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令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド13:あのゲームは怖い?

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ


ようこそ、私の研究室へ。

 TRPGは非常にパーソナルな娯楽である。
 ユーザーはルールブックを買い、それで学んで自らゲームマスターしたり、キャラクターを制作したりして遊ぶ。ゲームマスターとプレイヤーのコラボレーション次第でとてつもなく面白くなることも、非常に後味の悪いものになることもあり、ゆえに、一期一会の「セッション」であることが語られてきた。それはある種、半完成品を売りつけ、完成度はユーザーに委ねる、模型めいた商売とも言えるが、マーカーも丸投げをよしとしている訳ではなく、そのゲームの面白さができるかぎり、伝わるように、サポートしていくことでもあったが、その過程で、ゲーマーとしてのマナーを語ることさえも求められてきた。
 しかし、昨今のファンは、サポート体制の範囲にすらおさまらず、その結果、SNSで声の大きい「自称ベテラン」や「人気配信者(?)」が謎のマナーを語ることもあり、そこに、歪んだ価値観や嗜好が混ざり込むこともしばしばあることだ。本稿もまた、「粋なゲーマー」を自称するが、どちらかと言えば、古手のゲーマーからの的はずれな意見や口伝化したノウハウを開陳するものである。それを受け入れるかどうかは、結局、各ゲーマーのゲーム環境や対人関係にある。

令和6年10月

【主な登場人物】

難解好夫(なんかい・すきお。60歳、フリーランス、TRPG歴42年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

TRPGとコンプライアンス

 今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
 会場の隅っこで、古参メンバーの難解好夫(なんかい・すきお。61歳)の妻のひろこと、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。

少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
色々「今日は初心者(*4)が多いんですよね? 予定通り、『新クトゥルフ神話TRPG』(*5)の入門シナリオを用意しています」
少々「ええ、そうなんですよ。もう大変で。色々さんには、いつもご配慮いただき、ありがとうございます。えっと、難解さんは?」
難解「ダンジョンズ&ドラゴンズのスタートボックス」(*6)
少々「すいません、今回は、異常に初心者さんが多いので、難解さんにまで対応をお願いしてしましたが、さすがのセレクションですね」
難解「本当は、『ザ・ループTRPG』(*7)のスターターボックスでもやろうかと思ったんだが、キャラ設定を訳していて人間関係を説明するのが面倒になった(*8)」
色々「女性キャラが薄幸そうなシナリオですね」(*9)
少々「それはさておき、難解さんがD&DのDM(*10)をしてくれるのは久しぶりですね」
難解「日本語でサンプルキャラ付きのスタートセットがあるという条件なら、『シャドウラン』(*11)や『エクリプス・フェイズ』(*12)とか色々あるんだが、世界観説明が面倒で」
色々「あの説明好きの難解さんが!」
難解「この前、古い友人から頼まれて、久しぶりに『パラダイス・フリートRPG』(*13)をやったんだが・・・」

パラダイス・フリートRPG

梶理「超カッコいい。この3人は?」
難解「銀河を三分する勢力の代表者だ。ベスティンスタイン公国の公女殿下、金華帝国の女帝陛下、企業国家しきがみおえどの社長」
梶理「社長?」
難解「しきがみおえどは、サイバーパンク(*14)っぽい世界設定で、宇宙戦艦がTVショッピングみたいなノリで、押し売りに行くんだ」
梶理「サイバーパンクって・・・?」
難解「例えば、絶対いらなそうな品物、反重力ぶらさがり健康機(*15)とか、単分子高枝鋏(高枝つき)(*16)とかを売りつけるんだ」
梶理「超カッコいい! どんなシステムなんですか?」
難解「大貧民」(*17)
梶理「???」
難解「最近は、大富豪という言い方の方が一般的か」
色々「トランプだけで判定できるTRPGは、これと『トーキョーN◎VA』(*18)」
梶理「それでどうなったんですか?」
難解「これはバブル期の日本企業のネタがたくさん入っていて、クライアントを接待してとにかく売りつけるとか、過労死は名誉だとか・・・」
少々「うわ、今だとコンプライアンス(*19)にひっかかりそうな」
難解「セッションはサンプルキャラと掲載シナリオで簡単に終わったし、それなりに盛り上がった(*20)んだが、いちいち、当時の日本を振り返ってギャグを説明するという苦行(*21)をする羽目になってな」
少々「辛い、それは辛い」
難解「その上、今の仕事のクライアント担当が若くて、やっぱりいちいち説明が必要で」(*22)
少々「辛い、それは辛い」
難解「挙げ句の果てに、出向先の若いプログラマーが『プログラムって、AIで書くものじゃないんですか?』(*23)とか言い出しやがって」
少々「辛い、それは辛い」
難解「説明が一番少なくて済むのを選んだら、D&Dだった」
色々「ドリッズトの大百科(*24)も出ましたからねえ」
難解「く、やっぱり宣伝か!」

ダンジョンズ&ドラゴンズ: ドリッズトの伝説 ヴィジュアル大百科

そのゲーム、怖くない?

