「桐生ココ卒業の真実を知りたい人」へ

「お客さんお客さん。ここだけの話だけど、桐生ココの卒業、裏があるってご存知ですか？今ならタイムセールで教えちゃうよ」

と、知らない人から『真実の情報』を売りつけられようとしている。少し首を捻って私はこう答えた。

「いらん。興味ない」

桐生ココさん卒業の衝撃

いつになくがっさがさの声で告げられた、唐突な卒業宣言。今年7月1日の引退ライブをもって、桐生ココさんが卒業する。

昼からやろうと思っていた作業が素っ飛んでしまうほどの衝撃だった。

2019年末に産声を上げ、海外勢を大きく取り込み、ホロライブ全体の箱人気急成長を促してきた桐生ココさん。彼女自身の人気は、卒業発表配信後、約7時間で120万回再生を突破する程巨大だ。

きっと彼女のファンの心中は穏やかではないだろう。だからきっと考えるはずだ。「何故？」と。彼女が引退した理由は何か……どんな情報でも良い、その真実の一端が欲しいと。

思い出も火にくべてしまわぬうちに

まず大前提として「何故真実を欲しがるのか」。

それは自分の心に納得をもたらすため。何かの節目でもなく、かねてからファンに引退を仄めかしていたわけでもない唐突な出来事、「きっと何かしらの事情があったのだ」と勘繰るのはまあ当然でしょう。

だが事情とは何かを知る前に私から。

「納得したら収まるのだろうか？」

真実を知って納得したら、「ああそうだったのか」と安らかな笑みで引退を見届けることは出来るのだろうか？

否。「彼女はそう言うけど……俺はそんなのでは納得しない、きっと裏に何か陰謀があるに違いない！」と心に影を落とすことになるでしょう。

そういう人へマッチを売りつけるように気軽に「真実」を持ってきて格安で売ってくれる人が現れたら、きっと買ってしまうのではないでしょうか。鮮度だけはいっちょ前でも実の伴わないそれをどう受け止めるか。

「真実を知りたい」「納得したい」と言う人にとって、誰かのもたらす真実は甘い果実なのかもしれない。それが「誰かが悪かったからこうなった」ならばなおの事。

いなくなる寂しさを、何者かへの攻撃的意志で埋めることが出来るから。

誰かを推していた純粋な気持ちを勝手に攻撃的意思に塗り替えられるとか、私なら御免被るね。思い出も何もかも、意志にくべる薪になってしまう。

他人の人生

桐生ココさんは彼女だけの人生を歩み、私は私だけの人生を進んでいる。それは誰しもそうで、言ってしまえば他人事。

どういった事情で、どんな状況下で、判断し、決断し、卒業に至ったのか。知ることはない。

あなたの身内を見てほしい。何を考えているのか、どんな気持ちで生きているのかを、100％正確に把握し言い当てることが出来るだろうか？　私には出来ない。

一緒に住んでいる家族ですらわからない事が多いのに、何故他人のことは信実まで把握出来ましょうか。人の事を100％知り尽くさずとも生きていけるし、何の問題もない。

わかっているのは「桐生ココさんが７月１日にいなくなる」という確かな情報だけ。それ以外は彼女と苦楽を共にした仲間たちの言動、運営の在り方などから推測する事しか出来ない。

今、彼女の卒業の真実を知りたがる者に忠告しておくけど、ころッと騙されるよ？　藁をもつかむ思いで真実探していたら、きっと信憑性に欠けるもっともらしい「真実」を教えてくれる人に騙される。

どうしてそれを知っていて、どんな意図で教えてくれるのか。

浅慮では真実は掴めない。そして真実を掴む必要はない。

残る３週間をどうするか

約３週間で７月は訪れる。時間は殆どないが、往年のVtuberファンなら思うだろう。「まだ３週間猶予がある」と。

Vtuberの引退って言うのは唐突なものが多く、お別れすら言えない場合も少なくない。今回は急な引退宣言だが、会長のために何か出来ることはあるのかを探し実行することは出来よう。

ある者は絵を、ある者は寄せ書きを。そういったファン活動をする者もいるし、卒業後も少しだけ猶予があるメン限配信を見に行く人もいる。

彼らに共通するのは、桐生ココさんへの感謝の気持ち。彼女と別れる事に対するケジメ。などではないでしょうか。

「真実」に現を抜かすと、運営かメンバーか誰かへの攻撃的意思でいっぱいになり、感謝の気持ちを伝えるのではなく誰かを口汚く罵ることになる。血眼になって真実を探すことに執心することになる。

例えば、何も知らない私の記事を「実は真実を知っているのだろう！」と、ここまで読んでしまうくらい周りが見えなくなる。

誰か知っている人は……誰か……と探すのもあなたの人生だから別にどうでも良いけど、それをして求めたことにより、桐生ココさんが卒業を取りやめるとかはないのです。延長することもない。既にタイムリミットは決まっているんですよ。

不確定な情報に踊らされたり、この件で推し活をやめるとかも別段どうでも良いですが、彼女に対する思い出や執着を食い物にする連中がいる事をどうか忘れないで欲しい。

あなたがたファンが彼女からもらい受けた大切な輝きがあるのなら、それを火に投げ込む事だけはしないで欲しい。

ファンにとって貴重な３週間が始まる。

無駄に過ごさぬよう、私は祈っています。