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令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド8:ナラティブって何?

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。
 今回は、ちまたでよく言われるナラティブという単語を解説する。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ


ようこそ、私の研究室へ。

 TRPGと言っても、方向性は多様である。
 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』は当初、ダンジョンアタックを目的とした格闘級シミュレーション・ゲームに近い形でスタートしたため、かなりの死亡率があったが、英雄の武勲を語る冒険譚の要素が強まるにつれ、ナラティブな要素を取り込んできた。最新の5thにおいては、インスピレーションなどのルールにより、英雄的な発想やロールプレイがゲームに反映されるようになり、英雄譚としての様相がどんどん強まっている。
 さらに、『ザ・ループTRPG』など、ナラティブな要素が強まった作品も増え、時代は大きく変わり始めているのかもしれない。

令和5年7月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

絶版ゲームは遊んじゃダメ?


 今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
 会場の隅っこで、もはや髪の毛が白い難解好夫(なんかい・すきお。59歳、)と妻のひろこ、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ、今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。

少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
難解「ちょっと気が変わった(*4) 今日は『深淵第二版』(*5)を回す」

深淵第二版

少々「おー、懐かしいですね(*6) 告知の『エクリプス・フェイズ』(*7)と変わりますが、まあ、うちのコンベンションではGMさんの要望を優先しますので(*8)
 しかし、なぜ?」
難解「まあ・・・」
色々「実は、『エクリプス・フェイズ』のシナリオが出来なかったからですか?(*9)」
難解「ちゃうわい」
色々「まあ、『深淵』ならアドリブセッション(*10)で回りますからね」
少々「一応、確認しますが、まともな『深淵』ですか?(*11)」
難解「・・・」
色々「プリキュア深淵(*12)とか、スクールデイズ深淵(*13)とか」
難解「朱鷺田と一緒にするな!」

 置いていかれて、きょとんとする梶理ちゃん。

難解「・・・朱鷺田(ルビ:あのバカ)、イベントで色物テーマの『深淵』ばかり回しておって、『深淵』でプリキュアを再現したり、スクールデイズを再現したり、進撃の巨人(*14)やったり、バトルテック(*15)と組み合わせたり……」
梶理「プリキュアですか? 『ドキドキ』(*16)とか『ハピネス』(*17)とか見てた!」
難解「お、分かるか! 『ハートキャッチプリキュア』(*18)がオススメだぞ!」

 そこで少々父が首を振る。

少々「難解さん、あの年、梶理は1歳です」(19)
難解「がーーーーーん」(*20)

 時の涙を見た。(*21)

梶理「遊んだことがないですね。絶版ゲームですか?
難解「朱鷺田ーーーーー」
色々「まあ、第二版が2008年刊行。ここ10年は、第三版を作っているという発言があるだけだからねえ。梶理ちゃんには縁がないかも」(*22)

 そこで少々父がちょっと首をひねる。

少々「うちのサークルはコンベンションと名乗っていても、常連中心のルーズな運営だからいいんですが(*23)、昔のゲームをラインナップに入れると、時々、変な人が『入手困難な絶版ゲームを紹介するな!』とか難癖つけてくるんですよね」(*24)
難解「アホか?」
少々「まあ、うちは趣味のサークルですから、好きなゲームをやっているだけですが、何か問題が? とはねのけますがね」(*25)
難解「ああいう文句を言うヤツはたいてい、世界は狭いんよ。
 自分が知らないゲームがあったら、面白れええ!って遊べばいい(*26)のに、知らないゲームがあること自体にいらつくんだ。そして、攻撃するんだよなあ。野良犬かよ?」
色々「同じことをTwitterで言って炎上してましたね。
 あ。Xですか、今は」(*27)
難解「イーロン・マスクーーー!」

ナラティブって何ですか?


梶理「・・・で、『深淵』って何ですか? プリキュア?
難解「ダーク・ファンタジーTRPGだな。12とひとつの星座が支配する魔法の世界で、運命に翻弄するキャラクターを演じるんだな」
梶理「???」
難解「各キャラクターには、必ず、二つの運命(*28)がつけられ、この組み合わせで濃厚なドラマが生み出されるんだ?」
梶理「特徴(*29)とかですか?」
難解「魔剣持ちとか、魔族の血とか」
梶理「魔剣! カッコいい! 強い?」
難解「超強い。まあ、アレはエルリックのストームブリンガー(*30)だからな。よく裏切る」
梶理「裏切る・・・」
少々「91の暗くて辛い運命がねえ」
色々「心変わり(*31)とか」

