無資格なのに建築で独立
私は20代で独立したのですが、建築士の資格は持っていません。現在は建築に関するお仕事が80%で20%がIT関連です。将来独立を目指している方々の参考になればと思い、独立した経緯と何をしているのか記載します。
主な経歴
独立した経緯
まず最初に、計画的な独立ではありませんでした。順を追ってお話します。建築を学び始めた学生時代から独立志向があり、20代で独立すると将来設計ノートに書いたことを覚えています。いざ設計業界に飛び込んでみると険しいもので、仕事では失敗ばかり、建築士の資格勉強をする気力がない、独立資金が貯まる気配がない、独立のきっかけが見つからない。など、枚挙にいとまがありません。そして、26歳で結婚をしました。家庭を持つことでの挑戦の難しさを感じ始めます。
第1の転機
仕事上の様々な出来事により、"軽い鬱"との診断を受けます。とうとう自分の精神の限界が訪れてしまい、仕事との向き合い方を考える日々がしばらく続きました。建築で独立を目指したいが、自分のような人がたくさん存在するならそこに向き合いたい。何ができるだろうか。この葛藤の中から生み出した答えが「ITを学ぼう」でした。何かを改善したり、情報を共有するにはITの力が絶大なる力を発揮してくれるだろうと思い道筋やアイデアを検討し、プログラミングスクールへ通うのでした。その後はシステム開発を行う会社に転職を果たしました。
第2の転機
システム開発の会社に入社して半年ほど経過した頃、妻が入院しました。結局、原因はわからず終いなのですが、高熱が数週間続き、仕事も長期で休むことに。手術の可能性もあり、今後の仕事にも影響が出るのではと五里霧中。私も転職したばかりで自分の生活費を賄うことで精一杯の収入。まだまだ若いと自分の道を突き進んでいたのですが、大きな壁に直面しました。結果的に妻は手術もなく1ヶ月以内で退院でき、仕事にも復帰できたものの、今後いつ何があるかわからないという思いから、建築業界に戻るという決断をします。
独立の決意
建築業界に戻るとは言っても、設計事務所では妻を養えるほどの給与を得ることはなかなか難しい。それに、このまま戻っても第1の転機で得た答えから得た道筋を辿るのは難しいのではないか。自分にできることを考えました。
仕事で得たスキルというのは分野別に見れば全然ないなと気付くものです。更にここで立ちはだかった大きな問題が、資格が無いということです。スキルは乏しく資格も無い。自分の売りが少ないのに"収入"と"自分がこれと決めた道"の両方を追うことはできないのかもしれない。悩みました。でも諦めるわけにはいきません。もっと掘り下げよう、何ができるだろうか。今まで何をしてきて、どうしたら人の役に立てただろうか。得意なこと・苦手なこと、思い付く限り精一杯の整理をしました。その中でも人の役に立てたと実感できることに注目してみよう。
これが自身の経験の中では最も役に立てたことだと思いました。設計事務所に勤めていた頃、自分の知識・情報の開示を人一倍行っていたことで、他社への設計スキル指導の担当となり、いつの間にか社内では新人教育の担当になっていました。社会にこの役割は必ず必要である。この価値を提供する上では設計事務所に絞る必要もない。そう考えたことで一気に考えが深まり、自分が得意なことに特化した知識共有をする術を検討しました。単に企業に入っても得意なことだけを行うことは難しいそうだ。この立ち位置を確立するにはどうするか。「そうだ、独立してみよう」建築でもITでもまだ独立は難しいと思っていたのに、立ち位置を意識することで独立という答えに至りました。
収入の問題
一先ず価値提供を行う目的で独立を決意したものの、収入の問題は解決していません。しかし意外と簡単に問題は解決しました。自分の持っている設計知識・技術を提供すると決めていたので、設計業務も必要に応じて行えばいいんじゃないの。という話です。つまり、設計事務所にいた時はオールマイティーに全ての業務をこなすことが必要で、手隙の際に他のことに時間を割いていましたが、知識・技術提供をメインに関連内容については設計業務のお手伝いをしますよという逆の発想です。これには理由があります。
