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倉敷と岡山:計画的な旅行のすゝめ
2025年正月、鳥取で遊んだ帰りに休日がもう一日あったので、岡山にもう一泊してから帰ることにした。
どうして寄り道先に岡山を選んだかと言えば、年始連休の陸路で帰る方が安そうで経由するのにちょうど良かったし、まだじっくり観光した事がない土地だったからだ。
前回訪れた時には四国から新幹線の乗り換えで岡山駅周辺を一時間くらい歩いた気がする。
縁のない土地ゆえの無知で今も昔も岡山の観光地と言えば日本三名園のひとつ、岡山後楽園くらいしか思いつかなかったけれど、その後楽園に前回行ったかどうかも分からないくらい昔のことだった。
一時間やそこらではとても後楽園に行って帰れないことを今回の旅で悟ることが出来たので、恐らく本当に岡山駅前しか歩かなかったらしいと知った。
宿は倉敷に取った。倉敷は岡山駅にほど近く、どうやら古き良き日本らしい街並みを歩ける場所らしい。旅の主役とも言える岡山の食について思い浮かべられたのは、きびだんごくらいだった。桃太郎がお腰に着けている所謂アレではなく、職場の土産としてもらうモチモチで桃太郎イラストが描かれる小さな紙に捻り包まれたお菓子のアレのイメージのきびだんごだ。ガイドブックやネットでも色々ご当地料理が紹介されているもののどれも聞いたことがなくてピンとこない(地元関係者の方がこれを読んでいたら重ね重ね失礼で誠に申し訳ありません・・・・・・)。
そういうぼんやりとした知識のまま、鳥取から特急いなばで岡山で乗り換え、夜21時過ぎに倉敷に到着した。
予約していたビジネスホテルにチェックインした後は早々にお風呂に入って寝ようと思っていたのだけれども、ふと、履いてきたスニーカーを脱いだ時に違和感があった。
もしかして・・・と思ったがその予感はホテルの部屋に備え付けられたゴミ箱の上で中身を出すことで確信に変わった。
無限と言えるほどに砂が出てきた。
都内で見るような灰色の砂利ではなく、まごうことなく黄土色の、言うまでもなく歩き回ってきた鳥取砂丘の砂だ。
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両足分のスニーカー、そしてスボンの裾を折り畳んだところからそれはもう無限に出てくる、出てくる。
払っても払っても(サラサラ……)という音が、ゴミ箱に被せられたビニール袋に当たって永遠に鳴っていた。
およそ大さじ3杯分の砂が出てきたところでもう飽きてしまって、部屋の床になるべく落ちないよう服を畳み、風呂に入ってその日は眠った。なにしろ鳥取がメインの旅だったし、倉敷の夜景を眺めようとか小粋な夜の店を探そうなんていう意欲も無かった。
翌朝目が覚めて、ビジホの朝食会場でさて旅程はどうしようかと腕を組んだ。ちなみに朝食会場はとても混雑していた。観光地にとって正月は繁忙期だということを思い出した。
そして朝食会場で、岡山の食の名物に「ばらずし」という名の五目寿司があることを知る。写真左。
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【旅程】
倉敷は街並みが美しくて、日本初の私立西洋美術館である大原美術館がある。合わせて2時間で足りるだろう。昼過ぎには岡山へ移動して、後楽園にも行きつつ散策し、夕方に予約してある新幹線で帰る。
完璧に決まった!と、何も完璧ではない旅程に満足した私は、前の晩に続いてまた風呂に入った。
普段の旅行では、よほど気分が乗っていたりしなければ朝風呂に入ることはほとんどない。
前の晩に「明日の朝もう一度入ろ!」と大浴場で回収BOXに突っ込めたはずのタオルをわざわざ部屋に持って帰り干していたとしても、基本的に朝起きたらその気持ちは消え失せて、「やっぱり面倒だからいいわ」となる確率95%くらいだ。
今回は特別気分が乗っているわけではなかった。でも正月は繁忙期だった。