 虚空を見上げる色々さん。

難解「運命は、特徴ルールの延長線上ではあるが、もっと強いストーリーエンジン(*32)を持っていて、運命、縁故、夢歩きを使えば、勝手に物語が生成される(*33)」
色々「よく考えたら、今、流行りのナラティブ系(*34)の走りですかね」
難解「ナラティブ系の定義にもよるな」
梶理「ナラティブ系? えーーっと? ザ・ループ(*35)」
色々「あれは表紙にナラティブTRPGって書いてあるな」

ザ・ループTRPG

色々「主人公はキッド(10-15歳の少年少女)として、ジュヴナイルSFを再現するという意味では、あれは凄いゲーム(*36)だな。
 梶理ちゃんは遊んだ?」
梶理「まだです。お父さんは楽しいって言うけれど」
少々「あれはいいですねー」
難解「あれは1980年代にキッドだった連中のツボにハマるんだよな。今の40-50代が遊ぶと自分の青春とかぶる(*37)」
色々「1980年代の文化とかわかりませんからね」
難解「それはオレへの挑戦か!(*38) まあ、あのゲーム、あんまり厳密にやらないで、『昭和っぽい昔』(*39)を舞台にすればええんや」
梶理「どの辺がナラティブなんですか?」
難解「あれ、戦闘ルールないんよ」(*40)
梶理「え?」
難解「イニシアティブとか、ない。HPじゃないくて、疲れたとか混乱したとかいう、コンディションで状態を表現するけれど、そもそも、6つの原則のひとつが『キッドは死なない』(*41)だからな」
梶理「どうやって、事件を解決するんですか?」
難解「恐竜とか、宇宙人とか、暴走ロボットとか、変なモンスターとか出てくるけれど、全部、トラブルにまとめられていて、さあ、みんなこのトラブルの解決方法を考えて、それにふさわしい技能テストして! 必要な成功数はキッドの数の何倍、で解決する」(*42)
梶理「???」
難解「例えば、ロボットが暴走している、さあ、どうする? 3人のキッドだから、必要な成功数は6か」
色々「僕はコンピュータ・ギーク(*43)だから、ハッキングします!」
少々「オイラは農場のトラクター(*44)を乗り回しているので、これでドリフトしてロボットを翻弄します」
難解「オレは、ロッカーだから、歌うぜ!(*45) ロボットのコンピュータを混乱させる歌! これがラッダイトだ!(*46)
 まあ、こんな感じでやればいい」
梶理「自由すぎる」
難解「まあ、これはザ・ループのキャラがタイプ分けされていて、1980年代の田舎で起こるSFっぽい事件に巻き込まれるキッドが再現されているからなんだよな」
梶理「面白い! それがナラティブ?」
難解「ナラティブってのは、語りとか、ストーリーとかを意味する単語で、TRPGの場合、物事の物理再現よりも、物語生成を優先するタイプを指す。まあ、最近のTRPGは再現したいテーマを強く打ち出したものが多いから、どれもナラティブ系と言えなくはないが、特に『ザ・ループTRPG』はプレイヤーのイマジネーションや語りが生かされるところが強いので、ナラティブ系を代表するよなあ」

夢を歩く

 せっかくなんで、梶理ちゃんも入って、『深淵』を遊ぶことに。

難解「今回は、渦型だから、テンプレート(*47)を好きに選べ」

 テーブルの真ん中に投げ出されるのは赤でコピーされたサンプルキャラクター。

この赤いのはコピー

梶理「赤!」
難解「元はモノクロなんやけれども、赤でコピーするとええ感じなんや」
色々「赤は『深淵』のキーカラーかもしれませんね。
 『血のごとく赤き』(*48)とか」
難解「当然、赤のカードも入っている」

血のごとく赤き

梶理「赤いカード?」
難解「『深淵』の最大の特徴は、この運命カード(*49)やな。
 武器のダメージとか、追加行動とか、色々なものを管理するための専用カードでな、一番の売りは、その下にある語り部欄を用いた夢歩きだ。ほれ、読んでみ?」

 梶理ちゃんに渡される数枚のカード。

運命カード

梶理「希望? 夢?
 それはいったい、何を意味するというのだ?」
難解「見た目の通りはは限らない。
 しばしば、真実は別の場所にあり」
色々「熱意の生きられる場所は限られる。
 狂気こそ必要」(*50)

梶理「ダークですね?」
難解「まあ、このカード使うとだいたいダークになる」(*51)
梶理「プリキュアでも」
難解「プリキュアでも」(*52)

 緑の古鏡

 物事はすべて両刃の剣。
 自分に向く時が必ずあるのだ。

 とっぴんぱらりのぷぅう。(*53)

解説っぽい何か

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