令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド0:邪神神話の再興と技術の再発見
解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。もはや役目は終わったと思っていたが、ネタを思いついたので書いておく。ライトサイド0の続き。なぜ、クトゥルフ神話TRPGがブレイクしたかの考察。前回はライトサイド(光の世界線)であったが、今回はダークサイド(闇の世界線)である。なぜならば、そこに日本社会の闇が見えるからだ。
根源的な疑問:なぜ、CoCだったのか?
ようこそ、私の研究室へ。
さて、我々は前回、クトゥルフ神話TRPG(以下CoC)のブレイクに関して語った。では、その続きである今回は、「CoCがブレイクし、日本のTRPG業界の頂点を極めるに至ったか?」を考察しなくてはならない。2021年、日本のTRPG業界ではプレイ人数、販売数ともに、CoCが頂点を極め、元祖D&D、和製TRPGの原点ソードワールドRPGを抜いている。それはなぜなのか?
この考察のキーワードは天地人である。
まず、天。大きな意味での時節がCoCを選ばせた。
これは日本の貧困と技術革新に由来する。日本経済の低迷と相対的な貧困、それでありながら、必ず、子供がデジタル機器(スマホやタブレット)を所有させられている(教育現場にタブレットが導入され、学校からの連絡がメールやLINEで届く)という電子ディストピアな日本の現状(そこでサイバーパンクになりきらないのがまた日本的)が、漫画を買うのではなく、無料の動画配信を見るというカルチャーを加速させ、動画環境で評価されたCoCが、既存のユーザーを越えた莫大な数の若年層に訴求した。動画からの参入者の中には、「TRPG=CoC」という認識も多いほどだ。そこには、2007年のラヴクラフト没後70年経過により、ラヴクラフト作品が公有に帰したことに起因する第4次クトゥルフ神話ブームが起こったことも、影響している。今や、クトゥルフ神話はサブカルチャーの基礎教養のひとつになっている。CoCを遊ぶ基礎教養が世間に浸透しつつあるのである。
地は、基盤である。CoCがブレイクする準備が出来ていたのだ。
CoCは、1981年の作品だが、1986年のホビージャパン社の翻訳「クトゥルフの呼び声」から日本に伝わり、今年で日本上陸35周年を迎える。昭和末期からホラーTRPGの定番として、多くのゲーマーに愛され、多くのクリエーターがこれで遊び、感化され、しばしば、自らクトゥルフ神話の作り手になった。その代表が虚淵玄であり、鋼屋ジンであり、芝村裕吏、あるいは、海法紀光である。ホビージャパン版は90年代なかばに途絶えたが、2004年、エンターブレイン(現KADOKAWA)より「クトゥルフ神話TRPG」として第6版が翻訳され、以降、アクティブなサポートにより、着実に固定ファンを増やしていた。ゼロ年代のクトゥルフ神話ルネッサンスと重なり、ブレイクするにふさわしい下地が出来上がっていた。そして、肥大化し、多数のサプリ購入を求めるD&Dや国産TRPGに比べて「%ロール」の一言に集約できるCoCは、手軽に出来るTRPGとして、OSR(オールド・スクール・ルネッサンス)の受け皿となったのである。
人はそのまま人である。起爆する人間がそこにいたのだ。
もともとTRPGは接触感染の要素が強く、しばしば「布教」と呼ばれるほど熱心なGMが活動していたことで、地域のゲーム・コミュニティで特定のゲームがよく遊ばれる現象が発生する。おかげで、「柏のバトルテックおじさん」のような地域ごとの特定ゲーム布教者がいた。これが21世紀の技術革新で個人が動画配信できるようになり、ウェブ・カルチャーへと進化した。時代が動画配信者を生み、TRPG紹介動画の中で生まれたCoC動画が面白い!と話題になり、これらの動画の積み重ねがTRPGへの新たな導線になった。1本の動画がCoCをブレイクさせたは盛り過ぎな表現だが、傑作動画がトリガーになったとも言える。実際、新作TRPGが売れるかどうかは有志による動画の存在が影響している。拙作「比叡山炎上」でも有志サークルが面白い紹介動画を作ってくれたら、増刷になったという感触がある。これが「個人の活動が経済へと拡大していく」という現象で、こうしたムーブメントを引き起こす人物をインフルエンサーと呼ぶ。また、動画の視聴者が増加し、小学生が「なりたい職業ベスト5」に毎年、動画配信者を上げるほどになった、という現実もある。ここでも、潜在ユーザー層が拡大したこともブレイクにつながっている。
闇のコンベンション学級会!