繁忙期には需要が高まり宿泊費が少々高めに設定されている。元をとらなくてはならない。そのビジホはあの、夜食にサービスで中華そばを食べさせてくれる全国チェーンのビジホだったのだけれど、空腹でもなく睡眠を優先させた結果それも食べ逃していた。せめて風呂にもう一回入って元を取ろうという魂胆だった。
宿でチェックアウトの制限時間をたっぷり使った後、早速倉敷の街並みを眺めつつ美術館へ向かった。
向かうつもりだったのに、予定外のことが起きた。
街並みが、想像以上に美しくて見どころが多い。
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時代劇の風景セットかしら?というように整えられた建物、道、川。大通りの写真はガイドブックで見ていたから「見た通り美しいな」で済んだのだけれど、川に大きな白鳥がいるし、お店ひとつひとつがいかにも老舗で味があったり趣のある建物や看板だったりで、情報量が多い。
しかも大通りから逸れて入っていく小径までいちいち絵になる。吸い込まれるように入ってはそれぞれで掲示されている解説を読むのに時間がかかる。
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そして倉敷はデニムの町だった。デニムの服や雑貨店が多く、見どころが多い。
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ワーッ!忙しい!
と早足になった私は、それでも結局倉敷の美観地区を一通り歩気回ることになり、本来ホテルから徒歩5分もかからないはずの美術館に行くまでに2時間かけることになった。
この時点で既に、美術館鑑賞とお洒落なカフェで休憩してから荷物を取りに行く、と決めてホテルに伝えていた目安の時間になっていた。風呂で元をとっている場合ではなかった!と後悔している暇もなく、大原美術館の名画達を駆け抜けるように、目を見開き、焼き付けた。モネ、美しかった。
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まだまだ散策しがいのありそうな倉敷の町に後ろ髪を引かれながら、何かの競技中かのように競歩で荷物を無事回収して電車に乗り、息を切らせながら岡山駅へ移動した。
岡山駅で昼食を取るつもりが、もう14時を回っているというのに大変な混雑ぶりだった。
せっかくなら岡山グルメにありつきたいと駅直結のビルにあるレストラン街を歩き回ったものの、唯一その日に知ったばら寿司は見当たらず、岡山名物にまだピンと来ていないせいで狙いも定まらない。
自分と同じく観光客達の考えることは同じのようで、すぐに入れる店は東京でも見慣れたチェーン店ばかり。飲食チェーン店のことは心から愛しているが今じゃない。夕方の新幹線だし、もう一食晩御飯を食べるというわけにもいかないから、その一食に課せられた比重が重いのだ。
何よりも悪いことに、「これこそが本日の昼食!」と決めて並ぶことも出来ないまま、知らない駅やビル中や町を彷徨い歩くのが楽しくなってきてしまった。完全に悪癖が出ていた。
途中、駅ビルに入っているスーパーの品揃えや巨大イオンモールのおおらかな造りを観察しつつ、ようやくたどり着いたのは駅前のデパートの高層階にあるレストランだった。喧騒を逃れ、もういい加減15時近くになって客足も落ち着いていた。
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えびめしとは海老が入ったソース味の炒飯?というところで、そこにオムライスとエビフライが入ってきて情報が入り乱れていたが、なにはともあれ海老は好きなので、その土地らしいグルメにありつけて大満足だった。
コーヒーまで飲んで、すっかり落ち着いてしまった。ほどよい運動と、空腹のところに炭水化物がぶち込まれたせいで、意識もぼんやりとしてきた。
まだ新幹線の時間まで2時間弱あるけどもうこのままコーヒーでも啜ってゆっくり土産物屋でも見て回ろうか。
でも、事前に唯一知っていたと言ってもいい岡山後楽園を見ないで帰るのか?
それこそ何よりも元を取ってないことにならないか?
