2024全日本MTB XCOレースレポート
大会名:2024全日本選手権自転車競技大会マウンテンバイク XCO
開催日:2024年7月7日
開催場所 : 長野県・富士見パノラマリゾート
カテゴリー:エリート男子
天 候:晴れ
リザルト:1位
使用機材
バイク : MERIDA NINETY-SIX
サスペンション : SR SUNTOUR AXON
コンポーネント : SHIMANO XTR 9100シリーズ
シューズ : SHIMANO SH-XC903
ホイール : PAXPROJECT
タイヤ : CONTINENTAL RACE KING
ウェア・グローブ : SUNVOLT
サングラス : SWANS
ソックス : WAST
ヘッドバンド: HALO
梅雨明け前というのに日本の夏はすっかり本気を出してきた。灼熱だったマレーシアでのアジア選手権が思い出されるような気候の中、2024年の全日本マウンテンバイク選手権が長野県の富士見パノラマで開催された。会場は標高1000mに位置するため湿度は幾分控えめだが、そのぶん日差しの強さは凄まじい。自分としては暑いレースは得意とするところで不安はなく、それを後押しするようにチームスタッフと妻が万全の暑さ対策を施してくれたお陰で天気も心も晴れやかな気持ちでレース当日を迎えることができた。また遂にアジアチャンピオンジャージが完成し、この大舞台で披露することができた。
5月のアジア選手権では間違いなく身体の調子がピークに来ていたため、そこから全日本までの2か月間は慎重に過ごす必要があった。連日疲労が溜まっていくような練習は避け、必要最小限の内容と身体のケアに時間をかけてきた。2週間に1回のレースも調子を保つのにはバランスが良く、心身共に充実した日々を過ごせてこれた。今年の目標はアジアチャンピオンとなって全日本を勝つことであり、それを果たすことに集中できていた。
今年の富士見のコースは昨年から大きく変わり、テクニカルセクションが増えた一方で登りの距離は短くなり平均速度が上がった印象。登りの斜度も緩いためアタックが決まりにくいことが予想できた。しかしながらダウンヒル区間の難易度が上がったことで脚を休められる区間が減り、過酷な暑さもあるのでレース後半には自然と強い選手しか残らないだろう。エリート男子クラスはスタートループ+7周回のレースとなる。
前日のXCCでは満足のいくレース内容で3度目の日本チャンピオンになれたものの、XCOは展開も違うので始まってみなければ誰が強いかは分からない。終わったレースのことは忘れて、目の前のことだけに集中する心意気でレースに臨んだ。スタートは無難に決めて4番手で最初のコーナーをクリアしたが、先頭が平林選手だったのですぐに2番手に上がり車間を詰める。序盤にスピードのある平林選手を逃してしまうと自分が追走で先頭に立たなければ追いつかないため、他の選手に有利な展開になってしまう。スタートループ完了時にはしっかりと背中を捉えて本コースに入った。
1周目。平林選手のペースは非常に速く苦しかったが、自分の後ろには竹内選手と北林選手、少し離れて宮津選手もいる。やはり全日本はどの選手も仕上げてきていて簡単には離れない。コース上で最もテクニカルなロックセクションの前後に急勾配な登りが続くため、リスク回避のためにもこの区間で仕掛けて集団を絞り込んでいこうと考える。登りで先頭に立ってペースを上げると予想通りに集団はバラけたが、竹内選手だけはぴったりと付いてきて調子が良さそうだ。宮津選手と平林選手のパックには僅かなタイム差を付けて2周目へ。
2周目に入っても竹内選手が登りで積極的にペースを上げる。自分の経験上、2周目で動けている選手は確実に強いのでこれは難しい勝負になると思った。相手にダメージを与えられる区間で自分も積極的に仕掛けるが、竹内選手はぴったりと離れない。また追いついては来ないものの平林選手も10秒以内の差でずっと後ろにいる。タイム差が詰められる区間と開く区間を確認しながら、最後までもつれた時の展開も考えながらレースを進める。