さて、無事に(?)邪神系コンベンションも閉幕。
緊急事態宣言も解除された(*29)が、4名以上は避けてとあるので、KPを頼まれた(なんかい・すきお、59歳)と色々知照(いろいろ・しってる。52歳)は、二人でゼリアでイタリア飲み(*30)。そこに主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)が挨拶にやってくる(*31)
少々「本日はありがとうございました。なんとか無事に終わりました」
難解「おつかれ、主催者こそ大変だっただろうに」
少々は、入り口で受付、検温、消毒、マスク着用、個人情報の確認(*32)への協力を求めたり、換気に気を使ったり、調子の悪い人を介護したり(*33)、東奔西走の大忙しであった。
難解「色々大変やなあ。全員マスクのコンベンションとか、3年前だったら、パラノイア(*34)じゃないかと思うぜ」
少々「まあ、今回はマシですよ。知り合いのゲームカフェは全卓、パーテーション付きですよ(*35)」
色々「そういや、別室へ案内されていた奴がいたねえ」
少々「検温に引っかかりまして(*36)」
難解「可愛そうだが、ヤバい奴がどこかに連れて行かれるところまで、パラノイアだ」
色々「しかし、結構参加者いましたね」
少々「これでも抽選しました。倍率は5倍です」(*37)
色々「久しぶりの邪神系コンベンションですし、ゲストKPにVtuber(*38)がいましたからねえ」
少々「KPはVR参加で、全員VRゴーグルをかけて、壁際に向かってVRChat(*39)での参加でしたからねえ。なかなか壮観でした」
色々「あれはあれでディストピアな感じでしたが」
難解「VRChatでのオンセはいいぞ。ただ、あの子のVRゴーグルの選択はイマイチだな。重要なのは寝心地だぞ(*40)」
本当に大丈夫だったのか?
少々「それで、今日のセッションはいかがでした」
色々「はあ」
少々「お疲れ様です」
難解「なんや、お前のところ、若い女子ばかりでハーレム(*41)やったやないか!」
色々「うちの卓はエモシ対策班(*42)でしたよ。久しぶりにやるとシンドいなあ(*43)」
難解「エモシ?」
色々「エモい(*44)シナリオの略称で、今、ニーズが高いんですよ。エモいうちよそ(*45)が出来る感じのシナリオですね」
難解「CoCはホラーだぞ!(*46) エモいを要求するな!」
少々「そういう難解さんのAchtung Cthulhu!卓はいかがでした?(*47) うちの娘がずいぶん、楽しかったようで」
難解「梶理ちゃんはええ子や。うちの卓に来た問題児どもが接待プレイ(*48)に走っておった。「86-エイティシックス-」(*49)のフレデリカは必要じゃったんだな!」
少々「問題児隔離卓(*50)だったはずが……」
難解「確かに、絶対ルールブック買わないマン(*51)がおったがな、Achtung Cthulhu見せたら、『カッコいい! 欲しい! どこで買えますか?』(*52)と言いおった。Amazonで買えるんだがな(*53)」
色々「Free LeagueのMÖRK BORG(*54)すら買えるもんな。GAFAおそるべし!」
難解「今度から、GAMA(*55)だ。ややこしい」
少々「ミリヲタ(*56)や歴史マニア(*57)は?」
難解「あの程度の連中に、オレが負けると思ったのか? はあ?(*58)
まあ、ナチスと神秘主義の関係なら、一晩は語れるし(*59)、ネタを振るだけでリアルSANチェックしとったわ(*60)」
少々「それを相手にしつつ、娘には難しくないセッションに!」
難解「いや、オレが何か言うと、あいつらが勝手に解説していたわ(*61)
そういう意味で、それをナチュラルに楽しめる梶理ちゃんがすげえよ。オタサーの姫どころか、地下アイドルにだってなれるぜ(*62)」
少々「うちの娘を暗黒面(*63)に引き込まないでください」
難解「アイ・アム・ユア・ファーザー(*64)」
少々「うちの娘です!」
CoCはオサレだった。ブレイクの原因は?
