【Vtuber可哀片コハル】少女は世界に夢を求めた【考察】
仲直りをするための動画のはずだった。それは彼女が求めた変化の切欠にすぎず、これからも続くであろう終末世界の一幕でしかないはずだった。
ここから先はネタバレしかないので、まだ動画見ていない人は速やかに見てください。最終回は7月19日。あと2日しかないです。
独りぼっちの幸せな世界
#11で 、最大級のネタバレが衆目に晒される。
世界が滅びを迎えた終末の時、コハルは花畑にいた。しかしこの世界には瓦礫とペケと奇妙な水槽ばかりで、視聴者も、そんな綺麗で幻想的な空間は何処にもないと分かってしまう。色合いも赤は少なく、青、青、青。
「何者かが作った箱庭に匿われている」と私は勝手に思っていた。ある意味正解だった。しかし予想外だったのは、それが人の手で作り上げたものだったこと。ペケという存在ですらも、この終末世界という箱庭に用意された造物でしかなかったこと。
そして「終末」ですらも、起こらなかったこと。
信号機と共に現れる「あいつら」
かわひらさん
①隣のクラスにまで奇人と噂されている。全員が知っているわけではない。
②夜にスーツを着たおとこの人たちと一緒にいたらしい。(噂話)
③髪はいつもぼさぼさ。
④終末が来るとずっと言っているらしい。
【ボサボサの髪、サイズの合わない制服、不格好な歩き方。全てがナンセンス】これはコハルが「あいつら」を言い表した文。あの世界は小さな終末世界で、コハルの内面をより誇張されたもの。故に、嫌いなものである「いじらしい」【 幼い子供や弱い者などの振る舞いが、何ともあわれで同情したくなる感じである。けなげでかわいそうなさま。また、可憐 (かれん) なさま。 (goo辞書より)】存在とは、自分を否定する者たちではなく、その世界を受け入れることが出来ずに別天地を望んだ自分への負い目が、形になって現れたものと推測する。
姉への想い
ずっと私は【#3】での三つ編みの子をコハルだと思っていた。活発そうなショートヘアで背の高い子を、妹と思っていた。しかし【#10】にてコハルの姉が現れたことにより、全てが激変する。
『サイズの合わない制服』ってそういうことかと。そしてこの容姿は、完全にお姉ちゃんを模倣したものだと。気付く事が出来なかった。
両親の離婚によって別れた姉妹。両翼揃って羽ばたける蝶のコハルは、姉や母という片翼を失い(羽をもがれたカワヒラコ)、独りぼっちの時間が長く耐え難いストレスに苛まれた。
「洗い立てのシーツの石鹸の香り【#1冒頭】」というのは、家族バラバラになり、母の洗濯物の匂いが無くなったことを意味しているのだろう。
スーツの男たち
クラスでも噂になっていたスーツ男たちの正体。#10の情報を信じるのであれば、『VR機器を使って幸福を得る』宗教組織、つまり教祖やそれに連なる者。いずれにせよ規模は大きくないと推測できる。
2020年7月5日に逮捕されたとあるが実験場の特定は今も出来ていない。
推理:家庭環境の崩壊により生じたストレスから、何もかもが壊れてしまえばいいと思うようになったコハル。ちょうどそのころ世間には終末論を展開する学者や占い師がいた。宗教家たちは「幸福」を提示してコハルに言い寄り、VR機器に彼女を繋げた。それが2018年(?)7月1日。終末の瞬間。
しかし終末(未知への対処が出来ない人間としての驕りの破滅)は起きたが、人類は誰も死ななかった。ここから2年間ほど、コハルは隔絶した箱庭の中で生きている。コハルは、コハルらしく生きている【#3質問10より】
学校=工場