 …という訳で、難解さんがD&DのDMをすることになったのですが、そこで梶理ちゃんから、爆弾発言が。

梶理「でも、D&Dって怖いんでしょ?」
難解「はあ? 怖くねえよ」
梶理「・・・」

 思わず、どなりそうになった難解さん。
 びびる梶理ちゃん。
 難解さんの妻、ひろこが割って入る。

ひろこ「女の子を泣かすな!」
難解「いや、そんなつもりは」
ひろこ「あなたの顔が怖いのよ」
難解「う」
色々「まあ、ここは私が間に立ちましょう。
 梶理ちゃんは、どうして、D&Dが怖いって思ったの?」
梶理「怖いベテランさんがたくさんいるって聞きました」
色々「まあ、確かに、難解さんみたいな、D&D30年とか言う人がたくさんいるのは嘘じゃないが、最近は、優しいDMが多いし、先輩風を吹かすのはきらわれるよね」
梶理「本当ですか?」
色々「一部のバカや老害はまあ、どこにでもいる(*25)が、たいていのベテランは初心者が来てくれるのを喜ぶよ(*26)」
梶理「でも、塗装済みのフィギュア(*27)がないと暴れるとか」
色々「いや、それは初心者に要求しないでしょ」

難解「フィギュアは塗ってなんぼだ!」(*28)
ひろこ「め!」

梶理「フィートで距離を測れないと怒られるとか」
色々「最新版では、ついにメートル法になりました!」(*29)
梶理「凄い立体マップを持ってないと、マスターできないとか」
色々「ジオラマ用のアレかな?」
難解「テレイン(*30)だな。無くても大丈夫だ。あれば盛り上がるが、今回はセットのマップだけしか使わん」(*31)
梶理「でも、あれば盛り上がるんでしょ?」
難解「あれば、盛り上がると、持っていないとマスターする資格もない、は違う。趣味だからな。自分のできる範囲でやればいい。
 商売でやっているメーカー担当じゃないんだからさ(*32)」
梶理「思ったより、怖くないですね」
難解「怖くない、怖くない」
梶理「でも・・・」
色々「今、言ったことの大半は、もう都市伝説だよ。
 他にも、怖い話はある?」
梶理「ダイス振るたびに蛸の数字が襲ってくるとか」
少々「蛸?」
梶理「蛸!」
難解「THAC0、To HIt AC0(*33)の計算なんぞ、今はせんわ!」
色々「それは3版で滅びた概念ですね(*34)」
梶理「怖くない?」
難解「怖くない」
ひろこ「その顔が怖いだって!」

実はわしも怖いゲームがある。

 なんとか、梶理ちゃんのD&D怖い疑惑を晴らせそうなところで、今度は難解さんが問題発言を。

難解「実はわしも怖いゲームがある」
梶理「え、難解さんも!」
難解「うん、あまりに怖いので、正式名称を言うのは憚られる」
ひろこ「まんじゅうとか言わないでよ(*35)」
難解「そのネタは・・・」
色々「もしかして、TRPG業界を敵に回すようなアレですか?」
難解「もしかするとな」
色々「やめましょう!」
梶理「聞きたい!」

難解「しかたない、略称を言うぞ・・・CoC(*36)」

梶理「なんですか? クトゥルフのどこが怖いんですか?」
難解「いや、お前が相談に来るネタはたいてい怖いぞ」
梶理「どこが怖いんですか?」
難解「やってないシナリオをKPすると切腹させられる(*37)」
梶理「シナリオを遊ぶ前に、動画で見るのが常識じゃないですか?」
難解「怖い話をすると、プレイヤーに泣かれる(*38)」
梶理「ま、ホラーが苦手なCoCファンっていますね」
難解「全員の地雷シート(*39)をチェックして、シナリオ内容を配慮しないとDisられる」
梶理「苦手なものって、誰にもあるじゃないですか?」
難解「オンセ用に有料イラストを買わない(*40)と、キャラがすぐ死ぬ」
梶理「それは都市伝説です!」
難解「正式ルールにある正気回復をしたら、卑怯と言われる(*41)」
梶理「あれは、私でもどうかと思いますね」
難解「とりあえず、1D100度の風呂に入らされる(*42)」
梶理「ネタ・シナリオの代表格ですよ!」
難解「アニメ化のクラファ」
梶理「それだけは言っちゃダメ!」(*43)
色々「難解さん、今、業界を敵に回しましたよ!」
難解「うん、俺も言い過ぎた(*44)。
 まあ、世の中、都市伝説が多いから、噂だけで判断するのはよくない」

今の業界に必要なもの

梶理「でも、どのシナリオが面白いか、わかりにくいので、SNSの噂に頼るしかないんですよねー」
難解「そこな。ゲーム業界に足りないのは説得力のあるレビューだな」
梶理「点数つけて、地雷チェックして、ネタバレにならないように内容を解説してくれる人がいればいいんですよね」(*45)
難解「誰ができるんだよ!?」
梶理「難解さん!」
難解「悪い。それは金もらっても出来ないな(*46)。俺じゃ知名度が足りない。たぶん、配信者のむつーさん(*47)レベルか、あるいは、TRPG業界の重鎮、例えば、安田先生(*48)クラスじゃないと、皆が納得しないんだが、あの人たち、忙しすぎて、そういう仕事はしてもらえないよなあ」

 そこで、難解さんがどこかに向かってこう言った。

難解「お前だ! これを読んでいるお前だ!」

梶理「何をやっているの?」
難解「いや、夢を見ただけさ」

 とっぴんぱらりのぷぅ。(*49)

解説っぽい何か

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