マグナム・ボトルをお代わりし、難解さんと色々さん、少々さんの会話は続く。燃料が入って、ヤバい話題に。
色々:しかし、クトゥルフ神話TRPGもずいぶん、人気が出ましたね。僕たちが遊んでいた頃は、そんなにメジャーな感じはなかったですからね。クトゥルフがブレイクする前は、TRPGと言えば、ソードワールド(*65)に、アルシャード(*66)、アリアンロッド(*67)にダブルクロス(*68)、カオスフレア(*69)でしたよねえ」
難解「D&D(*70)を忘れるなよ」
色々「すいません、すいません。しかし、なんで、ああいうヒット作を押しのけて、クトゥルフがブレイクしたんでしょうね?」
難解「他はオサレ(*71)じゃなかったんだよ」
少々「(びくっとなり、周囲を見回す)難解さん、その発言やばい! 炎上するよ!」(*72)
難解「あ、そうか。正確に言おう。それはOSR(*73)じゃなかったんだ」
色々「それ、なんですか?」
難解「オールド・スクール・ルネッサンス。ルールブックがやまほど増えて、バカでかくなったシステム(*74)に反発して、初期D&Dみたいな軽いゲームを作ろうという運動だな。
ほら赤箱なんて薄っぺらな小冊子が2冊入っていただけ(*75)だ。あのぐらいでええんや。20-30ページぐらいの、D20だけ使ったレトロなD&Dクローンがたくさん出来た。まあ、Blueholme(*76)とかが有名なんだが、個人的にはどこがいいのかわからん。結局、コンセプトが弱いんだな。わしとしては、OSRの成功例というと、こいつを押すな。フリーリーグのMörk Borg(*77) ドゥーム・メタル・ファンタジーだ」
色々「毒々しい! で、全然話がわかんないんですけれど!」
難解「なあ、カオスフレアのキャラ作るのに、何ページ参照する?」
色々「まあ、全部のミームのページを見比べて・・・」
難解「まず、やりたいキャラのイメージにあうように、複数のミームを比較して自分のミームを選ぶ。意外にハードル高いぞ。そもそも、動画でそのページを写す訳にはいかない」
色々「でも、初回はクイックスタート(*78)でいけますよ」
難解「お前、それで我慢できるか?」
色々「え? まあ、作りたいですね」
難解「そこや。TRPGにハマるような奴はキャラ、作りたい(*79)。でも、動画を見る素人は、いきなり、ルール買わん。だが、クトゥルフやったら、能力値のダイスを振って技能に割り振るだけだ。キャラシートみたら、全部分かる。技能も能力値もまあ、だいたい想像つく」
少々「確かに、キャラシート完成したら、ほとんどルールブック読む必要ないなあ」
難解「動画見てれば、ルールブックを読まなくても、%ロールは覚えるし、戦闘も正気度ロールも出来るようになる。この前なんざ、ルールブックが何か知らない奴までいた」(*80)
色々「それでもやりたいんだ」
難解「ああ、面白いからな」
色々「でも、クトゥルフなんですよね? ホラーだからですかね?」
難解「ちゃう。最初は、アイマス(*81)だったからだ。推しがホラーを遊ぶ。Pとして1シーズンに1回はやるネタだな(*82)。小学校低学年の男子の遊戯王(*83)と一緒や。とりあえず、『オレのターン、ドロー。ブルーアイズドラゴンを召喚!』って言いたいんだ。
まあ、今は、CoCそのものがやりたい中心になっただけマシやがな」
そこで、難解のスマホが振動する。
難解はそれを覗き込む。
色々「ひろみさんからですか?」
難解「ああ、牛乳とバターを買ってこいと」
少々「あ、ちゃんと家庭生活している。安心した(*84)」
難解「ところで、明日休日やな。色々、少々、今夜帰らなくていいな?」
色々「いや、何を・・・」
難解「あいつ、刀剣乱舞のミュージカル見て盛り上がっておってな。今夜は比叡山を燃やすぞ!(*85) だそうだ」
とっぴんぱらりのぷう。(*86)
【今回の脚注】
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