令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド7:未通過KPは罪ですか?
解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。
今回は、新しいシナリオ、新しいシステムにどう取り組むか? という話の裏側に潜むTRPG業界の課題に挑む。
文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ
ようこそ、私の研究室へ。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローの誇り』は、TRPG原作の映画であることを横においても、2023年を代表する娯楽映画の1作に数えてもいいだろう。アメリカの高評価に対して、日本では、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)の知名度が過度に低く評価され、配給の支援がほとんどない(パンフすら制作されなかった!)という残念な展開になってしまっているが、SNSを中心に、評価され、これをきっかけに、D&Dを遊んでみようという声も上がっている。ここが入り口になって新たなユーザーが増えてくれるのであれば、ありがたいことである。
さて、こうした新規参入者に対して、何を勧め、どう対応するかは、常に悩ましい問題であり、そこにあるべき導線がうまく描かれているかと言えば、まだ十分とはいえない。
令和5年4月
【主な登場人物】
難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)
未通過KPは罪ですか?
今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
会場の隅っこで、もはや髪の毛が白い難解好夫(なんかい・すきお。59歳、)と妻のひろこ、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ、今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。
少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
難解「『一つの指輪』(*4)」
少々「ホビットと指輪物語の間の時代でしたっけ?」
難解「ホビットのあのシーンに出てくるあいつら(*5)で冒険できるんだぜ?」
ひろこ「主人公の家から荷物を持っていってしまうおばさんとか」
ああ、いたいた。
少々「色々さんは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(*6)をお願いします」
色々「ええっと、『ダンジョンズ&ドラゴンズ スターターセット:竜たちの島ストームレック』(*7)でいいんだね?」
少々「映画の『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローの誇り』(*8)が面白かったので、原作を遊んでみたい、という初心者が来るのですよ」
色々「あれは傑作! ああ、分かる、分かる」(*9)
梶理「ドリックちゃん(*10)、可愛い!」
ひろこ「ここは、サイモン(*11)でしょう!」
難解「主人公がローグ系バード(*12)というのも捨てがたいな」
色々「予告編だけだとあそこまで面白いとは思いませんでしたよ」
難解「あの代理店には一言・・・・」(*13)
取り押さえる色々さん。
色々「それでストームレックを買ったと」
少々「ええ、あれを買ったけれども、自分で回せないので、体験したいという希望があって」
難解「おいおい、あのレベルで回せないのか?」
色々「今の若い人は、未通過(*14)で回すのにためらいがあるのですよ。
実は、梶理もその件で相談があるそうで」
難解「未通過?」
梶理「BOOTHで面白そうなシナリオを見つけたので、読んで遊ぼうと思ったら、友達から『自害(*15)しちゃダメ、未通過KPに人権はないよ(*16)』って言われちゃって」
難解「自害とは穏やかじゃないな?」
梶理「私もびっくりしちゃった。シナリオを未通過なのに、読むことをこう言うそうです。でも人権ないのはいやだな」
難解「そういう連中がアホなだけや。
未通過KPに人権なかったら、わしなんかずーっと○○○だな(*17)
自作シナリオを回したら、未通過で始めるのが当たり前や」
開拓者がこの世界を開いた。
とはいえ、ネットの友達から言われたセリフが結構、ショックだった梶理ちゃん。
難解「まず、シナリオ未通過って言うけれどな、そもそも、誰かが未通過で回さない限り、それは遊べないやろ? それを『自害』とかヤバげなセリフであおり立てるのは、KPを減らすだけだぞ?(*18)
