『ざつ』 お気楽TRPG日記12。『麒麟がくる』とか、『比叡山炎上』とか、クトゥルフ神話や邪神忌やら。
概要:還暦間際のTRPGデザイナー、朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)が適当なことを『ざつ』に書くエッセイ。だいたい、TRPG関連の思い出とか雑談とか、シナリオ作成やGMの裏話。今回は2/7に完結した大河ドラマ『麒麟がくる』から、「クトゥルフ神話TRPG 比叡山炎上」の話。クトゥルフ神話の話やらイベントの話やら。・・・少し加筆修正。
『麒麟がくる』完結!
2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』が終わった。キャスト変更、コロナによる撮影の遅れなどを乗り越え、素晴らしい作品だった。ここ何年か、ずっと大河ドラマを追いかけてきたが、その中でもベストに近い作品だ。
私は『クトゥルフ神話TRPG 比叡山炎上』を書いたこともあり、今年の大河にはかなり注目していたが、予想を越えた野心作だった。
そもそも、主人公が明智光秀。彼の謀反への道のりをいかにして形にするのか? その難関を、光秀と信長の人間関係に踏み込むことで描ききった。
長谷川博己、染谷将太、という稀代の俳優を光秀、信長に当てたのも素晴らしいキャスティングだった。『シン・ゴジラ』の印象が強いハセヒロが、感情を揺さぶられる出会いを繰り返し、たどり着いた希望が信長であった。
丸みを帯びた染谷の顔つきは、同じくNHKで演じているブッダの印象から、どんどん壊れていき、実にサイコパスな信長になった。それでも、二人の間にあったのは、愛に似た感情だったのかもしれない。それゆえに、最終回、本能寺の「ぜひもなし」には、歓喜の要素が加わっていた。燃え上がる本能寺を見る光秀も、万感の思いで二人の関係を回想する。
私のTLには、その関係を「ガンダムSEED」のEDテーマ「あんなに一緒だったのに」に例える人がいた。
あんなに一緒だったのに
夕暮れはもう違う色
それはまさにふさわしい物語だったのかもしれない。
比叡山は燃えているか!
『麒麟がくる』の注目点は、通常の戦国大河なら、戦争に注目するべきところで、あくまでも光秀視点を中心にしたことで、歴史上、光秀が参加していない信長の戦をばっさりと割愛し、光秀が出会った事件をフィーチャーしたことである。前半は、不明点の多い光秀の架空性を生かし、斎藤道三とのドラマを演出、中盤は、光秀が担当していた畿内の政治、つまり、足利幕府と朝廷の人々を描き出した。その結果、一般的な信長伝では深く言及されない足利義輝、義昭という二人の将軍に加え、正親町帝や三条西実澄、近衛前久などの朝廷関係者までしっかりと描かれ、強い印象を残した。帝のキャスティングは困難を極めただろうが、歌舞伎界の大御所、坂東玉三郎を配したことで、神の領域を生きる帝の尊さ、当時の武将が感じただろう朝廷との関係性を描き出すことが出来た。こんな尊さを演じられる方がいるというのはさすが梨園である。
特に、記して置きたいのは、比叡山焼き討ちの描写である。
信長包囲網での流れであるが、『麒麟がくる』では、正親町帝と異母弟である延暦寺座主覚恕の関係性を加え、覚恕の俗世感、醜さをあえて見せ、視聴者の多くに、「焼き討ちも当然」と思わせた。帝の尊さに対比した覚恕の卑俗さがあって始めて出来るものだ。
脚本家の池端俊策氏は、視聴者の感情を揺さぶるような人間関係を組むのが美味い。
比叡山炎上
さて、せっかくなので、『クトゥルフ神話TRPG 比叡山炎上』(2006)の話をしておこう。
この作品は、『クトゥルフ神話ガイドブック』(2004/7/1)の後、『クトゥルフ神話TRPG』(2004/9)、『クトゥルフ・ダークエイジ』(2005)が出たことで企画された本である。『ダークエイジ』の舞台が10世紀の中世ヨーロッパと実にマニアックな時代設定であった。中世暗黒時代とはよく言うけれど、それがどんな時代だったか、なんて、日本人ユーザーには、難易度が高いだろう。だったら、誰でも知っている日本の戦国時代でやりましょう。信長の時代なら、みんな分かりますよね、という企画でした。
