アスリートと国籍
東京オリンピックを控えてかねてから、注目されていたテニスの大坂なおみ選手の国籍選択が決まった。事前の予想では長年暮らしたアメリカを選択すると思われていたが、大坂選手が選択したのは生まれ故郷の日本であった。
尤も大坂選手ほどの人なら国籍にこだわることなくどこの国でも活躍できるが、スポーツとナショナリズムが結び付きやすい日本ではこの国籍問題は多くの人の関心が高かったといえる。
かっての冷戦時代や戦前は特に国威発揚のためにアスリートのメダル獲得数が国力を測るバロメーターとみなされたことがあったが今はそんな時代ではないだろう。
選手はみな国のためではなく、自分のために頑張っているのである。
それは決して悪いことでもないし、マラソンの円谷選手のように国の期待を一身に背負い悲劇的な終わりを迎えたようなことを繰り返してはならないのだ。
しかしそうは言っても国民はオリンピックで活躍する自国に選手を己と
重ね合わせて内なるナショナリズムを刺激されて、気持ちが高揚することも確かなのである。
戦前のベルリンオリンピックでは、日本選手としてマラソンに出場した孫基禎選手が載った東亜日報の写真の日の丸が塗りつぶされ、大変な問題になったことがあった。
孫選手にとって祖国はあくまで韓国であり、日本代表として扱われるのは我慢ならなかったようだ。
しかし時代は変わり選手はメダルが取れるなら、取れやすい国の国籍を
取るため祖国を捨てる選手が出てきたのである。
例えば1980年代から活躍している女性陸上短距離選手のマリーンオッティはジャマイカ出身で銅メダルを何度も取っているが、40歳をすぎて連盟の若い選手優遇に反発して、スロベニアに国籍を変更してアテネ大会に出ているのである。
また日本のお笑い芸人の猫ひろしが、マラソンでオリンピックに出るためにカンボジアの国籍を取得して物議をかもしたことがあった。
その逆に外国人が日本国籍を取得して日本選手として国際大会で活躍する
ケースも多い。例をあげると米国から帰化したバスケットボールのエリックマッカーサー選手、ラグビーでトンガ出身で日本に帰化したナタニエラオト選手、カナダ出身のアイスホッケー選手のクリスブライト選手らがいる。
さらにここ最近は日本人アスリートが外国籍を取得して、その国の代表として活躍するケースも目立つ。
フィギュアスケートの川口悠子選手はロシア国籍を取得して、2010年のバンクーバーオリンピックに出場して4位入賞を果たしている。
また男子体操の塚原直也選手はオリンピック出場のためにオーストラリア国籍を取得したが、選考にもれて出場はならなかった。
さらに卓球の浜本由惟選手がオーストリアに帰化して、代表として国際大会に出場しているのである。
そしてお隣の中国の卓球はレベルが高すぎて国内選考に勝ち抜けない
選手は、様々な国の国籍を取得してオリンピックを目指している。
こうなってくると果たして国籍とは何なのか?思えてくる。しかしこれだけグローバル化が進んでくれば、よりよい待遇を求めて人が移動するのは当たり前のことだ。
とするとアスリートの国籍変更はこれから始まる人間の大移動の前ぶれ
かもしれない。もちろんどの国にも帰化するにはハードルがありそれを
超えるのは容易ではないが、人間の移動を止めることはできないだろう。