3周目。急勾配な登りやコーナーの立ち上がりで仕掛けてみるが決まらない。コース上にコーナーが多いため、アタックしてもスピードを維持するのが難しい。また竹内選手とは得意とするセクションも似ているため、自分から攻撃してもあまりダメージを与えられていない気もする。後ろにいるときは相手の苦手な箇所を探ることに集中したが、乾き切った路面は砂利が浮いて滑りやすいためにダウンヒル区間でリスクを取る走りは出来ればしたくない。
4周目。コーナーで前を走る竹内選手のタイヤが滑ったなと思った瞬間、自分が同じ箇所で前輪を取られて転倒。すぐに起き上がりバイクに飛び乗るが、幸いバイクに問題はなく走り出せた。脚をついた際にふくらはぎが攣ってしまったが、ペダリングに影響するほどではない。スピードを乗せやすい緩斜面だったこともあり、すぐに竹内選手に追い付くことができた。そのまま気持ちが熱くなり先頭に立って踏み込むが、当然ながら離せない。少し焦っていることを自覚し、冷静になろうと考えた。
ここまで序盤から自分の攻撃の手の内を明かしすぎたことで、竹内選手にはどこで我慢すれば付いていけるか完全に読まれている。こうなると相手も集中するので、差を広げるのは簡単ではないしカウンターを食らう恐れもある。このまま動きを読まれている相手と一騎打ちで戦うよりも、後ろの平林選手を合流させて3人での勝負になった方が展開が変わり勝機があると考えた。
5周目。残り3周。補給所の前でペースを落として息を整えたところで、後ろから追いついてきた平林選手がキレのあるアタック。すぐに反応して後ろに付けたことで、緩斜面で一気にスピードに乗って竹内選手を引き離すことに成功する。ここまで来てようやく自分の勝ち方をイメージできた。1周目から仕掛け続けたロックセクション前の急勾配な登りで後ろから渾身のアタック。差は開いたが下りの速い平林選手は必ず差を詰めてくるので、その後の登りも全開でプッシュし続けた。8秒という僅かなタイム差を得て残り2周へ入る。
6周目。コース前半部分で6秒差まで詰められるが、先ほどアタックした区間でもう一度踏み直せるように力を残しておくようにする。ワンミスで追い付かれるのでプレッシャーのかかる場面だが、仮に追い付かれても先ほどと同じことをすれば絶対に勝てると自分に言い聞かせる。こういった苦しい場面ではいかに自分の気持ちをプラスに持っていくかが走りに如実に現れる。
そしてファイナルラップ。タイム差は15秒に広がったが、平林選手が絶対に諦めない選手だと知っているので全く油断はできない。全開で踏み込むが最初の登りを終えると再び6秒差までタイム差を詰められていた。このままの勢いで来られるとまずいなと思ったが、その後は逆にタイム差が開いていったので焦らず自分のペースでプッシュし続ける。ゴールが近づきようやく勝利を確信できた。泣くつもりはなかったのだが、あまりにも苦しいレースだったので妻の顔を見たらほっとして涙が溢れてしまう。3年ぶりの日本チャンピオン、そしてアジアチャンピオンとして全日本を勝つという大きな目標を達成することができた。
このレースから2週間前、もうひとつの目標でありシングルリザルトを狙っていた全日本ロードでは序盤にパンクして集団から脱落したが、諦めずに単独で追走を続けたら集団に復帰することができた。結局は完走できなかったのでリザルト上はなんの価値もないことかもしれないが、あの経験がこの日の自分の精神的な強さを作ったと思う。思うようにいかない時こそ真の強さが問われるし、どんな展開でもその時のベストを尽くすこと。懸命に支えてくれた方達に対して毎回最高の結果を届けることはできないが、自分がどんな気持ちでレースに臨んでいるかを見てもらうことはできる。この先も忘れないようにしたい。
最後となりましたが、万全のサポートをしてくれた宇都宮ブリッツェンに心から感謝しています。これまで何度も悔しい想いをしてきた全日本選手権だったので、みんなと喜べることが本当に幸せでした。またいつも自分の目標とそれに向けた道筋を一緒に考えて支えてくれる妻には本当に助けてもらいました。ありがとう。
これにてMTBシーズンは終了し、シーズン後半はロードレースとシクロクロスに集中していきます。引き続き精進していきますので、これからも応援いただけたら嬉しいです。ありがとうございました!
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