これは予想通りだ。同じように作られ、歪なものは廃棄される。終末を信じてズレた彼女は、先生や生徒からは不良品扱いだ。噂話と孤独で磨り潰されて居場所も無くなっていく。工場なのに油ではなく木の匂いがするのもそのため。
だがここにコハルの救いがあったとするなら、当時教育実習生だった男性の存在だろう。恐ろしいことに3年の月日の中で、必死に探していたのは赤の他人である彼だけだった。親しかった姉ですらも、髪形をとどめる程度で「いつか帰ってくれると良いな」程度なのである。父母の反応は察するに余りある。
あいつらは何故現れ、何故唐突にいなくなった
前述の通り「あいつら」とはコハル、否、心春だ。自分が捨てた、自分が大嫌いな、否定しなければならない過去だ。いじらしい心を毎回撃ち殺すのだ。出来の悪いハクスラのように。
青信号と共に現れる→青信号は前に進めという、未来へと足を踏み出すことを暗喩している。心の奥底で心春がコハルに語り掛けているかのようだ。「こんなことはもうやめよう」と。しかしこれを否定し撃ち殺す。青信号に拒否を示す。それは未来を拒む行為。
恐らくこれを仕組んだのは教団だと思われる。Vtuber、或いはバーチャルの存在となって自分を忘れて謳歌するコハル。思い起こさせる過去の記憶を打ち尽くすことで、真の幸福を得ようという方針なのだろう。弾数制限のないコハルにピッタリの武器……オブジェクト。コハルという存在がプログラムされているなら、誂えるのは容易かろう。
総集編の冒頭でコハルは青い返り血に塗れている。いつも通り、しばらくすれば自然に消える。それはそうだ、ゲームでいつまでも血痕が残るなんてことは少ない。だからこれもすぐに消えるだろう……と思っていたが、消えないのだ。次のお話になっても消えていない。
これはバグというより、仕様だろう。「あいつら=自我」を壊し尽くし、自分という存在を心春からコハルにアップグレードした。だから今幸せを感じる迷いなき状態になっている以上、迷いから矯正しようと生まれるあいつらは現れない。それは一見お遊び回と思われる#8を見ると、何となくわかるだろう。
これまでのコハルならしないようなことをしている。そして暗転の中で気になるワードもいくつかある。「これからもこの世界でずっと独りぼっち」というのは、終末で人類いないのに何をいまさらと思うワードである。物言わぬペケと一緒にいるのが「それでも私の幸せ」と私たちに応えていた……いいえ、自分に言い聞かせていたのだろう。
「臭いし、何だか嫌なにおいがする」というのは、部屋の中にある大きなゴミ袋か、乱雑であろう部屋の臭いだろう。VRは視覚を誤魔化せても、感覚や人間である部分を誤魔化すことは出来ない。
そして#8最後のタイトル表示は「いつでも、いつまでも、わたしはここにいるんだよ」だ。ここに居るんだという確固たる決意にも感じるが、コハルの場合は違うだろう。見つけてほしいからこそ「ここにいる」としか受け取ることが出来ない。実際にどこにいるのかは動画の暗転部分に仕込んである。#8を見よう。
#8の斉藤さんは誰 ?
無論、アプリのタイトルではないし、お笑い芸人でもない。心春の頃の回想に出てくる人名だ。怖そうな人と心春は言うが、最近は顔を出さず、部屋から腐ったようなにおいがするとか。
恐らくは彼も、教団によってVRに逃酔した犠牲者の可能性が高い。腐った臭いというのは部屋の臭いだと思いたい。
だから心春も、#11で地震が起きるまでは同じような道をたどっていたと思う。あの全身ガリガリで、虚ろな目をした痛々しい姿は、地震という現象がなければ朽ち果てて腐っていただろう。
この状況を彼女はどう思っているのだろう?