「信長の正気度は0でしょ?」
企画書には、そんなことを書いた。
企画が通り、比叡山取材にいった。安土から入って、3日かけて比叡山をほぼ全山踏破した。当時、京都で深淵CONを開いてくれていた在胡さんが、車を出してくれたので、なんとか主要な場所は回れた。ありがとうございました。掲載の写真はほとんど私自身で取ったものだ。
予想以上に、面白いネタが詰まった場所で、もしも、機会があれば、『比叡山炎上』を片手に見て回っていただければ、ありがたい。根本中堂の横にある三面六臂大黒天を見るだけでも面白いし、修行場まで下れば、シナリオに用いた天狗風や唱題行を体験できるはずだ。
戦国時代には、以前から思い入れがあり、隆慶一郎先生の『一夢庵風流記』(原哲夫さんの『花の慶次』の原作)が好きだったこともあり、傾奇者の武将や忍者を再現しつつ、戦国時代の日本におけるクトゥルフ神話を再現したものとした。
刊行された2006年には、大河ドラマで、信長の配下、山内一豊とその妻を描く『功名が辻』(2006年)が放映され、なんと舘ひろしが信長を演じていた。あのハードボイルドな感じのまま、赤を貴重とした武闘派の信長だった。最終回近く、大地真央演じるお市の方とともに、安土城の天守から空を見上げる場面は、実に狂気めいていて、ぞくりとしたものである。
歴代大河での信長に関しては、『麒麟がくる』の前説的にまとめられた記事がある。染谷将太の狂気もいいし、『おんな城主直虎』で出てくる市川海老蔵の信長は、登場回こそ少ないが、『戦国無双』のお館様を具現化したような怪物感が素晴らしい。徳川家康饗応の回の解釈が、『麒麟がくる』とは真逆なのも興味深い。
『比叡山炎上』に話を戻そう。
『ダークエイジ』と同じく、単体で遊べるように企画されたことで、他の『クトゥルフ神話TRPG』のサプリメントとは色々違う立場になった。戦国時代が舞台なので、全員が武装して怪物と戦うし、この時代にふさわしい戦闘民族ぶり、すさんだ時代なので、死体ぐらいでは正気度ロール不要など、行き過ぎた部分もあるが、クトゥルフ神話で派手なバトルがやりたくなったら、使っていただければありがたい。
『新クトゥルフ神話TRPG』が翻訳され、システムは更新されているが、『比叡山炎上』は、現在でも、地味に増刷を繰り返しているので、安心してほしい。能力値回りを5倍すれば、ほぼそのまま移行出来る。
そう言えば、『刀剣乱舞』が始まった年、「それ、クトゥルフでも出来ますよ、『比叡山炎上』」とツイートしたら、なぜか翌月には増刷されたので、そういうこともあるなあ、と。
もうすぐ邪神忌
『比叡山炎上』が2006年であるが、この企画が通った背景には、2004年に『クトゥルフ神話ガイドブック』が出せたことがある。これについては、以前にも書いたが、偶然、編集部に遊びにいったら、「クトゥルフ神話って分かる?」と、当時の宮野編集長に言われたのがきっかけである。必死で、ラヴクラフトから復習して1からやり直して書いたが、あれがなかったら、ここまでクトゥルフ神話に入れ込むこともなかっただろう。
その後、クトゥルフ神話の解説記事などを色々やらせてもらったし、いつの間にか、森瀬繚さんと二人で、ラヴクラフトの誕生日(8/20)に、ラヴクラフト聖誕祭、命日(3/15)に、邪神忌というイベントを、阿佐ヶ谷ロフトAにて開催させてもらうようになった。邪神忌の1回目は2013年なので、いやはや9回目である。今回は、平日月曜日なので時間帯は夜、『ゴブリンスレイヤー』の蝸牛くも氏をゲストとしてお迎えし、「クトゥルー神話とヒロイック・ファンタジー」のテーマでお送りいたしします。
あ、今回は『ざつ』を使っていない。