過シナリオ体験を共有するためだ(*53)。『シャドウラン』でやることじゃない! ネオ・アナーキスト(*54)なら、大勢におもねるのはクールじゃない!」
暗黒「なるほど、ロブ・ボイル(*55)ならそう言うな」
少々「では、難解さんとの関係を」
暗黒「難解氏とは、盟友。ともに、ハーレクイン・キャンペーン(*56)をくぐり抜けた仲。第六世界の影(*57)こそ我らの舞台」
少々「では、難解さんに質問をひとつ」
暗黒「実は、我も既婚者でな」
洞窟「何ーーー、お前まで! おい、どんな嫁だ」
暗黒「仕事関係で知り合った年上の女性だ。相手はゲーマーどころか、オタクですらない。我が結婚生活は暗黒である」(*58)
難解「尻にしかれている訳か」
暗黒「我がマゾヒズムの美学(*59)がそれを許容する。それはさておき、難解氏には、我が秘蔵の美少女コミックを多数預けているのだが、どうやって、それを隠していられるのか?」
難解「隠してないぞ」(*60)
暗黒「おお!」
ひろこ「ノーコメント!」
暗黒「ああ、そう言えば、『玉座の闇』(*61)をマスターしてくださった時に、きっぱりと『夫婦の間に秘密はない!』(*62)と言われたのは真実であったか!」
難解「いや、あれはネタだ。ゲーム上、夫婦はハンドアウトの内容を共有するので、あのゲーム内では、そうなるというだけだ」(*63)
暗黒「やはり、結婚は暗黒であるよ」
トリは色々さん!
色々「えー、『クトゥルフ神話TRPG』のKPを担当します色々です。なんだかんだで、30年近く、難解さんとゲームをしてますねえ」
少々「難解さんへの質問をお願いします」
色々「えーっと、俺は独身です。ええ、独身ですよ!
なんで俺は結婚できないんでしょうかね?」
難解「俺に聞くな」
少々「という訳で、ゲームを開始しますね。
ちなみに、色々さんの卓は全員女性プレイヤーです」
色々「おーいいいい」
難解「では、お前には、このシナリオをやろう」
少々「『銀の三角、青い泡』(*64)?」
https://booth.pm/ja/items/4685728
色々「ソロ・ジャーナリング(*65)は今、流行ってますからね。
シナリオ内容は・・・・3年前に別れた彼女と水族館に行く?
難解さん、俺を殺す気ですか(涙)」(*66)
とっぴんぱらりのぷぅ。
解説っぽい何か
*1:クトゥルフ神話TRPGを遊びたい娘・梶理のために、少々が主催しているTRPGコンベンション。
*2:3/17には、友野詳先生の還暦を祝うコンベンションが神奈川で開催されました。おめでとうございます。WELCOME TO 60代!
*3:還暦の祝いには赤いちゃんちゃんこを着せるというのが習わしであるが、今、60代のマニアにとっては、永井豪先生の短編漫画が頭をよぎっていかんのじゃ。
*4:仮面ライダーV3の宮内洋はかっこよかった。
*5:「宇宙戦艦ヤマト」のエンディング・テーマ。朱鷺田は直撃である。
*6:「宇宙戦艦ヤマト」は小学生の頃に直撃した。
*7:「スターウォーズ」は中学2年生だった。映画館で20回見た。
*8:「機動戦士ガンダム」は高校2年生だった。
*9:「機動戦士ガンダム」のジオン軍のNo.2。ザビ家の次男でごついモンスター顔の巨漢だが、奥方は優しげな美人で、愛妻家。木星に逃がした娘ミネバ・ザビが帰ってくるのは「ガンダムUC」。
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