設計の仕事やCADオペで知識を発揮することは当然の話です。持っている知識の中で図面を完成させて、その図面にお金が発生するのです。なので、図面の中に知識という付加価値は発生しにくいです。では、その逆の場合はどうでしょうか。
本質的にはやっていることは同じなのですが、提供方法の順序を変えることで結果が変わります。そもそも多くの士業系専門職は相談料や提案料をしっかり徴収しているのに、建築設計に関しては完全サービスであることが多いです。技術職特有の成果物主義でしょうか。このようなことが平気で行われているようではブラック企業体質からは抜け出せないと感じていました。そういったことから上記のような方法を思いつきました。
このように、図面を描くという選択を取り入れたことで安定収入を得られると考えたのです。
クライアント探し
収入の問題への解決策が見つかったと言っても、根本的にそのサービスを提供できるクライアントがいなければ話になりません。一先ずクライアントの条件を決めました。
1、現状、建築業を行っている
これから建築業を行おうとしている企業などを対象にすることは難度が高いと考えました。必要としている知識が多すぎて提供しきれないことや建築業務に関する理解が無いなどで揉める恐れがあると思い、最初のクライアントとしては建築業を行っている企業に絞りました。
2、しっかり収益を上げている
どの業界でもそうですが、収益を上げられていない会社は外にお金を支払う余裕がなく、少ないお金で事を成そうと考えがちです。ある程度収入を得ないとどうしようもない状況でしたので、ここは外せませんでした。
3、設計人材を抱えている
単に企業に貢献したいと言うよりは、スキルや知識の上で困っている個人を対象にしたいと考えていたためです。自分が経験したような限界が来る前に協力したいと思っており、第一優先でした。
後は条件に一致するクライアントを探すだけ。そんなに簡単には見つからないと思われるかもしれませんが、私にとっては簡単でした。
至極当然のことなのですが、これが最も手っ取り早いです。相手の事を知っており、相手も自分の能力を認知してくれている。もちろん、過去に信頼を失っている企業などは難しいでしょうが、特にそのようなクライアントはいなかったので助かりました。やはり、全くの初対面のクライアントへの営業は難しいと思います。実績などがあれば別ですが、誇れる実績も資格も無い状態では選択肢がこれしかありませんでした。
交渉
契約方法など全くわからず交渉に行きました。資料は一通り整えましたが、不安いっぱいで提示したことを覚えています。
金額と条件の面で多少の駆け引きがあったものの、元々良好な関係を築けていたお陰であっさりと交渉成立。契約書は相手に作成していただけたので、特段問題ありませんでした。
その後
一つ目のクライアントで安定収入を得られるようになったので、本来やりたかったITの学習にも時間を費やすことができています。更にはシステム開発や業務改善コンサルの仕事を受注できるようになりました。こちらに関しても過去の付き合いからのものです。最近では知り合いづてで新規クライアントへの建築設計スキルアップ指導の仕事も受注できました。
自分が必要とされていることへシフトする
かつて自分の能力に自信が持てず身動きが取れなかった私ですが、今何をすべきか、何が必要とされているのかを丁寧に見極めることで新しい価値提供の場を得られました。建築家としてオールラウンダーを目指していましたが、そうでなくても人に喜んでもらうことはできるし、そうすることで建築業に携わることができているという喜びもあります。自分が今いる環境の中でもがき苦しんでいる人は自分が何が得意か、何を大切に考えるかを念頭を置き、新しい立ち位置にシフトしても良いのではないでしょうか。苦しみ疲れて他の業界に飛び込むこともあるでしょうが、今まで蓄積したものを発揮する方が良いのではないでしょうか。
終わりに
あらゆる人にとって悩みや不安、状況に応じた問題が付き纏うと思います。私が特別な経験をしたわけでは無いと思っていますが、考えるきっかけを与えてもらえたことに感謝しています。今後も周囲の人が困っていたら手を差し伸べられるような自分でいたいですし、私の経験が少しでも皆様のお力になればと思います。私自信は設計業に携わり続ける所存であり、それ以外の業界に参画するチャンスがあれば挑戦したいです。