だいたい、そいつはどうしろって言うんだ?」
梶理「動画が上がるのを待つか、作者に回してもらいなさいと」
難解「え? 作者が動画配信しないとダメなの?(*19) それとも一子相伝原理主義者(*20)?」
どうも、また、会話が成立してないので、色々さんが割り込む。
色々「さっきのD&Dの件もそうだけれども、今、オンラインで遊んでいると、一般のKPも評価にさらされるから、自分の評価、気になるよね」(*21)
梶理「未通過KPは地雷(*22)だって言う人も多くて」
難解「そうなの?」
色々「どんなに言われても、わが道を行く、難解さんみたいな人は昭和の遺物(*23)なんですよ?」
難解「2chでアンチスレ(*24)が何回立てられたことか」
色々「オンラインでの評価が下がると、人集めにも影響しますからねえ」
難解「梶理ちゃんが、友人の言葉を気にするのは分かった。
だがねえ、TRPGというのは、開拓者のゲームなんだよね」(*25)
梶理「開拓者?」
難解「たいていのTRPGには、こんなことが書いてある。
『ここから先はあなたとプレイ仲間が自由に作っていくのです』。
結局、切り開いた世界で遊んでいくしかないんだ。
誰も彼も未通過KPをいやがったら、新シナリオはずっと遊ばれない。
わしは、そういう意味で、新シナリオをGMで遊ぶのが好きやね」
失敗できるのがゲームの良さではあるが……
難解「TRPGで失敗するのもいい体験だと思うんだけどな」
色々「今の若い人には、そんな余裕はありませんよ」
難解「寒い時代だとは思わないかね?」
それはさておき……
難解「まあ、解決方法は三つある(*26)」
梶理「三つも!?」
色々「難解さんはたいてい、こういうからね」
難解「結局、問題解決の方法は、常に三つあるんだよ。
肯定、否定、問題点の超越。あるいは天地人。(*27)
それをやるかどうかは、さておき」
梶理「???」
ひろこ「この人の言うことを鵜呑みにしないで、まあ、話半分に聞きなさい。そうしないと、後で後悔するわよ」
梶理「後悔しているんですか?」
ひろこ「……」
難解「そこは否定しろよ!」(*28)
何かが通り過ぎた。
難解「まあ、解決方法は簡単だ。
まず、未通過でKPをするのが心配なら、そのシナリオを誰かに渡してKPしてもらえばいい。これで未通過KPではなくなる。自害発言をした友達に投げつけてやりたいところだが、まあ、色々に渡せばいいだろう。
それでここで回してもらう。このコンベンションのメンバーなら、未通過KPがどうのとか言わないからな(*29)」
色々「それが一番、穏当な解決策ですね。
未通過KPが地雷と言うのは、だいたい、よく知らないKPのセッションに参加して、ひどい目にあった人たちの意見だ(*30)と思います。オンラインだとKPの技量や人格の識別方法が評判、セッション募集要項、SNSでの発言になりますが、その際に、「シナリオ未通過ですが、KPします」の場合、KPの不慣れな部分が出やすい。過敏になっている人たち(*31)を刺激しない方がいいでしょう」
難解「だいたいみんな、クォリティを気にし過ぎなんや」
色々「娯楽ですから」
難解「解決策その2。未通過KPに人権がないとか言うバカとは付き合うな」
梶理「えーーー」
難解「TRPGはすごくプライベートな娯楽だ(*32)。だから、お前の好き、嫌いを理解してくれる仲間を作ってそこで遊べ」
梶理「でも、その友達とはよくセッションするし」
難解「じゃあ、もう一歩、踏み込めばいい。
その友達に『このシナリオ、未通過だけど、とっても面白そうだから、未通過KPでも遊んでくれる?』と言ってみな。それでも、『人権がない』とか繰り返すヤツはいつか、喧嘩するよ(*33)。『じゃあ、遊ぼう』というなら、そういう仲間を集めて遊べばいい。ここで回すのと同じ環境をオンラインでも作れるはずだ。専用のDiscordサーバー(*34)なんかに集まって情報交換しているところに参加するのもアリだ」
梶理「○○ちゃんと話してみます!」
言わないこともあるさ
梶理ちゃんが自分の卓へ戻っていった後、少々が聞く。
少々「もうひとつの解決は?」
難解「気にせず、読んじまえ」
少々「解決なんですか? それ?」
難解「読む前に友達の意見を聞くから、ブレーキがかかる。さっさとやっちゃえばいいんや。ジョジョのセリフにもあるやろ?(*35)」
少々「ヤバい、この人ヤバいよ」
難解「ひゃっはー」(*36)
色々「まあ、過去形だったら、友達の反応も変わったでしょうねえ(*37)
未通過KPに人権はない、なんて言わなかったかもしれませんよ」
ひろこ「過去形。過去形」
難解「あー、ちょっと、わし、GMの準備するわ」
とっぴんぱらりのぷぅ。
解説っぽい何か
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