聞けば分かる。
終わった世界を壊してくれる祝福の鐘
途中コハルちゃんごっこをかまして別次元のコハルちゃんを装ったマシュマロ飛ばしたのは私。イラストもメッセージも書けないとなったらこうするしかなかった。しかしそこはコハル、お祝いだけじゃあ終わらないのだ。
スティックマンさんの笑劇も終えて締めくくりの挨拶中に、「あいつらって何だったかしら?」と笑うところ。そしてこの動画の暗転には、【一切台詞がない】こと。暗転は今まで、コハルとは別人のような誰かの声だった。それが誰の声かは……言うまでもない。そしてそれが一切届かないというのは、最早彼女は心を壊したということ。
最後の最後に鳴り響くノックとインターホンの音。これは#8で、ヒントをもとに辿り着いた元教育実習生だろう。否応なく心春に呼びかけるこの音はコハルにとってノイズでしかないし、心春にとっては現実への帰還を呼びかける福音なのだ。
教育実習生の行動歴と正体の考察
一介の教育実習生だった男は今や教師となり、川平夏希、心春の姉を呼んで細かいことを聞く。その姉の姿は……。【#10】
総集編で誰かにメールを送っていた教師だが、この時点で送ったメールは恐らく夏希を呼ぶための連絡だと思われる。そしてカフェに落ち合い、話しを進めていく。彼は何故ここまでするのだろうか? 教育実習生時代に担当になったわけでもない、隣のクラスの問題児相手にそこまでする理由。
「よく噂を聞いていたので、どうしても他人事とは思えなくて」
教育実習生時代の彼に対する生徒たちの見立てはこうだ。
・気弱そう
・終末の事を信じてそう
・いつもメモに何か書いている
内向的な人物だ。メモに何か書くのが常日頃なら、人によっては奇異にも恐ろしいようにも見えるだろう。今回もメモに色々と書いているところから見るに、昔からマメな人物だったことが伺い知れる。
#10で彼は 、起こらなかった終末を「起こった」と熱弁する。彼は終末自体を信じていたし、終末の到来を誰よりも理解している。しかし、終末を謳って取り入ろうとする教団との関わりはなかった。彼自身が最も終末と真剣に向き合っていたからだろう。
だからこそ、終末の先に投げやりな事を考えそうなコハルを見捨てることが出来ずにいた。もしくは気になった事を最後まで突き詰める性格、真実を追い求める精神を持っていた。
……もしくは、すでに教団と関わっていた可能性。過去、終末に誘われて入信し、VRと終末を知ってなお、現実へ戻ることが出来た。同じ道に行こうとしているコハルを他人事とは思えず、止めるため行動を起こすという……これは本当に薄い線ですが。もしその場合はこの人が斉藤さんの可能性も大いにあります。
終末世界の終わり
#11にて 「空が輝いているわ?」のシーンは、初期微動継続時間の地震が起きている。暗転の「オルゴールを鳴らして下さい」は、恐らく教師か、夏希の台詞。#9で教師がチャイムを鳴らしたものの、コハルはそれに応対しなかった、居留守を使ったものと思われる。
無理に入ることは出来ないので呼びかけるために、思い出の話を姉である夏希から聞いて「オルゴール」がカギになるのではと考えた。だから17日の21時01分頃に来訪、たまたま地震が起きる。
コハルはVR機器という接点を打ち壊されて、世界は終わりを迎えた。心春はコハル(VR)という呪縛から解き放たれ、抜け殻のような表情と、栄養失調をきたしているだろう体で私たちの前に現れた。
モーションキャプチャーの機材はあるが、立って振舞うことが出来ないほど衰弱しているから椅子に座っている。電子機器だけが彼女のそばにあり、ゴミ袋が見える家の中。#10の教師のメモには、「苦情・アパート」と書いていることから「異臭」によるクレームがあると思われる。
地震のおかげで助かったのだ。それは終末予言の前に世界で起こっていた異変の片鱗か、終末の余波なのかもしれない。仮初の終末で彼女の心は一時的に救われたのだろうが、命を救ったのはやはり人知を超えたものだった。
今日、全てが終わる
7月19日。22時。彼女の物語は終わるのだという。最後の詰めがどこまで行くのか、全てを語るか、何か伏線を残すのか、多くを語らないのか。皆はコハルか、心春が幸せに終われることを願っているし私もそう願っている。
以上で考察を終わります。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。同時に、今からでも遅くないと思うので動画を見に行きましょう。