せっかくのハイシーズンに旅行へ出かけてきて日本三名園を目の前にして、お腹がいっぱいになって満足したからってこのまま散歩と美術館だけで帰るのか?
GoogleMap先生に岡山駅からの道のりを確認すると、片道歩いて23分。年末年始の連休最終日の夕方だから新幹線はもう満席で、後ろにずらすことも出来ない、ましてや乗り遅れることも出来ない。お土産物色の時間も考えると30分以上前には戻ってきたい。
庭園にいられるのも30分となさそうだった。そのために行くか?そんなに庭園に興味あったのか自分?と根が生えそうな自分を、なんとか奮い立たせた。
もう間に合わなそうだったら復路でタクシー捕まえればいい。公共交通機関を使う選択肢もあったが、満腹で乗り場と時刻表を調べ直すのがひどく面倒だった。
道のりは大通りを一本まっすぐ行った先にある。城下町あるあるだ。後楽園は岡山城の脇にあった。
突き当たりの開けた公園に出て着いたぞ!と思ったところから遠かった。
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確かに20分で敷地内に辿り着いたはいいけど広すぎてまだ庭園入口にも立てていない。早歩きで入口の方向を指し示す看板に従うも、お堀の内円をぐるりと回る。
タクシー乗り場という看板が見えて「もう帰るか」という気持ちに一瞬なった。
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広い!美しい!寒い!
2025年の正月で最も速く岡山後楽園を駆け抜けたのは私だと思う。
入場料を払って突っ切り駆け抜けた。美しい曲線を描く小路に入ることも無く、文字通り走って抜けた。
庭園の中にいた何人かの観光客を追い抜き、団体客の間も潜り抜けた。
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本当に何をしに行ったのか分からないが、とにかく日本三名園のひとつを踏破することには成功した私は、帰路に着いた。タクシー乗り場に戻ろうにも、正門側まで辿り着くにはまたお堀の内側をぐるりと回る必要があった。
こういう時、行く道を考えるのが面倒になって、直線距離をひたすら歩こうとしてしまう。
とりあえず来た道どおりに戻れば確実に帰れる!
それは揺るぎない事実!安心安全!
というような体力を犠牲にした謎のリスク回避をする。もしタクシー乗り場まで順調に辿り着けたとしてもそこにタクシーが丁度いるとは限らない、その確率も未知数だ。
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とはいえまた徒歩23分の道を競歩か・・・・・・
と、岡山駅へ繋がる大きな一本道に戻った時に、恰好の手段が道路の真ん中にあった。路面電車だ。
路面電車に乗るのは生まれて何度もないけれども基本的にはバスのようなものと心得ている。向かっているのは岡山駅方面。「この周辺で岡山駅の方面に走りながら岡山駅で止まらないわけがない」ということは、いくらご当地名物を知らなかろうがどんなに土地勘がなくとも分かる。
車道の真ん中に駅があるのだからどちらの歩道側から行ったって乗れるのに、わざわざ左車線側への横断歩道を渡ってから、駅へ。確信していたとおり「岡山行き」と表示されている車両に乗ることができた。
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20分以上かかるはずだった道のりを5分で戻り、岡山駅ではじっくり土産を吟味することが出来た。
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余裕を持って乗り込んだ新幹線は、年末年始の大型連休最終日の夜で見事に満席だった。
もし岡山のことをもっとよく知っていて、よく予定を立てて来ていたら、どういう旅にしただろうかと反省しながら帰って来た。
まず時間が足りなかった。倉敷の洒落たカフェについて調べて目星をつけてくるべきだったし、ばら寿司のおいしいお店を探しておいて夕飯を挟みたかった。岡山には、もちろん岡山駅と倉敷以外の観光地もある。果物も豊富に取れるはずなのに一口も食べなかった。
次回訪れる機会があったら計画的に回らなくてはならない
と反省はしたが、こういう行き当たりばったりな旅が楽しいと思ってしまうので、おそらく治らない。